STORY

ヒマラヤの麓、道なき道を駆け抜けろ! 「モト・ヒマラヤ 2022」#06

田中 誠司 ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ 2023.03.21

 
レーで久々に市街地の喧騒を楽しんだ次の日は、「天空の湖」と呼ばれるツォ・モリリを目指す。渋滞の酷さと排ガス臭さに嫌気が差したが、やがて片側2車線の舗装されたワインディング・ロードに抜けて、とても気持ちよく走ることができた。

ライダーの視線の先には、植生限界を超え、緑の存在しない山々が無数にある。最初のうちはどれも同じような茶色であるように見えていた。しかしずっと眺めていると、それぞれが人の顔のように表情豊かであることがわかる。

カットしたケーキのような断層にはふたつとして同じものはないし、岩に含まれるミネラルのせいか、色もそれぞれ違う。コバルトブルーだったりピンクだったりグリーンだったりブラウンであったり。その色彩は、この地方の名物であるパシュミナの色合いにも反映されているという。

photo: 河野正士

ターマック(舗装路)のちフラットダート、ときどき河渡り。

目まぐるしく変わるコンディションに対し、筆者のように経験が少ないライダーでも落ち着いて対応できるのは、ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤというモーターサイクルの懐の深さがなせる技だろう。

オフロード専門のバイクほど軽くはないけれども、十分に動きを制御できる自信を抱ける車体。酸素が薄い中でも安定して低回転から粘り強いエンジン。そして、ターマックでも快く走れるタイヤやサスペンション。どれをとっても手に余ったり、決定的に物足りなかったりすることがない。

最大の難所、渡河ショーにチャレンジ

本日の、というかモト・ヒマラヤのメインイベントが、膝丈まで浸かる河を数十メートルにわたって駆け抜けるパートだ。

大雨で橋が崩落して工事中の道路の脇を、イベント会場として利用しようというのである。河原の向こうにはランチストップが設けられている。

アジェやジェティンといったスタッフたちは難なく渡って行ったが、水面の下には無数の岩が転がっていて起伏が激しく、上から見ても路面の状況が判断できない。

先に挑んだ参加者のうち何人かは、大きな岩に出くわして倒れ、ヘルメットまで水没してしまった。さあ落ち着け自分。見えない岩に進路を乱されても、前へ向かう推進力を失わなければ転倒する可能性が低くなる。

路面からのキックバックを和らげるよう速度を抑えながら、半クラッチで高めのエンジンスピードを保ち、ハンドルになるべく体重がかからないように心がける。成功した前のライダーの進路も参考に。

着水から15秒ほどだろうか。夢中でバランスを取り、推進力を失わないよう集中し、やがて出口が見え、スタッフたちの拍手が聞こえた。落水せず走りきった!

“アトラクション”を終えてランチタイムを楽しむ。水没したライダーのサポートもしてくれた頼れるドクターは、少しでも時間があるとゴミ拾いに勤しむ仏様のような人だった。

“川遊び”を終え、再び目的地へ向けて走り出す。谷あいの道をしばらく走ると雪に覆われた山々が顔をのぞかせ、やがて美しい湖が見えてきた。

「アドベンチャー・バイクに乗って、絵画のように美しいハイウェイ、手つかずの湖、星空の下のキャンプ、世界で最も標高の高い道路を経験してみませんか」

招待状にあった、手つかずの湖とはここのこと。周囲に人工物は何ひとつない。こんな場所に我々をいざなってくれたモーターサイクルには感謝するほかない。

<つづく>

川遊びを終えると万年雪に身を包んだ雄大な山々が視界に入ってくる。
コルゾークのキャンプ地に着いて安堵するライダーたち。ここは周囲の6000m級の山々への登山口でもある。

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