ニコンFシリーズとF1トップ・フォトグラファーの対話 #06
本体以外の機材のはなし
PF編集部 ニコン 2022.10.30最近はすべて持ち歩く必要はない、とはいえ
F1のコースサイドで獲物を狙うプロカメラマンたちは、巨大な望遠レンズに重そうなハイエンドカメラを、しかも複数台抱え、ときには暴風雨や酷暑・極寒の中を移動する。そんなカメラマンの機材の話から今回はスタートする。
PF:70年代に撮り始められた時にコース上で持って歩かれていた装備と、それがどういう風に変遷していったのかを伺いたいのです。
金子:最初の頃は、カメラを全部持って、大きいカメラバッグに何から何まで全部背負ってコースに行っていました。でも80年代後半くらいからF1の世界にルール改正があって、主催者はプレスルームにこういう作業机を用意しなければいけないとか、こういうロッカーを用意しなければいけないとか、そういうレギュレーションができました。
それからは、その時持ち運ぶ必要のないものは全部ロッカーに収めて、使う機材だけ持って歩くようになりましたね。それで結構楽になりました。体力が落ちてきてたくさん持てなくなったというのもありますし。そういう主催者からのアシストが、今はたくさんあります。
PF:スタートの時や予選の時、表彰台の時では装備はかなり違うのですか?
金子:ピットに行く時はあまり大きいものは持って行かないようにしています。むしろ今大事なのは持っていく水の本数とか(笑)。あと、トイレがどこにあるかを確認しておかなければいけない。これ結構マジなんですよ。レース中、トイレの場所はチェックしておかないと。
自分の目で見えているように撮りたい
PF:昔のフィルムカメラの時に比べると、カメラの感度が上がったせいか、ストロボを持ってる人は減ったような気がします。
金子:減りました。僕は100%使いますけどね。最近は、ストロボなんか使ったことがないという人もいます。それはその人の作風であって、僕自身も、ストロボを使うことそのものは技術のメインではありません。
僕がなぜストロボを使うかというと、僕の目で見えたような写真を撮りたいから。「僕にはこういう風に見えてるんだ」そんなイメージがあって、それがたまたまストロボを使う作風に合っているだけで。
基本的にアクションシーンを撮る時も、ピットで静かなシーンを撮る時も、僕の目で見えている通りの写真を撮りたい。そのためにはストロボを使い、シャッター速度はこう、ってなります。特別な効果を出すことためではないんです。僕の目的のためにストロボに助けてもらってる。
「最近お前の写真、露出暗いぞ」って言われるとちょっとがっかりです。褒められてるのかばかにされてるのかわからないんだけど、色々言われます。それはしょうがないんだよ。僕にはこう見えているんだから。こう撮るんだと。
「僕はこれくらい暗く撮りたい、そのためにカメラの設定をこうする」というのを表現できるのがきっとカメラとの会話だと思う。レンズをこれくらい絞るとか、説明書には書いてありません。でも僕はこれくらいで撮りたいっていう自然な会話がきっとフラッグシップのカメラであれば何となく通じるんでしょう。
PF:雨が降ると壊れたりすると思うのですが、そういう時はどの機能から壊れるものなんですか?
金子:シャッターが下りないことなどがあります。ちゃんとカッパを着る人もいれば、プロ用のカメラだから雨を浴びても絶対止まらないよと言って全然気にしないカメラマンもいるけど、僕はちゃんとカッパを着てカメラを大事にしていましたね。カッパとセーム革をすごく大量に使っていました。セーム革は良かったです。
それでもやっぱり、土砂降りになると「頼むよ!」ってなります。「止まらないで」って。ずっと会話なんだよね、お願いみたいなもの。そういう話をカメラとできるのも嬉しいんです。
PF:ボディやレンズはどれくらいの周期で入れ替えているのですか。
金子:バブルの頃はボディは消耗品でした。F3は15台も買った。本当に使いまくった。マニュアルフォーカスのカメラと僕の力量と経験とがちょうど良かったんですね。今は壊れなくなったので、そんなに頻繁には替えないです。
それと今はハイエンドのカメラが高くなりました。ボディが80万円とか90万円する。昔、F3は15万円くらいでした。よくこんな高いものをフリーカメラマンが買えるな、と思います。