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「みんなのクルマ」VWの現代的解釈

田中誠司 フォルクスワーゲン T-Cross 2024.11.29

フォルクスワーゲンの「T-Cross」は、2019年のデビューからコンパクトなサイズとポップなデザイン、安全装備の充実により、日本を含む世界各地で高い人気を誇ってきた。日本市場においても、その取り回しの良さや豊富なカラーバリエーションが評価され、特に若年層や女性に支持されている。2020年から2022年にかけては、輸入SUV登録台数で3年連続No.1を達成し、フォルクスワーゲンのSUVラインアップの中でも重要なモデルとなっている。

従来モデルが持つ特長をさらに強化し、デザインや技術、安全性の面で全方位的に進化させたという、マイナーチェンジを受けた新型T-Crossに試乗した。

T-Crossの人気の理由として、まず挙げられるのがそのコンパクトなボディサイズである。全幅1.8メートル未満というサイズは、日本の狭い道路でも扱いやすく、都市部での駐車や取り回しがしやすい。このサイズ感は、日本市場でコンパクトSUVの需要が高い背景にマッチしており、多くのユーザーに支持されている。また、T-Crossは力強いSUVらしいボクシーデザインに加え、遊び心のあるデザイン要素がうまく融合しており、若々しさと都市的なスタイルが調和している点も特徴的だ。

外観デザインにおいては、フロントグリルやヘッドライトが水平基調のデザインに刷新され、ワイド感が強調されている。特にフロント部分は横一線のラインが強調され、ヘッドライトが車の側面にまで回り込むことで、力強く広がりを感じさせるデザインとなっている。テールランプには3DデザインのLEDが採用され、立体感のあるダイナミックターンインジケーターにより視認性が向上している。

内装面では、全グレードでデジタルコクピットが標準装備され、メータークラスターは8インチからオプションで10.25インチまで拡大可能。また、インフォテインメントシステムも改善され、タブレット型のディスプレイが採用されることで、視線移動を最小限に抑え、安全性と快適性が向上している。さらに、ダッシュパッドにはソフト素材が使用され、ステッチを施すことで高級感を演出している。

積載性についても優れており、リアシートにはスライド機構が備わっているため、荷物に応じてシートを前後に動かすことができる。これにより、ラゲッジスペースは通常で455リットル、リアシートをすべて倒すと最大1281リットルまで拡大できる。このように、コンパクトSUVでありながら実用性をしっかりと確保している点もT-Crossの強みである。

新型T-Crossには、3つの異なるグレードが用意されている。

もっともベーシックなエントリーモデルである「TSI Active」では、基本的な運転支援システム「Travel Assist」や「Lane Assist」が標準装備されている。LEDヘッドライトと標準的な16インチホイールが装備され、価格は320万円から。昔の感覚だとなかなかのお値段だ、という気がするが、競争力を重視した価格設定、とVWは謳う。

「TSI Style」は中間グレードで、LEDマトリックスヘッドライト「IQ.LIGHT」や、運転席・助手席のシートヒーターが標準装備されている。さらに、スポーツコンフォートシートや17インチアルミホイールが装備され、内外装ともに上質さを強調したデルである。価格は359万9000円。デザインパッケージを追加することで、内装をよりカラフルで個性的に変更することも可能だ。

最上級グレードの「TSI R-Line」は、スポーティな外観と専用のエクステリアデザインが特徴である。フロント・リアバンパーやサイドスカートがボディ同色に変更され、18インチの専用アルミホイールが装備されている。また、スポーツシートやドライブモードの切り替え機能が追加され、さらに高いパフォーマンスと快適さが提供されるモデルである。

新型T-Crossは、これまでのモデルに比べ外観、内装、技術、安全性においてユーザーにさらに魅力的な選択肢を提供している。特に、日本市場ではその扱いやすいサイズ感や、多彩なカラーバリエーション、充実した安全装備によって、幅広い層の消費者にアピールする。

VWらしく頑丈なボディとシート

フォルクスワーゲンT-Cross Rラインに試乗した感想を述べていこう。まず、このモデルは基本的にポロのプラットフォームを使用し、SUVらしく車高を高めた構造を持つが、単にコンパクトカーを底上げしただけでなく、車内に天地の広さが感じられる点が特徴的だ。

Rラインというグレードはスポーツ性を強調し、インテリアにはブラックのトリムが施されている。ただし、全体的なクオリティ感はコンパクトカーの範疇に収まっている印象を受ける。

シートに関しては、フォルクスワーゲンらしい、コンパクトカーの水準を超えた優れたサポート力が保たれている。しいていえば、肩の部分のサポートが少し弱い。腰の部分がしっかりしているのに対して、上半身全体のサポートがもう少し充実しているとより快適だと感じる。

走行性能に関しては、7速DSGのギアボックスが独特な振動をわずかに残しつつも、低速からの発進が非常にスムーズで、クラッチの繋がりに関する不自然さは過去モデルよりも大幅に改善されている。パワーステアリングの操作感も現代的で滑らかだ。

Rラインのボディは下部まで同色で仕上げられている。統一感があるとはいえ、縦に厚みが増して見えると捉える人もいるだろう。乗り心地の観点では、ホイールベースが短く、車高が高いため、操作に対するレスポンスの敏捷さは感じられるものの、やや落ち着きがない印象を受ける。18インチのホイールは少し大きすぎるかもしれず、もう少し小さなホイールでも十分かもしれないと感じる。

荒れた路面を走行した際でも、ロードノイズの遮断性は良好であり、ボディ剛性の高さが感じられる。T-Crossは頑丈な、長期的に安定した性能を発揮できるクルマであると評価できる。

本質は受け継がれる

ポップなカラー、充実した装備などに彩られ、多用途性を強調しているT-Crossだが、本質的にはフォルクスワーゲンらしい親しみやすさと質実剛健、信頼感を、そのまま強みとしたモデルだ。

いまどきのオーナーは、一台への思い入れなどにはとらわれず、残価設定型ローンなどを活用しながら、その時々の家庭や経済の事情、そして流行に応じて要領よく買い替えていくのだろう。

オーナーの心持ちにかかわらず、しっかりと作り続けられているT-Crossは、使うひとの生活に安心を届けてくれるはずだ。昨今、ドイツ本国では販売不振によりVWの経営基盤が揺らいでいる、との報道もあるが、どうかそうした信頼感だけはずっと守り通してほしいし、そうしたブランドにとってコアの部分が失われることは当分、ないだろう。

試乗の合間にライフスタイル・ワークショップが用意されており、いくつかのプログラムのなかから「金継ぎ」を選んだ。家族から受け継いだ醤油の小皿がちょうど欠けていたので持ち込んだ。速乾性の高い2液性のパテで割れ目を埋めて、ヤスリをかけて真鍮の粉をまぶした樹脂を塗り、さらに最後は金箔で仕上げる。多少どこかが欠けたとて、直せば延々と使えるじゃないかという価値観は、VWブランドとの親和性を感じさせ、楽しくも心温まる企画だった。

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