1/1組み立てキット、発進!Der FREIRAUM デアフライラウム “自由な余白”♯29
シャレにならない工程。
ライター:横川謙司 / フォトグラファー:平林克己 フォルクスワーゲン・ゴルフ 2025.07.14Automobile Council 2025が終わり、ひとまずの山を越えたProject Caddy。今回は時間軸を少し遡って、前回書き切れずにいた塗装の最終工程、そして始まる組み立ての様子を綴りたいと思います。
まずお伝えしたいのは、兵庫県尼崎市「中央自動車鈑金工業所」のこだわりぶり。前回、美しく整えられた下地の上に深い紅のペイントが塗られ、クリアコートまで施されたボディ。そのまま乾燥させて組み立てに進む、と私は思っていました。しかし、本塗装の翌日私が目にしたのは、多くのスタッフの手でくまなくサンドペーパーで磨かれているCaddyの姿でした。昨日あんなに綺麗だったのに、全身真っ白です。リヤゲートのVOLKSWAGENのプレス文字周りも徹底的にサンディングされているではないですか。
「もう一度塗ります!」……凄い。プロ中のプロの、クオリティにかける熱量が半端ではない。

ピカピカのツルツルだったボディは、再び塗装ブースへ。今度こそ、今度こそ「本塗装」なのだろうか……。調色室では、たっぷりと"ガンビアロート"が作られ、スプレーガンに込められます。容量いっぱいのガンは結構な重さで、片手で持ち続けて塗装するには腕力と体幹の強さが求められます。ボディ、ボンネット、ドア、フェンダー、そしてリヤゲート。小ぶりなCaddyのボディでも、数回に分けて塗ると色味に差が出てしまうということで、なんと、工房の4つの塗装ブースをCaddyが占拠し、一台分のパネルが一気に塗装されていきます。

ベテランから若手まで、スプレーガンを片手にCaddyを染める4人のペインター。しばしの乾燥工程を経て、最新のプレミアムシリーズ・クリアコートが吹き付けられると、ボディは見る見るうちに深いツヤを湛えます。このクリアは、ペインターの方々も今回初めて使うもので、Project Caddyが日本初と言っても良いくらいの最新塗料。このために,事前に習熟トレーニングまで実施されたそうです。万一垂れてしまうなどすると、下地まで磨いてやり直さねばならぬ、と言うことで、これまたチャレンジではあるのですが、そこはプロ。問題なく美しい塗膜が形成されました。狙い通りの……いや、思った以上の色でした。当時のカタログ表紙のイメージカラーであり、トラックなのにちょっと洒落た佇まいを見せてくれるガンビアロート。小ぶりなCaddyがひときわ可愛らしく見えます。


ついに、ボディ塗装が完了しました。外はすっかり陽も落ちた工房、終業時間も迫る中、乾燥を終え塗装ブースのシャッターが上がってゆくと、塗りたてのCaddyが姿を現しました。一つの傷も凹みもないボディ、美しく映り込んだブース照明。スタッフの皆さんが集まって来てCaddyを取り囲みます。

自分が手がけたボディパネルは特に気になるのか、じっと見つめる方、美しい艶にうっとり見入る方、いま一度ライトの反射で平滑性を確かめる方……それぞれがかけた時間と手間を思い出されているかのような表情。満足感と誇りが笑顔になって並び、記録写真を撮り続けてくれている写真家が記念の一枚を収めてくれました。

本当にありがとうございます。美しいカラーを纏ったボディに、これからエンジンを始めとする膨大なパーツを取り付け、自動車を丸々一台組み上げる工程に進みます。
組み立ては自分で!
塗装完了から少し時間をおいて、冷たい真冬の空気の中、組み立てに向けた準備が進みます。広いスペース、そしてリフトやエアツールという、個人では到底用意できない贅沢な空間で組み立てさせていただける幸せ。中央自動車鈑金工業所の皆さまには感謝しかありません。
床一面に広げられた数百点に上る部品。マフラーやフロントガラスなどの大きなものから、一見何に使うのか分からないような奇妙な形の部品、ほとんど見分けのつかない、でも、細かく分けられたボルトやワッシャー類……プラモのように説明書があるわけではないので、想像力をフルにしながら「自動車の組み立て」開始です。

メカに精通した中央鈑金工業所の若いスタッフが助けてくれることになり、一安心。大まかなプランとしては、まず足回り、タイヤを装着し、転がせるようにするのが先決。次いでエンジンを載せ、ブレーキやワイヤハーネスをインストールします。
まず最初に取り掛かったのは、ステアリングリンケージの取り付け。前輪の操舵に関わる部分は、多くのパッキンやブッシュを新品に交換。ステアリングシャフトと連結されスムーズに動くかを確認しながら組み付けます。ステアリングを回せば前輪が動く、そんな当たり前のことに感動します。次いでシフトロッドの部品を装着。並行して、エンジンの組み立ても進みます。バラバラにしてオーバーホールを済ませたエンジンブロックに、インテークマニホールドやディストリビューターなどをつけていきます。
続いて、特徴的なリヤのリーフサスペンション、フロントのディスクブレーキ周りなどを組み立て、装着。新品パーツで組まれてゆく様子は新車の輝きです。それにしても、フロントサスペンション周りの部品点数の多さよ……操舵と駆動の両方を受け持ち、かつ激しい上下動に耐える箇所だけに強さと繊細さが共存しています。これほどサスを観察したことなどなかった。ここで、2024年が終わりました。
こちらに運び込んでから、1年半が経過。そして迎えた2025年。数ヶ月後にAutomobile Councilへの出展、という目標があります。工房は新年早々からCaddyのために1日前倒しで仕事を始めてくれました。頭が下がります。
特に錆びて状態がひどく、新品も手に入らなかったリヤバンパー、鈑金チームの皆さんが仕上げにかかっています。穴の空いた部分は鉄板で作り直し、折れたボルトを溶接で復活させ、見違えるような姿になったリヤバンパーがペイントチームに引き渡されます。


さて、ボディの方も、どんどん組み立てが進みます。リヤアクスルやドラムが取り付けられ、ブレーキシューの組み立て、サイドブレーキケーブルの引き通し、ブレーキパイプの取り付けなどが進行。フロントハブも取り付けが済み、いよいよタイヤ&ホイールの装着を待ちます。

今回、1980年代の姿にふさわしいタイヤとして、Michelin Japan様より「XASシリーズ」をご提供いただきました。このタイヤは、当時のトレッドパターンやサイドウォールのデザインを再現したクラシックシリーズで、このくらいの時代の旧車にピッタリな雰囲気です。Volkswagen尼崎さんの協力でCaddy純正ホイールに装着されたタイヤが、満を持して真新しい足回りに組み付けられました。
ゆっくりとリフトが下げられ、大地に降り立つCaddy……感動の瞬間。自動車のフルレストアにはとんでもない手間がかかることを実感しました。
フレーム状態で手に入れたこのCaddy。多くの人の協力がなければ、私のような素人にはどうすることもできませんでした。それが今、4輪で自立するところまできました。ここからは、エンジン搭載、ハーネス装着、カーペット、シート、内張りなどのインテリア施工……気が遠くなるような工程がまだまだ控えています。
完成まで、いましばらくお付き合いください。



