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100マイラー・佐々木 希のトレイルランニング・ギア選び #01 メレル・アジリティピーク4

佐々木 希 メレル・アジリティー ピーク 4 2024.04.10

舗装路から岩場、ぬかるみまでさまざまな路面で構成されるコースを、刻々と移ろう天候や気温に対処しながら延々と走り続ける「トレイルランニング」には、優れたアイテム、マテリアルが不可欠だ。「決して諦めなければ、私は160kmを駆け抜けられるのだ。」そんな決め台詞で完結する、ULTRA-TRAIL Mt.FUJI 2023 参戦記を寄稿してくれた“100マイラー”佐々木 希選手が、自らのトレイルランニング・ギアを紹介する連載を開始する。

私もトレイルランニングを始めたい。となったら、専用のギアやウェアなど、数え切れないほどのアイテムがある。そんな中でも、とりあえずこれだけは必要、と言ったら、まずはトレイルランニングシューズだ。

各メーカー・ブランドがイベントや講習会、あるいはトレイルランニングベースでレンタルできる機会を設けているので、購入を迷うならまず借りて試してみるのもよい。

(上)もはや履く出番もおそらくないのだが、なかなか捨てられない相棒たちも並べてみた。(左)靴が脱げそうになるほどの泥濘を走ることも。(右)一度の山行で、色々な表情の路面を踏むことも多い。トレイルランニングに臨む際は、必ずコンディションを予習して、どの靴が合うか決めて持って行く。

路面と直接コンタクトするシューズが何より重要

ロードと違い、トレイルランニングで走る場所は未舗装のトレイル(山道)。トレイルはその山や土地の性質、季節、気象条件によってサーフェス(路面状況)も様々だ。岩場の多い場所、ぬかるんで滑りやすい場所、川や水たまりを突破する渡渉、落ち葉、雪、など、危険な場所はいくつもある。

参加者同士がタイムを競うトレイルランニングの大会では、必携品にトレランシューズを明記していることも多い。専用のシューズでなければ危険度が増すからだ。トレランシューズは、ランニングシューズのような軽量、柔軟性と、ハイキングシューズのような耐久性、未舗装路でもしっかり地面を捉えるグリップ力を兼ね揃えている。

一度に走る距離の長さ、路面の状態、足への負担の大きさ、防水性の必要の有無などから目的に合うものを選ぶ。ソールの素材や形状、クッション性、速く走るための反発性など、タイプは様々、ブランドも多数ある。

さらにチェーンスパイク(雪道での滑り止め)、ショートゲイター(砂、小石、雪、泥などがシューズの中に侵入するのを防ぐ)といった、シューズを補助するアイテムなどを使うことで、様々な状況のトレイルを走ることができる。

(左)雪道には、靴の上から簡単に履けるチェーンスパイクを装着する。多少重くはなるが、これで走れる。雪や泥をよけるゲイターも装着。(右)靴に被せているのは、足首までのショートゲイター。砂や小石の侵入を防ぐ。たとえば、富士山を勢いよく下る“砂走り”には欠かせない。

筋トレにハマっていた9年前、脚のトレーニングの一環として、山登りも取り入れだした。その時履いていたのは、ランニングシューズ。次第にスピードも上がり、下りは小走りするように。しかし、まあよく滑る。滑って怖いから腰が引けて思うように走れない。これはいよいよ、トレランシューズの出番だな、と登山用品店で特に相談もぜずに見た目と値段と履き心地で買った初代シューズは、ブルックス「カスケディア」だった。なるほど、ランシューよりは滑らなくなったが、それでも滑るときは滑るものなんだなと認識した。アッパーに穴が開き、次の靴が必要になった頃には、独学ではあるが、トレイルランニングをしています、と言える程度に走れるようになっていた、つもりだった。今思えば、全く身なりも装備もなっていなかった。

2代目は、ショップの店員に相談して薦められたコロンビアモントレイル「カルドラド」。当時は、一度に10km以上走っただけでも、すごいと思うレベル。経験も少ない、技術もない。靴の良し悪しの観点は、滑るかどうかでしかなかった。

(左)初代カスケディア。アッパーが破けるまで履いていたが、特にこだわりも思い入れも当時なかったので、何km履いたのかも不明。(右)左のランニングシューズも、右の二代目トレランシューズも、初めてショップで足を見てもらって相談して購入。

レースに目覚め、複数のシューズを使い分けるように

2020年から、本格的にトレランを始め、シューズも真剣に選ぶように。山へ出かける頻度も増えて、もう1足だけでは回らない。クッション性がよく、グリップもなかなか優れたオールラウンド、ミドルディスタンス向きのサロモン「センスライド3」を2足に加えて、仕様のまた違う靴も試そうと、ラグの深い「スピードクロス4」の3足で回した。

ラグとは靴底についている滑り止めのこと。ラグが深めだとぬかるみに強い一方で、荷重がかかっても接地面積が少なくなるゆえ、つるっとした岩場の路面などは滑りやすい。

やがて、出るレースの距離も伸びてきて、ミドルディスタンス(50km〜)向けの靴で長距離を走ると疲れてしまうことに気づく。そこでロングディスタンス(80km〜)向けのサロモン「ウルトラグライド2」、メレル「アジリティー ピーク 4」を2足購入した。

サロモン3種類を履き比べると、なるほどそれぞれメーカーが言うように、その特性が実感できる。スピードクロス4は、買ってはみたものの、限られたサーフェス向きなので出番は少なかった。その後、気に入っていたセンスライドの新作「センスライド4」を2足追加。昨年はセンスライド4、ウルトラグライド2、アジリティー ピーク 4を主に使用した。

メレル・アジリティー ピーク 4はサロモンと履き心地が全く異なり、硬めでホールド感がある。何より、ソールにVibram社の「megagrip」を採用しており、すごいグリップ力でなかなか滑らない。形状としては、ドロップ(ソールのつま先とかかとの厚みの差)がセンスライドより2ミリ小さいので、前のめりになることがなく、地に足がしっかりついている感がある。かかとが浅めで足を捻りそうな不安感はあるものの、意外にぶれない。ただ、自分の足のかたちや走る姿勢との相性なのか、長時間履いていると若干疲れやすい、とは感じる。

(上)南アルプスは花崗岩の砕けた砂地が多い。写真は百名山、甲斐駒ヶ岳。土、岩場、砂場、と変化に富む。靴はオールラウンド向きを選択。(左)こんな急な岩場も。トレランは身軽なので、ソールも柔らかい。重い荷物を背負う登山スタイルは、荷重に耐えられるよう、泊数に応じてソールの硬さなど変わってくる。(右)大会前日の部屋の下駄箱に並んだ仲間のシューズ。事前に、どのシューズで行くか相談することは多いし、走ったあとの反省会でもシューズのことは必ず話題になる。

走行1000kmで履き潰した「アジリティー ピーク 4」を再び投入

靴の情報の仕入先は、主にインターネットのトレイルランニングのウェブサイトや、シューズメーカーのサイトや店頭のスタッフ、そして周りの友人から。同程度の練習量の仲間を見ていると(年3000kmラン、トレランレースに年5本位出場)、メーカーは私と同じように2〜3種類、その中でタイプ別にいくつか、平均で3〜4足を使いまわしている。「このメーカーは合わない」というケースは誰しもあるので、とにかく履いて比べるのがよい。

トレランシューズの寿命は、さまざまに言われるが、平均500kmのようだ。シューズごとに、走行距離を記録して管理しているランナーもいるが、私は穴があいたり、破れたり、劣化が著しくなって限界が来るまで履いている。アジリティー ピーク4で言えば、昨年1年で1000kmは走ったと思う。

去年のULTRA-TRAIL Mt.FUJI 2023にはサロモン・ウルトラグライド2で参戦して完走したが、今年のMt.FUJI100(ULTRA-TRAIL Mt.FUJIから名称変更)には、新調したアジリティー ピーク 4で参加しようと思う。先日、それまで履いていたアジリティー ピーク 4を新品と見比べて、あまりの差に驚いた。寿命をはるかに超えた靴は、足にはかなりの負担だろう。今後はもう少し早めに交換しよう。

(左)走行距離1000kmと0kmの差。(右)最近滑ると思ったら(笑)こんなに減っているとは……

インソールとソックス選びも大事。シューズとの相性もあり、持っているアイテムで、このシューズとこのソックスは合わない、なんてこともある。買った時についてくるオリジナルのインソールはメーカーが靴に合わせて開発しているので、そのまま使うのもいいし、よりパフォーマンスを高めることを狙って、他のインソールを入れて試すのも良いと思う。

トレランシューズ次第で、トレイルランニングの楽しさも変わる。それくらいシューズ選びは大事。またこの足が喜ぶ一足に出会えるのが楽しみだ。

自分の足に合っているのは必須条件だが、好きな色、デザインで自分の気分を高めることも大切だ。(上)ロード用ランニングシューズに合わせて購入したインソール、「スーパーフィート・ブラック」は、トレランシューズ用としても活躍している。

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