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国内最高峰二大レース、鈴鹿が教えてくれたもの

J.ハイド 2026.01.29

昨年8月、鈴鹿で行われた2025 AUTOBACS SUPER GT Round5は、レース結果も気温も、記憶に残る“熱”を帯びていた。そして11月の2025 全日本スーパーフォーミュラ選手権は、秋の鈴鹿の凜とした空気の中で、年間チャンピオンが決まるまで、2日間で3戦という激しい闘いが繰り広げられた。 日本が誇る伝統のサーキット、鈴鹿で体験するモータースポーツの今を、本誌フォトグラファーのJ.ハイドがレポートする

photo: J.ハイド 昨年夏の鈴鹿は抜けるような青空と猛暑。しかしそれ以上に観客の熱気も印象的だった

昨年夏の週末、鈴鹿サーキットは皮膚を焼くような空気に包まれていた。8月24日、2025年のSUPER GT 第5戦「SUZUKA GT 300km RACE」。猛暑にも関わらず、多くの観客がスタンドとピットウォークに詰めかけ、サーキット全体がひとつの大きな祭りのようであった。


公式発表では、前日を含む2日間で約48,000人の動員数を記録している。
GT500クラスでは、23号車 MOTUL AUTECH Z(千代勝正/高星明誠)が52周の決勝を制し、日産陣営の強さをあらためて印象づけた。

photo: J.ハイド 優勝は終始安定した走行を見せた千代・高星の駈るMOTUL AUTECH Z。カーナンバー”23”の由来はニッサンから

灼熱の体験、時代の変化
さ

GT300クラスでは、7号車 CARGUY Ferrari 296 GT3(ザック・オサリバン/小林利徠斗)が優勝。最後まで緊張感の途切れないレース展開に、スタンドからは大きな拍手が送られた。

その真夏の鈴鹿は、エンジンの轟音だけでなく、人々の熱気、歓声、興奮――それらが渾然となって独特の空気を生み出していた。

ピットウォークでは、ドライバーの存在そのものにカメラを向ける観客の姿が目立つ。近年、SUPER GTでは若手ドライバーはもちろん、女性ドライバーの参戦も定着しつつある。
その存在が新しい観客層を確実に呼び込んでいることも、現地の空気が物語っていた。

photo: J.ハイド セッテイング次第では、コーナーで火花が飛ぶ。クラス優勝した7号車 CARGUY Ferrari 296 GT3が着実に先行車を追い詰めてゆく

レースを“観る”という行為が、単なる順位確認ではなく、チームとドライバー各々の物語を追体験する時間へと変わっていく。それは、SUPER GTが長年積み重ねてきた文化であり、同時に、今まさに時代に更新されつつある魅力でもある。

最終日、決勝のチェッカー後に迎える勝者の雄叫び、歓喜に湧くチーム、そしてその充足感をともに共有する観客。その瞬間の高揚は、テレビやモニター越しの数倍も濃密で、身体に打ち込まれるような衝撃があると言える。

秋、前代未聞の2日間

photo: J.ハイド 秋のスーパーフォーミュラ最終戦。2日間で決勝3回の密度はこれまでにない濃厚な物だった。

季節は移り、11月。風は冷たくなり、鈴鹿の空気には透明感が戻っていた。
11月22日から23日にかけて行われた「全日本スーパーフォーミュラ選手権 最終大会JAF鈴鹿グランプリ」。富士スピードウェイで予定されていた第10戦が濃霧により中止となり、その代替を含め、鈴鹿では2日間で3レースという異例のスケジュールが組まれた。

photo: J.ハイド 前年度チャンピオンの坪井翔。安定感は抜群だが、今回はキレが欠けたように感じた。

順序も11戦、10戦、そして最終の12戦と変則的になる中、タイトル争いは土曜・日曜を通じて、息つく間もない濃密な週末となった。
まず11月22日(土)に行われた第11戦。このレースを制したのは野尻智紀(TEAM MUGEN SF23)だった。
安定したペースと冷静なレース運びでトップチェッカーを受け、2位にイゴール・フラガ、3位に牧野任祐が並んだ。TEAM MUGENとナカジマレーシング、伝統の2チームのせめぎ合いが、タイトル争いの緊張感を一気に高めた様相だ。

一夜明けた11月23日(日)午前、第10戦(代替レース)。ここで流れを変えたのはイゴール・フラガだった。イゴールは序盤から主導権を握り、牧野任祐を抑えて優勝。加えて、3位には岩佐歩夢が入り、チャンピオンに届くポイントを獲得。
年間タイトルの行方は最終戦までもつれ込むことになる。

photo: J.ハイド 第11レースを制した野尻智紀と第10レースを制したイゴール・フラガ。特にイゴールは3レースともに表彰台という快挙で、次シーズンへの期待は増すばかりだ

そして遂に迎えた同日午後、第12戦・最終戦である。ポールポジションからスタートした岩佐歩夢(TEAM MUGEN SF23)は、一切の迷いを見せなかった。31周を走り切り、堂々の優勝。この瞬間、2025年シーズンのドライバーズチャンピオンが確定した。
2位には再びイゴール・フラガ、3位には大湯都史樹が入った。鈴鹿のスーパーフォーミュラは2025年、最後まで緊張感を手放さなかった。

シリーズチャンピオン決定に向けて決勝が3戦、しかも順番が変則的という目まぐるしい2日間。この週末は、スーパーフォーミュラというカテゴリーが持つ「速さ」だけでなく、「判断」と「持続力」の価値を、これ以上ないほど雄弁に物語っていた。
スーパーフォーミュラ2025年シーズン全体では、累計来場者数が 263,900人 に達し、記録を更新。最終戦の鈴鹿3日間だけで約 69,200人 が集まったという。

会場に流れる空気は、夏のSUPER GTとはまた違う質感だった。エンジンによる轟音はあるものの、SUPER GTのような喧騒は少ないように感じた。

代わりに、観客は集中してマシンの動きを見守り、オーバーテイク、ブレーキング、コーナーへの切り返しなど、タイヤが剥き出しのフォーミュラマシン故にわかりやすい、ドライビングの“技”に息をのんでいるかのようだった。
マシンが消えた少しの静寂のあと、トップがホームストレートに再び姿を現し、群衆の息が一斉に高鳴る。その緊張と解放の波も、スーパーフォーミュラという競技の美しさを際立たせているのだ。

photo: J.ハイド 野田樹潤の走りにはキラリとした片鱗があるがレース後半になると何か精彩を欠く様子が見えた。逆に岩佐歩夢は後半から対照的にドンドン良くなっていく印象で、年間チャンピオンを手中にした

次に鈴鹿を訪れるあなたへ

テレビ、ストリーミング、SNS、それらは情報としてはとてもリッチだ。タイム、順位、順位変動、ピットストップ、周回タイム、だが、そこには「空気」は写らない。風、匂い、そして、予期せぬ一瞬、オーバーテイクに起きる歓声も。
サーキットで観ることは、ただ「レース結果」を知るのではなく、「体験」をすることなのは言うまでもない。そして、それこそがモータースポーツの「リアルな非日常」を味わうことだと思う。
もちろん誰もが結果は早く知りたい。だが、現地でしか知ることができない共有した「空気」は、その瞬間でしか味わえない。
あなたが次に鈴鹿へ足を運ぶなら、たまにはこんなプランもお勧めしたい。
サーキットに朝早めに行くと、パドックやピットでスタッフが熱を持って動き出し、巨大なスタンドが陽に照らされながら少しずつ埋まりはじめる独特の息吹がある。それはレース本番が始まる前にある、もうひとつ鈴鹿の非日常の物語だ。
間も無く、SUPER GTもスーパーフォーミュラも、新しいシーズンがスタートする。次の鈴鹿のレース、あなたにも、この空気を、ぜひリアルで体験してほしい。

photo: J.ハイド レース終了後のヘアピン。ドラマを受け止めた路面の輝き、遠くの山並み、朝も夕景も美しい鈴鹿らしい光景だ

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