STORY

木・金だけ開く、神田の異空間

PF編集部 ムーンシャイン カルチュラルブティック 2022.06.11

神田にセレクトショップの不思議

神田という街に、ぼくも少しだけ仕事で出入りしていたことがある。真面目に働き、学び、仲間たちとそのままそこで鬱憤を晴らして帰るような印象がある。原宿とか自由が丘とは対極にあるようなこの場所に、友人のひとりがギフトやファッションのセレクトショップであり、バーでもある店をオープンした。

JR神田駅のあるガードから路地を一本入ったところ、築50年はゆうに過ぎているだろう、古いビルの階段を登っていくと、「現金は事務室には絶対に置かないで下さい 管理人」という札が踊り場に下げてある。

この建物で、合ってるよね? という疑念が一瞬過ぎったところで背後を見ると、洒落たエントランスがある。

photo: Seiichi Hashimoto, Seiji Tanaka

「ムーンシャイン カルチュラルブティック」は、道田有妃さんが率いるクリエイティブ・コンサルティング企業であるマーチングバンドにより、今年4月21日にオープンした。

道田さんは、スポーツブランドを中心にマーケティングを手掛け、世界中を巡ってきた経験と、そこで出会ったモノとヒトとにインスピレーションを得て、化粧品、ファッション、インポート・ビール、地方の映画館などさまざまな分野のブランド・ビルディングや商品企画、輸入販売などに携わる、活動的な人物だ。

ぼくは元々、彼女の父上と仕事で接点があり、何かのイベントで挨拶を交わした。何年か経って、道田さんが立ち上げに関わった「THREAD, MOUTH AND THE MOON」(スレッド、マウスアンドザムーン)と名付けられたメンズウェアのローンチに呼んでいただいたのが、このビルを訪ねた最初の機会だ。

スレッド、マウスアンドザムーンは、綿をベースにシルクを織り交ぜたとても肌触りのよい生地を、カットソーやアンダーウェア、スウェットなどのコンフォートウェアに用いる。素材が素材だけに、決して安くはないけれども、本当に着心地が良いし、他のアイテムとかち合わない控えめなデザインも素晴らしく、すっかり手放せないアイテムになってしまった。

そういうものを送り出す道田さんが推すアイテムの数々が、ムーンシャイン カルチュラルブティックには集っている。道田さんは、「つくり手と私たちが直接つながっているものだけを置いています。最初は直感で『良い』と思えるものの背後には、語るべきエピソードが必ずあるのです」と言って、いくつかのアイテムを紹介してくれた。

photo: Seiichi Hashimoto, Seiji Tanaka

およそ10のブランドに籠められた思いとストーリーは、香り成分を豊富に含んだ日本固有の香木を煮出した「くろもじ茶」とそのカクテル、ヒューガルテン・ホワイト、ナチュラル・ワイン各種などをオーダーできるカウンター・バーで一杯やりながら聞くといいだろう。いい具合に黒光りするカウンターの一枚板は、インドネシアの古い漁船を解体した廃材だ。広い世界のなかの、会ったこともない人、行ったこともない場所のイメージを増幅させる。

展示されるアイテムのひとつひとつが、道田さんとスタッフの思いとセンスを象徴している。気の利いたミュージアム・ショップにワープした気分になる。

ウィークデーの終わりを、モノたちと静かに語らいながら過ごすにはうってつけの場所である。

photo: Seiichi Hashimoto

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