新型クラウン雑感
田中 誠司 トヨタ・クラウン 2022.07.21発表会の現場より
普段、催し事にはできるだけ顔を出さないようにしている私だが、取材に行ってくれと頼まれれば断らないし、できるだけ入念に取材して帰ってくる。終わったあとは喉がカラカラだ。
7月15日、トヨタ・クラウンの発表会に出向いた。新型車の概要はどこかのニュースメディアで見ていただきたい。ここではPFの視点で紹介する。
4種類、これから1年半かけて投入されるというボディバリエーションは、口をつぐんだイルカのようなボンネット先端とそこから連なるLEDヘッドライトという構成だけは共通だが、あとのボディパネルはすべて独自に作られていることにまず驚く。ボディサイドのキャラクターラインが走る位置は各車各様で、前後バンパーまわりの処理もすべて異なる。昔は、兄弟車といえばできる限りボディパネルを共用するのがコストダウンに最も効果的とされてきたが、いまは同じファミリーを名乗りながらも微妙に全部変えてくるのがオーナー同士の差別化に効くという。
逆の目線から見ると、これほど多様性を作り出そうとしている中でも、クラウンという金看板、ブランドにはシリーズ化するほどの求心力があるという判断だろう。
ちょうどタイヤのぶん背が高くなった
新型は21インチ・ホイールが与えられて、クロスオーバーはアーチ状のルーフラインとされた。このタイヤサイズは、幅(225)扁平率(45)に関しては従来型クラウンの2.0RSというグレードと同じである。
タイヤの外径が3インチ=76.2mm増える一方、車体の全高は1460mmが1540mmに増えた。ということはタイヤ上端からルーフ上端までの高さは変わっていないことになる。
すごく嵩高くなったように見える新型だが、占有する体積はそう変わってはいない。それで、車重は同じ2.5Lハイブリッド4WDモデルで比較すると1820kgから1750〜1780kgへの減量である。やっぱりプロペラシャフトのない横置きエンジン車、しかも新しいアーキテクチャーを採用した車は軽いのだ。
大径・薄幅というとBMW i3の完全独自のサイズを思い出すが、225/45R21なんてサイズのタイヤ、他にも使っているクルマはあるのかなと思って調べたところ、「ジャガー FペイスSVR BRGローンチエディション」という車種がフロントに装着しているらしい。550psを発揮するこちらのスーパーSUVは、リアには295/40R21サイズを履くという。
内装にしわ寄せか
新型クラウン(クロスオーバー)の外装デザインはかなり攻めた、コンセプトカーがそのまま実車になったような姿で、これはこれでいい。2年少しという急ごしらえで、有無を言わさずカッコいいスタイリングのまま突っ走ったのだろう。
けれども内装は、どうしてそのまま旧型を持って来ちゃったの? という感じでパッとしない。外観の流麗なカーブが内装には何も反映されていないし、シフトノブ周辺のパネルやステアリングホイールの樹脂部品、そしてドア内張りなど、欧州プレミアムブランドが大事にしている「ドライバーが最も接する部分」の質感が低いのが残念だ。
そして評価が分かれるのが、大開口のテールゲートではなくノッチバック式トランクにこだわったことだろう。静粛性の確保には、トランクを閉鎖空間としておいたほうがいいに決まっているのだが、このかたちの大きなクルマを買った客や家族が、「えっ! ダイニングチェア運べないの?」「子どもの自転車積もうと思ったんだけど」と混乱に陥るケースは少なくないのでは、という気がする。
昔のモデルでは、グローバルモデルとしては一世代きりで終わってしまった「シトロエンC6」が同様にクロスオーバー的外観でありながらトランクは独立式であったが、こちらは後席は全面トランクスルーでいざというときは荷室を拡大することができた。
些細な点はさておき、豊田社長いわく、乗ってみると「面白いね、これ、クラウンだね」という後味を秘めているというし、動力分割機構の呪縛から逃れたデュアルブーストハイブリッドもなかなか良さそう。後輪操舵システムDRSの仕上がりも気になる。プレミアムサウンドシステムにも興味を惹かれる、ということだと640万円の最上級グレードになってしまうわけだが、最上級でも640万円というのはやはりリーズナブルな設定なのかもしれない。