STORY

ちょっと変だけど、毎日がちょっと豊かになる ― YUの「愛車のある暮らし」#03

YU ヤマハ SR500 2022.11.18

我が家にSRがやってきた

SR500がタイヘンなバイクだとは、露知らず。

こうして締めたエピソード02。
今回のエピソード03では、身のほど知らずなSR納車時代を振り返ります。
もし過去の自分にアドバイスできるのならば――。別のバイクを勧めるか、SRでの苦労話をこんこんと語ったかもしれない。

"知っていたら買ってなかった"と思う。
無知とは恐ろしいものだ。良かったぁ、おかげでSRに出会えたよ。

SR500の第一印象

「まるで野山に放された荒れ狂う馬のようだ」と、はじめてSR500に跨った時にそう思った。

1980年のヤマハSR500SP。ヤマハSR400/500のデビューイヤーである1978年と同じ型式2J2と呼ばれる初期型である。ドッ、ドッ、ドッ、と力強い心拍数を打ちながら山道を蹴り飛ばすように駆け上がる。

すごい……ST250では失速してしまう坂も、これなら澄ました顔でヒラヒラと登っていけるぞ。これがトルクというものかぁ......! ってそんな感心してる場合ではない。私には最大の課題が待ち受けていた。

photo:YU

キックスタートはマゾヒスティック

待ちに待った憧れのSRライフ。ロマンチックとは程遠い......それはそれは想像を絶するほど厄介であり、恐怖であり、災難であった。

一番の鬼門はやはりキックスタートだった。

SRが納車された当日。私は嬉しさのあまりキックの練習をたくさんした。渾身のチカラを込めて振り下ろす作業を陽が暮れるまで。100回以上はやっただろうか。

まぁ、当然(?)ウンともスンとも言わない。その日は一向にかかる気配なく、翌朝 ツチフマズに激痛だけが残った。

これは"マゾ"が乗る乗り物だ、と思った(確かに私はマゾっ気があるかも)。

最初はコンビニに停めてエンジンを切るのも怖かった。ここで停めたらもう一生かからないかもしれない……と世紀の決断といわんばかりの形相でキーを抜く。

前オーナーよ。せめてデコンプだけは付けといてや。キック初心者女子に500ccのデコンプレスは玄人仕様すぎるんじゃよ。

しかもこのSRはガソリンタンクが変更されていて燃料が6.5リットルくらいしか入らない。燃料がすぐ終わる。そしてガソリンスタンドではなぜか調子が悪くなる。空振りキックをしている私を周りの人が「アイツ大丈夫か?」と憐憫のまなざしを送るのが背中でも分かるくらいグサグサくる。見かねてエンジンをかけてくれる人もいた。あなたは神ですか? ありがとう……!!

今ここで改めてお礼を言いたい!!

photo:YU

ちょっといいかげんな面白い友達みたいな存在

SRには年式による違いだけでなく、人間のように個性があると思う。

私のSRはやたらと寒い日の朝が苦手だ。「お願いします、動いてください」と私は丁寧にお祈りをしてからキックに臨むのだが、コールドスタート(エンジンが冷えた状態からの始動)では、「まだ起きたくない〜」といつも駄々を捏ねてくる。

これにはちゃんとした説明もあるが、私は生まれ持った「性格」みたいなものだと思ってる。人間みたいに。キックに慣れていると思われるSR専門店のスティンキーの主人が叩き起こしても全くエンジンがかからなかったほどだ。

そんなマイペースなお友達に、私は幾度となく振り回された。ヤビツ峠の狭いとこ ろで負圧のホースが切れて立ち往生したり、土地勘のない亀山ジャンクションの近くでエンジンが全くかからなくなったり……etc

私はよく一人で走っていたので、こんな時もいつも一人だった。途方に暮れて泣きそうになる時もあったが、大人になってもこんなに必死になれる経験も珍しい。

まぁ……なかなか面白いじゃないか。(無駄にポジティブ)

この子の良いところは一度、エンジンに火が入ってしまえばホットスタートは比較的得意であること。なんだ、まるで朝が苦手で午後から活動的になる私みたいじゃないか。

photo:YU

経験を買えるバイク。

「親しみやすい可愛い見た目とは裏腹に、なんて気難しい乗り物なのだろう……」

初めはそう思ったが、だんだんと「実はすごく素直で分かりやすい乗り物」であることに気付く。

初めてオイル交換をした時は、ちょっと感動した。こうなってるんだ〜とSRの構造に興味津々。シンプルな構造だが、その奥ゆかしさや美しさにどんどんと惚れ込んでいく。強制開閉VMキャブをバラして綺麗にするという新しい遊びも覚えた。

メインジェットやパイロットスクリューの交換部品を一通り揃えるようになると、今度は峠で走るのが愉しくなってきた。

バイクはコーナーを心地よく駆け抜けた時が一番気持ちいい。これは陸上トラックのコーナーを駆け抜けていくあの感覚にもよく似ている。過去の自分とシンクロす るような瞬間がある。

バイクでも似たようなことがあるのかと驚き、また嬉しくなった。

バイクは決して楽な乗り物ではないが、しんどい中にも一瞬、一瞬深い幸福感があることも共通している気がする。

昔から私は「これを選んだら大変そうだな。」いう道に惹かれる。"安泰"と"困難" という列車が同時にホームに到着したら、"困難行き"を選んでしまう。うまく説明 はできないけど、その方が必ず自分が必要とするところへ導いてくれる気がする。

困難行きの旅は、まだまだ続く。
<つづく>

photo:YU

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