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ドローンを知ると世界がわかる #04 

J.ハイド 2022.11.27

「ドローン手形」南小国町の挑戦

写真家、J.ハイドです。ドローンを入手したいけれど飛ばす場所が見つからない。様々な規制が厳しくなっているのに大丈夫なのか?というご相談を頂きます。今回はそのような悩みを持たれている方々へ、ヒントになれば幸いです。(以下、本記事は2022年11月の公開時点の情報に基づき記載されています)

本年の8月に取材もかねて、熊本県の南小国町に伺いました。ここは町を上げて様々なデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいますが、中でも「ドローン手形」なるものがあると検索でヒットしたからです。

仕組みとしては、予め「ドローン手形」のサイトで飛行に関する登録を行います。当日、現地事務所で受付けした際「ドローン手形」の立て看板と、おすすめ飛行場所の書かれた資料を頂けます。天候や当日の他の催事の状況を伺いながら、安全にドローンを飛行させる場所の情報を得ることができます。土地勘がない場合、1日かけても2か所程度の空撮が精一杯と感じていましたが、南小国町ではかなり余裕を持って3か所を回ることができました。

何より予めDID(人工密集)地区ではない事が判り、目撃した人から警察などへドローンの飛行を通報されることがないと思われるため、心の負担も軽く済むのは非常に大きなメリットと感じました。もちろん筆者の場合は正規ライセンスと航空局の許可を頂いているので、前回ご紹介した飛行情報共有システム(FISS)への登録も行っています。

多くの自治体が、どちらかといえばドローン飛行の規制に走る中で、南小国町のスタンスはドローンの飛行を是とする自治体として、積極的なチャレンジだと思います。

photo: J.ハイド 「ドローン手形」南小国町推薦のフライトエリアで撮影。上空からしか見えない地上絵まで工夫されている。トップ画像の別府海岸のモニュメントもそうだが、九州では上空からしか認識できないデザインに遭遇する事が多い。

飛行中の思わぬ危機

ドローン練習場を検索すると現在、都内では1か所、関東圏では数カ所がヒットします。室内練習場は複数カ所営業されていましたが、コロナ禍の3年でかなり閉鎖されてしまいました。

また、練習場では先生がいて教えてもらうことができる場合と、単なる場所貸しの場合があるので、手っ取り早くは、まずはライセンス取得を前提にドローンを購入する方が無難です。大きめの倉庫や運動場が借りられればそれに越したことはないのですが現実には難しいと思われます。

機体以外にも初期投資がかかるわけですが、これは考えようで、ゴルフだとすればコースにいきなり出る訳ではなく、必ずレッスンを受けるはずです。社会人である以上、ルールやマナー、そしてプレーする際の危険性も一定レベル理解してから、コースに出るもの。従って、ドローンも同じ手順を踏むのが、正しい心構えと言えるでしょう。

しかし、ここではスクールで教わらなかった、そして様々なマニュアルにも記載がない2つの致命的な危機をお話しします。

一つはバッテリーの管理、特に「脱落」の可能性です。

墜落の危険性が少なくなった現在の市販ドローンでも、バッテリーに不具合があると一たまりもありません。機体のバッテリーの充電状況は流石に皆さん気を使われると思いますが、意外と忘れるのは送信機のバッテリーチェックです。前日にセットアップやバージョンアップをして送信機の充電を忘れると、現場で数フライトの後に心許なくなり、充電が必要という羽目になります。

これは充電するまで飛ばさなければよいのですが、最も怖いのは、機体へのバッテリー「搭載ミス」です。

MAVICシリーズの多くは上からバッテリーを嵌めるタイプのため、心配は少ないと思いますが、未だ現役のPhantom4や最新型のMAVIC3は横から嵌めるタイプ。はめ込みが少し甘いと機体が傾いた瞬間や高速飛行の際のGでバッテリーが抜ける可能性があります。

photo: J.ハイド 最も安全と言われる最新機種、MAVIC3であってもバッテリーが脱落してはひとたまりもなく墜落する。機体が急停止して傾くと後方に抜け落ちる可能性があるので搭載には入念なチェックが必要。

こうなってしまうと、あとは放物線を描いて落下するだけとなり、上空から降ってくる1Kgのドローンや数百gの硬いバッテリーはまさに凶器と化します。

筆者もPhantom4で一度だけ経験しましたが、幸い落下先に何もなく機体の全損だけですみました。後でスクールの講師の方から、バッテリーの「脱落」では?と聞いて納得したものですが、その事はどのマニュアルにも記載されていません。

嵌め込まれるバッテリー、受け入れる機体のどちらかの爪がちょっと甘くなっていた。時間がなく寒い中でのバッテリー交換で十分に押し込んでいなかった。そしてスポーツモードで飛行して強いGがかかった、などが重なると十分に起こりうる事故です。バッテリー交換時は必ず、離陸後に低空でゆっくりと左右前後回転の飛行を試しますが、それでは防ぐことはできません。

苦い経験のあと、筆者はバッテリー交換の際には二度以上「固定」を確認しています。

photo: J.ハイド 千葉の鋸南地区は飛行しやすい場所も多いが海岸では頻繁にトビに遭遇する。体重は1kg近い個体もあり、体当たりされれば中型機のPhantom4クラスでもダメージは大きい。

高度設定と心に余裕を

今一つは、大型猛禽類との接触です。通常ドローンには近寄らない猛禽類も、子育てのシーズンにはかなり接近して来ます。また数羽で威嚇に似た行動をとる場合もあります。この事案もあらゆるマニュアルに記載はありませんし、試験にも出ません。

しかし、バッテリー抜け落ちと同様に大型猛禽類との接触は極めて危険な事案です。
対応方法としては、猛禽類の接近高度は100m以下の場合が多い(多分、子育ての巣が高いところにはない)ので、急上昇で上空に離脱することです。猛禽類は基本グライダーのように滑空するので、急上昇は苦手です。逆に間違っても、高度を下げてはいけません。子育て中の巣に近づくと思われ、体当たりされる可能性が高まります。

高度をあげて猛禽類を振り切ったら、すぐに一旦帰還させることをお勧めします。

従って猛禽類が多いエリアでは、「高度」の上限設定を予め「規制値」一杯にしておくことが無難です。特にドローンを飛行させやすい海岸の岩場などで彼らに遭遇することが多く、産卵は2月、子育てが終わるのは秋ごろと言われ、ほぼ1年中ドローンが警戒されるという事になります。

このバッテリーの「脱落」、「猛禽類との接触」の2つは、絶対に墜落させてはならない仕事での撮影や海外での飛行に際しても、必ず役に立つと思います。その割にスクール試験やマニュアルには記載はなく、筆者は実飛行を重ねる中で、初めて学んだ事であるのも事実なのです。

以上のような危険まで含めて考えると、一般に営業しているドローン飛行場以外、練習のためにはDID地区外にある人気のない砂浜や海に沿ったエリアで飛ばすことが飛行時間を稼ぐ練習にはお勧めです。墜落時には機体の水没や紛失も止むなしですが、最新の機種では墜落は滅多にありません。

またこのような場所での練習飛行の場合でも、もの珍しいドローンの操縦者に対して話かけてくる人がいたり、子供が寄ってきたりするので、心に余裕を持って「丁寧に」接近をお断りするようにしましょう。特に子供達や親子連れが興味を持って接近してきた場合は、なるべく早めに注意し、速やか且つ安全に飛行を中断して離れた場所に着陸させることを心がけるべきです。

海外では、自分の経験も含めてですが、あまり話かけられる事はないと言われていますが、このあたりは物見好きの日本人の国民性が出ているのかもしれません。

次回は、撮影した動画の編集方法に関してお話しします。

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