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慶應義塾體育會自動車部 #02

井上 智尋 慶應義塾體育會自動車部 2022.11.15

自動車部の裏側に隠された努力

「モノ文化」の発展・継承をミッションのひとつとして掲げるパルクフェルメは、「インターン編集者」として慶應義塾體育會自動車部(以下、慶應自動車部)に所属するふたりの学生を迎えることになった。彼らが参加する競技および大会等を紹介した前篇に続いて、華やかな自動車部の裏側に隠された努力にスポットを当てる。

自動車部の歴史はいつから?

慶應義塾體育會自動車部は1931年に発足した「モーター研究会」「医学部モーター研究会」、そして1932年に発足した「慶應義塾自動車協会」の3つのクラブが合併して1933年に生まれた。1947年に初めて女子部員が入部したことから、略称を現在でも使用されている「KOAC(Keio Automobile Club)」に改名した。来年の2023年には記念すべき90周年を迎える。

慶應の自動車部ならではの特徴

慶應義塾大学日吉キャンパス内に「イタリア半島」と呼ばれる慶應自動車部の練習場がある。この「イタリア半島」という名前には諸説もあるが、地図上で長靴のような形であることに由来している。

広い敷地であるからこそ「ジムカーナ」の練習ができることにも加えて、自動車部の中で最も歴史の長い「フィギュア」という競技のコースを描くこともできる。このような広い敷地を有する大学は限られている点から他大学と比較してアドバンテージを取っている。ちなみに「五大戦フィギュア」や「早慶ジムカーナ」等の大会会場としても「イタリア半島」は利用されることが多い。

勉学に勤しむ学生なら誰もが憧れる、あの美しい慶應日吉キャンパスの奥に、ジムカーナもできる広場が存在するとは。安全管理も学生たちにとって重要なトピックだ。

また「五大戦フィギュア」や「早慶ジムカーナ」などの大会や特別な式典だけでなく、普段の活動に通う際、男子学生は学ラン(夏季は略装)を身に着ける。常に学ランを身に着けているのは慶應義塾體育會の学生のみで、約100年に渡る伝統を守り続けている。

現在の部員数は27人で、今年度は新入生が9人入部した。

また慶應自動車部は、マスコットカーである「1931年式A型フォード」を保有している。こちらは野球部のがリーグ戦にて優勝した際や、その他イベントのパレードにて伝統的に使用されている車両であり、大切に保存されている。

マスコットカーであるA型フォード。2022年9月、日本橋にて開催された中央警察署・秋の交通安全パレードにも参加した。

2022年度全日本学生ジムカーナでの競技車両は、男子用と女子用に2台が用意される。ともにホンダ・シビック(EG6型)で、慶應のテーマカラーである赤と青のラインが入ったラッピングで揃えた。2台が並ぶと、慶應らしい雰囲気を存分に感じることができる。

以上で記したように、様々な箇所から愛校心と風格を持っている点が慶應自動車部ならではの最大の特徴である。

予算や時間との闘い

しかし「自動車」を扱うだけあって、他の體育會の部活動と比較しても金銭的負担が大きいことも否めない。特に慶應は「ジムカーナ」「ダート」「フィギュア」の合計3種類の競技に取り組んでおり、これら全てに出場する大学自体が金銭面等の理由から少ない。

車両整備や維持に資金を要するのに加え、大会や練習での遠征にも車で向かうためガソリン代も嵩む。頻繁に大会が開かれる時期には週に1回程度のスパンで遠征に行くため、その際の宿泊代も工面しなくてはならない。遠征先のコース走行では、他大学や一般の方を含め、多くの選手たちが走行している。短い1回の走りの中で得る、最大限の学びが大切になっていく。

また競技では、現在あまり販売されていないマニュアル・トランスミッションの車両を使用している。これらは一度壊してしまうと中古で販売されている件数がそう多くはないため、代替が効きにくい。特にダートトライアルでは路面が滑りやすく不安定になりやすい競技の特質上、走行中に横転してしまうケースも少なくない。車両を壊さず、かつ速く走ることが選手には求められる。

ダートトライアルで実際に走行している様子。砂利の上を高速で走るため、時々砂が舞う。ジムカーナなど学生モータースポーツに適した、コンパクトなマニュアル・トランスミッション車がいまの市場には少ない。それゆえ、競技のベース車両には30年近く前のモデルが使われている。

OBが語る学生たちへのエール

1999年卒の中澤次郎OBは、慶應の自動車部の学生を見て感じることについてこう語る。「若者の『クルマばなれ』など、一体どこ吹く風の自動車部の部員たち。長い長い歴史を誇る自動車部でありますが、今も昔もクルマとモータースポーツをただひたすらに愛し、無我夢中で楽しんでいる若者たちの姿が、変わらずそこにあり続けることを嬉しく思います。勝利に向けてクルマと自分と仲間と向き合い、4年間を思いきり駆け抜けてくれることを心から願っています」と車への情熱を語った。

また現役時代と現在の自動車部を比較して、「自分の現役時代は、まだまだ『なんでもあり』の時代でした。授業やゼミはそっちのけで、一日中学内にあるガレージに籠ってクルマをいじり、夜な夜な練習に出掛けて走っては直すを繰り返す日々。現在は『文武両道』が基本で、学業と部活の両立が徹底され、心技体のいずれも優れた人材の輩出に繋がっています。キミたちにクルマと日本の未来はかかっている!」と学生たちにエールを送った。

1993年卒で現在は慶應自動車部の副監督も務めている政友 毅OBは、後輩に期待することとして「大学生活という限られた時間で、勉学やクルマの運転技術は勿論の事こと、友人や社会との良い関係を作っていって欲しいと思います。この大学生活の濃密な体験や努力が、必ずや皆さんのこれからの長い人生にプラスになると信じています」とコメント。また現役時代の違いとして「今の現役部員の方が、競技活動に関する色々な情報を取り入れ易くなっているので、かなりレベルが上がっていると感じています。また私たちの時と違って、勉学との両立を皆が実践しているのは凄いと思います。変わっていないのは、皆クルマ好き、と言うところですかね」と現在の自動車部のレベル感に対してポジティブに語った。

慶應義塾體育會自動車部は努力の賜物

慶應義塾體育會自動車部は今日も雄大に競技に挑戦している。その裏には何十年もの試行錯誤や、積み重ねてきた努力が紡がれ続けていることを部員一同は忘れていない。

自動車競技はタイムや車両など、目に見える箇所に注目されがちなスポーツである。しかし、長年の歴史の結晶であることも本記事で感じ取っていただけたならば、とても嬉しい。

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