Royal Enfield 進化するクラシック(後編)
伊東 和彦 Royal Enfield 2023.05.27Royal Enfieldは、現存するオートバイブランドで世界で最も古く、イギリス発祥のオートバイメーカーである。現在は、インドのオートバイブランドで、アイシャー・モーターズの一部門となっている。しかし、その歴史には溢れんばかりのストーリーが秘められている。後編では、第一次世界大戦以降の健闘に着目をする。
モーターサイクルとエンフィールド
四輪車部門を分離したエンフィールドの事業は、創業依頼の武器に加え、将来の成長が見込める汎用エンジンと二輪車が両輪となった。
ここでロイヤルエンフィールド・モーターサイクルのモデルの歩みを簡単に振り返っておきたい。
大きな転機となったのは1914年に勃発した第一次世界大戦であった。手持ちの770cc Vツインモデルを軍用に仕立てると、イギリスだけでなく、ベルギー、フランス、米国、ロシアに供給することに注力した。
戦後の1924年には、225ccの2ストロークエンジンをステップスルー・フレームに搭載するという、女性向けモデルをラインナップに加えている。1930年には225ccの2ストロークモデルから976ccVツインのKモデルまで、11種のモデルからなる豊富なラインアップを取り揃えるまでに成長。翌1932年のオリンピア・モーターサイクル・ショーでは、看板モデルとなる“ブレット(Bullet)”モデルがデビューし、大きな成功作となった。
第二次世界大戦がはじまると、パラシュートによって輸送機からの投下を可能とした2ストローク126ccエンジン搭載の“フライングフリー”などの軍用二輪車や、自転車、発電機、および対空砲用の照準装置の生産にあたった。
戦後にはいち早く生産に復帰し、1949年には戦後型の350cc“ブレット”と500ツインを放った。1952年には、冒頭に記したように、インド陸軍から堅牢で整備性がよいとの評価を受け、500台の350ccモデルを受注。これを受けて1955年にはエンフィールド・インド社を設立すると、翌年からティルボッティユール工場でのCKD生産を開始し、初年度には163台のインド製ロイヤルエンフィールドが出荷された。
1955年には新しいビジネスもはじまった。赤く塗られた700ccのVツイン・エンジン搭載モデルがイギリス工場で仕立てられ、インディアンの名前で米国へ輸出された。これは、1953年に生産を停止したインディアンからの求めに応じた製品供給だったが、アメリカのファンたちがバッジエンジニアリング車に興味を示さなかったことから、計画は1960年に終了。1961年から自らのブランド、ロイヤルエンフィールドを名乗って、巨大マーケットのアメリカに上陸を果たした。
インドからのカムバック
イギリス本家のエンフィールド社は1971年に破綻したが、エンフィールド・インディアは健在で、1977年には、イギリスを含むヨーロッパ市場へ向けてブレット350ccの輸出を開始した。イギリスの伝統的な様式(スタイリング)を備えたモーターサイクルを求める人々にとっては歓迎すべき、絶えて久しいブランドのカムバックであった。
1994年には商用車およびトラクターのメーカーであるアイシャー・グループが、エンフィールド・インディア社を傘下に収めると、会社の名をロイヤルエンフィールド・モータースに変更した。
進化するクラシック
今日、クラシックな佇まいがロイヤルエンフィールドの大きな魅力であり、それゆえに「生きた化石」と揶揄されたことさえあったが、環境問題は避けて通ることはできない。存続のため、1999年にはオーストリアのグラーツに本拠を置く技術開発会社のAVLが開発に関与した、まったく新しい350cc軽合金製希薄燃焼エンジンが登場した。
さらに2008年には、長く親しんできたエンジンとトランスミッションの別体構造を一体式に改め、アルミ製シリンダーやEFIを備えた500ccエンジン搭載の“Classic”を欧州市場で発売している。
また2013年には、ロイヤルエンフィールドとしては初となるダブルクレードルフレームを持つにコンチネンタルGT535を登場させ、新世代のロイヤルエンフィールドの姿を、ファンに向けて明確に示した。
イギリスに帰還
2015年には、イギリスに本拠を置くモーターサイクル設計と製作の専門会社であるハリス・パフォーマンス・プロダクツを買収し、エンジニアリングおよび製品設計の機能の強化を図った。
さらに2017年にはイギリス・レスター近郊にテクノロジーセンターを開設した。そこでは100人を超えるエンジニア、設計者、テスターのチームが、研究、開発、および長期的な製品戦略に取り組んでいると、HPで自信のほどを示している。名実ともに、発祥の地に戻ってきたことになる。
ロイヤルエンフィールドは多くの需要を抱えたインドという巨大なマーケットの中で、地道に、強固な存在として生き続け、力を蓄えていた。ヨーロッパやアメリカで吹き荒れたモーターサイクル・メーカーの淘汰という嵐を「インド・マドラスで通過するのを待っていた」ともいえるだろうか。
最後に私見を述べさせていただくと、クラシカルな佇まいに近代の技術をさりげなく取り入れた彼らの製品は、個性こそがマーケティングの最重要要件である今日の二輪車界において、大きな強みを発揮するのではないか、最新のモデルを見ながらそう感じた。
photo=Royal Enfield