「2030年・BEV100%ブランド」を目指すボルボのブランニューモデル、「EX30」に乗る:前編
いよいよ納車が始まったボルボEX30とはどんなクルマなのか?
烏山 大輔、田中 誠司 ボルボ EX30 2024.03.25
2023年6月にワールドプレミア、わずか2ヶ月後の8月には日本でも発表されたボルボ「EX30」は、当初年内に納車開始の予定としていたが、ようやく日本でもデリバリーが開始された。そしてこのタイミングで、待ちに待った日本での試乗も叶った。前編ではEX30がどんなクルマなのかを振り返りつつ、内外装のスタティックな観察を試みる。
ボルボの成長を後押しする小さくて大きな存在
2023年にボルボの乗用車部門はグローバルで70万8,716台を販売、売上高も約5兆6,061億円、営業利益は約2,786億円と過去最高の業績を記録した。
2030年までにBEV(バッテリー電気自動車)100%のブランドになると発表しているボルボ。昨年のBEV比率は16%だった。同社初のBEV専用モデルであるEX30は、同社のラインナップの中で一番ボディが小さい。しかし量販が期待できるサイズであるため、この目標を実現するうえで大きな存在になることは間違いない 。
かつてコンパクトカーの「V40」が好調に売れた実績もあり、日本サイドもEX30の企画段階から要望を出して、全高は立体駐車場に入る1,550mmを実現 、幅も協議の結果1,835mmにおさめた。
ちなみに2023年にボルボは日本で「C40」と「XC40」の2車種のBEVで1,589台を販売し、“プレミアム・セグメント”でテスラ、メルセデス・ベンツ、アウディ、BMW、レクサスに次ぐ6位のシェア(8.2%)を獲得している。
日本に導入するEX30は最高級版
本国仕様のEX30には3つのトリムレベル(グレード)がある。上から「ウルトラ」、「プラス」、「コア」と用意される中から、日本にはウルトラが導入される。今後は他モデルも、これまでのアルティメットからウルトラに名称変更するという。
ウルトラはパワーシートやパノラマルーフ、19インチのタイヤ・ホイールを標準装備した最高グレード。モーターとバッテリーの組み合わせは、ツインモーター(AWD、69kWh)と今回日本に導入されるシングルモーターエクステンデッドレンジ(RWD、69kWh)の2種類がある。
ボディカラーは2トーンの5色(モスイエローは新色)を設定。インテリアは「インディゴ」、「ブリーズ」、「ミスト」の3種類のうち、ウルトラにしか設定のないブリーズとミストが日本に入ってくる。つまりAWDのツインモーターでないこと以外は、全てEX30の設定の中で、最も上位の組み合わせが日本に導入される。価格は559万円(消費税込)、一充電走行距離(WLTC)は560kmだ。
コンパクトながら精悍
まずは去年の発表会以来、久々に対面した実車で改めてエクステリアを確認する。BEV専用のプラットフォームを活かし、タイヤがなるべく四隅に寄せられているため、前後オーバーハングがとても短く、かつ全長は4,235mmしかないので実際にかなりコンパクトに見える。
BEVらしくフロントグリルがない「顔」は、新しくセグメントデザインを採用した「トールハンマー」ヘッドライトと、その左右からバンパー下部につながる黒いライン、中央のボルボ・ロゴにより精悍な印象を覚える。
この黒いラインの垂直の部分は、フロントタイヤに抜ける空気の通り道になっていて、Cd値0.28を実現する空力性能に貢献しているはずだ。水平の部分には超音波センサーが目立たないように埋め込まれている。
サイドビューも特徴に溢れている。ボンネットの上端とフロントドアにわずかな段差がつけられているところや、リヤドアの途中からキックアップするベルトラインによりアクセントを加える。
リヤビューもフロントと同じセグメントデザインのテールランプを採用。ブラックのルーフとスポイラーがリヤの引き締まった印象を強めている。バックドアを開けるボタンは「VOLVO」ロゴのLの上に設置されている。
上質なインテリアに感銘を受ける
次にインテリアを観察してみる。一言で表すならば、シンプルながらもBセグメントというサイズを超えた高級感と上質感に満ちている。
ドアの締まり音は“プレミアム”に相応しい。内部にスピーカーを備えないフロントドアは、軽いものの正確な精度を感じさせながら閉まる。いっぽう、一般にコンパクトカーでは”ペタン”と閉まるケースが多いリヤドアは、“プレミアム”を名乗るにふさわしい重みを伴い、クラストップどころか、高級セダンのそれさえも上回るレベルではないかと思ったほどだ。
中央の大きなタッチ式ディスプレイに表示機能を集中させたインテリア。前方にはハーマンカードンの“サウンドバー”を埋め込み、フロントドアからスピーカーを廃して軽量化=資源節約を図っている。
この“高級で上質”を乗員に強く印象つけている要因のひとつはドアの内張りにある 。フロントドアを観察すると、肘掛けになるインナーハンドルは、先端がドアから独立したデザインで、手触りの良い合皮が貼られている。 上部にはリサイクルアルミで作られたアート作品のようなドアオープナーが輝き、下部にはスピーカーがないことを反映して、十分な大きさの収納スペースも用意されている。
EX30にはシステムのオン/オフスイッチはなく、インテリアのすっきりしたデザインに貢献する。ドライバーがクルマに乗ったらシステムは自動的にオンになる。この点はテスラと同じだ。あとはブレーキを踏んでステアリングコラム右側にあるシフトレバーを下げてDに入れれば走り出せる。
後席も十分な空間が広がる。身長172cmのドライバーが運転席のシートポジションを合わせた後席の膝前でも15cm の余裕がある。背もたれと腰の間に隙間を作らずきちんと座ってもヘッドクリアランスは7cmも確保されているので、後席で長時間のドライブでも苦にならないばかりか、パノラマルーフの開放感を味わえる特典まで付いてくる。
EX30にはオーロラやノルディックトワイライトなど北欧の自然に由来する5種類のアンビエントライトがあり、その光り方もオーロラのようにゆっくりとグラデーションしていく、ボルボならではのものだ。音の演出も加えられるとのこと。ぜひ夜間に試してみたい。
ラゲッジルームは316リッター、床下にはさらに61リッター分のスペースがある。6 : 4の分割可倒式リヤシートを倒せば1.7mほどの長尺物も積載できる。話題の車中泊も可能な広さだ。ボンネット下の収納スペース(フランク)も小さいながら用意されている。フタにはEX30とヘラジカのイラストが描かれているのが微笑ましい。
パノラマグラスルーフはEX30に標準装備される。とくに後席の住人にとって、頭上の開放感が高いことはとても好ましい。頭上空間も充分。物足りないのはセンターアームレストが備わらないことくらいか。
目に見えるサステナビリティ重視
ボルボはサステナビリティ(持続可能性)にも力を入れており、2040年までに完全な循環型ビジネスの実現を目指している。EX30でもその取組の成果は着実に現れており、アルミは25%、鉄とプラスチックは17%のリサイクル率を達成、そのパーツたちはシート、ダッシュボード、フロアマットなどに見ることができる。
生産や販売の現場において、ボルボのヨーロッパの工場では2008年以降100%水力発電による電気を使用し、主要サプライヤーの95%が2025年までに再エネ100%の使用を約束している。日本でも2023年8月時点で全国126ヶ所のディーラーがCO2を実質的に排出しない「クライメートニュートラルな電力」への切り替えを完了している。
さらに将来的には、軽量化による航続距離の伸長を実現できる「メガキャスティング」、二酸化炭素を排出しない製鉄技術(スウェーデンの鉄鋼メーカーSSABと連携)やバッテリー製造(ノースボルトと協業、2025年から供給予定)を計画している。
<後編へつづく>
ボルボ EX30 Ultra Single Motor Extended Range
全長:4,235mm
全幅:1,835mm
全高:1,550mm
ホイールベース:2,650mm
車両重量:1,790kg
乗車定員:5名
一充電走行距離:560km(WLTC)
最高出力:200kW(272ps)/6,500-8,000rpm
最大トルク:343Nm(35.0kgm)/5,345rpm
バッテリー総電力量:69kWh
モーター数:後1基
トランスミッション:1速固定
駆動方式:RWD
フロントサスペンション:マクファーソンストラット
リアサスペンション:マルチリンク
フロントブレーキ:ディスクブレーキ
リアブレーキ:ディスクブレーキ
タイヤサイズ:前後245/40R20(オプション)
最小回転半径:5.4m
荷室容量:318L
車両本体価格:5,590,000円