STORY

ガレリア・トアンの風景 #03

イスがスキ?

安藤 俊彦 2022.12.27

イスがスキになったのは…

数年前、当時の北鎌倉の家へ遊びに来た私の師匠である洋画家・松井ヨシアキ氏(編集部注:昭和会賞受賞作家。街角、道化師などのパリの風景を、懐かしさと夢ここちある情感を感じさせる世界に描き続けている。22年4月に日動画廊にて『松井ヨシアキ展』を開催)に「安藤くんはイスが好きなのか?」と聞かれた。「え、ハイ」と答える。その時、リビングには数個のイスとソファーが並んでいた。

広い座面には、しなやかなナッパレザーをあしらい体が包み込まれる感覚があるソファー。アームレストの角のヘリ返しは「菊寄せ」の技法でアクセントにもなっている。

18歳で東京に出てきてから、毎年2月に開催する家具のセールには必ず足を運んでいた。そして、何かしら購入していたのだ。当然二十歳前の若造にはイスぐらいしか買えなかった。

最初に購入したのが、IKEAのスツールだった。天板が無垢板の合わせたもので、足はスチール。デザインはイマイチなのだが、丈夫なので踏み台として50年近く今でも家の片隅にイスわっている。(「IKEA」というと、今ではリーズナブルな家具というイメージだが、半世紀前は違って、桑沢デザイン研究所のインテリアの授業にも普通の家具としてとりあげられていたのだ)

IKEAのスツール。50年前のもので、日用品のデザインとして桑沢デザイン研究所の授業で取り上げられていた。ずっと、自宅にイスわり続けている愛用品。

このように毎年、大して気にいらなくてもセールだからと言って買ってしまうので、家に二つのダイニングテーブルセットがある時もあった(笑)。そして歳を重ねると趣味も変わってきてしまうので、やれアンティーク、やれアジアン家具…と結構処分したりしてゴミを出してしまいました(反省)。

galleria toanのオープンにして、再燃してしまったイスズキ

でも最近は、この病気もおさまり落ち着いてきたところでした。が、何と今年、住居内のスペースでギャラリー「galleria toan」をオープンさせることになり、ポイント的に新たなイスが必要(??)となったのです。そこで、ちょうど前から妻が気になっていた木工作家杉村 徹氏(編集部注:ノミで削っては彫る「刳物」という木工技術で、樹木の個性を活かした家具や器を作品に持つ)のイスを購入することになりました。

木工作家の杉村 徹作スツール。フローリングに合わせて、柔らかい印象があるクルミを座面に仕立てたもの。galleria toanに訪れる方にも好評です。シンプルな中に座ると落ち着く良さが秘められているよう。

これが、形、座り心地(特に座面の両端に両手を置いて座る)がとても良く、気に入ってしまい、テーブルとのバランスもいいので、もう一つ同じ形で、座面は同じクルミ材で足は丸状のものから六角形状のものに変えて注文し、結局さらに、デザインがちょっと違う、無理すれば二人がけも出来る座面がサクラ材のものも購入してしまったのです。

しかし、おかげさまで評判は良く、どちらかというと男性より女性(年齢も幅広く)の方が好印象で「このイス、いいですね。私も欲しい」とか言う方もいました。まあ、杉村 徹氏のこのイスは東京でも人気らしいから当然と言えば当然ですかね・・。

そしてまだ予定ですけど、絵だけでなく器などのワークショップなども考えているので、イスとしてでなく、作品を展示する台として重宝してくれると思っています。

あーー、また何かを処分しないと憧れのシンプル空間生活は訪れないでしょう(泣)。

と思っている横で、「食卓の椅子、もっと足つきの良いのがいいよね…」と言う声が聞こえてきました。我が家のイスは当分、減りそうにないな…(汗)。

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