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進化と生き残りの秘訣は「根っこを変えない」……ハーレーダビッドソン ローライダーS[ケニー佐川の今月の1台・第2回]

ケニー 佐川 2023.04.06

米国ハーレーから正統派モデルの「ローライダーS」

記者、そしてMFJ公認インストラクターとしてライダーのスキルアップを手助けするなどマルチに活躍するモーターサイクルジャーナリスト・ケニー佐川氏の本連載。

第2回は、ライダーなら一度は憧れる「ハーレーダビッドソン」から「ローライダーS」をチョイスした。ハーレーは現在大変革期にあり、アドベンチャーの「パン・アメリカ」や、EVバイクの「ライブワイヤー」など挑戦的なモデルを発表している。しかし今回選んだのは伝統のアメリカンスタイルの鉄馬「ローライダーS」である。佐川氏はこのモデルに何を見たのか。

今月の1台に選んだ「ローライダーS」。2023年モデルのカラーは「ホワイトサンドパール」(今回の試乗車)と「ビビッドブラック」が用意されている。

大きな変化を乗り越えながらも「ローライダー」は生き残った

威風堂々でありながらエレガントでクラシカル。ハーレーダビッドソンにはキング・オブ・モーターサイクルの形容に相応しい風格がある。数ある現行ハーレーの中でも、スタイルが最もハーレーっぽくてカッコいいのが「ローライダーS」だと思う。

ローライダーは日本を含め世界的に人気の高いモデルだ。ロー&ロングな車体に飾り物を取り去ったシンプルなスタイルが質実剛健な“漢のバイク”の印象を与えるとともに、かつて70年代を席巻したチョッパーを思わせる“アウトロー”的な雰囲気も併せ持っている。現行のハーレーには豪華絢爛たる伝統的なツーリングファミリーと個性的でアバンギャルドなクルーザーファミリーの2つの大きな流れがあるが、後者の代表格がローライダーSと言ってもいいだろう。

「ローライダーS」には、兄弟車の「ローライダーST」(写真左)がある。ヤッコカウルとサイドケースを装備した「バガー」と言われるスタイルのモデルだ。

ハーレーについて語ろうとするとき、業界人でも頭を抱えるのがモデルラインの成り立ち、つまり系統樹である。ローライダーについても過去に遡っていろいろ深堀りしようとするとキリがないのでごく簡単に説明しておく。

初代ローライダーは1977年に誕生した。創業者の孫でカンパニーの元重役でもあるハーレー界のレジェンド、ウィリー・G・ダビッドソン自らが設計した名車である。元々走りの性能に重点を置いて作られたFX系フレームにパワフルなビッグツインを搭載し、当時の米国で流行していたカスタムの流行を取り入れた大胆なスタイルは世界的に大ヒット。1990年代からダイナファミリーの定番モデルとなるなど今日につながるロングセラーモデルとなっている。

写真左が「ダイナファミリー」の初代「ローライダー」で右が「ダイナファミリー」時代終盤のモデル。ダイナ終盤のモデルは現行型に比べてひときわ重厚感があったが、6速ギアのためクルージングがとても気持ちよかった。

以前は同じクルーザーでも「ダイナ」や「ソフテイル」などフレームの種類によってカテゴライズされていた。その違いを端折って言うと「ダイナ」はツインショックでエンジンをラバーマウントした走り屋系フレーム、一方の「ソフテイル」はリアサスペンションを車体の内側に隠すことで昔のリジッドフレームの雰囲気を再現したクラシカルな見た目が特徴だった。

参考までに、左がダイナファミリーの「ワイドグライド」で、右がソフテイルファミリーの「ファットボブ」。後輪に注目するとサスペンションの違いが確認できる。余談だがファットボブは、映画「ターミネーター2」の冒頭でシュワルツネッガー扮するT-850が乗っていたものだ。劇中では"ダイナミック"なアクションを繰り広げたが、それを支えたモデルは"ソフト"だった。

それが一転したのが2017年。なんと、「ダイナ」と「ソフテイル」というハーレーブランドの二大看板を統合して新型ソフテイルシリーズとしてリニューアルしたのだ。エンジンには新設計の「ミルウォーキーエイト」が投入され、大幅に強度を上げて軽量化された新型シャーシと足まわりへと進化し、デザインと装備も現代的に一新された。新型ソフテイルの登場は「近年のハーレーにおける歴史上の転換点」とメーカー自身が認めるほどの大事件だったのである。

「ミルウォーキーエイト」は新設計エンジンながらも、空冷・OHVという機構は守られた。環境対応や性能向上を考えれば他にもやりようがあるが、ハーレーはあえて古い機構にこだわる。なぜならハーレーのエンジンは性能ではなく人間の感性に訴えるひとつの完成した"楽器"と言えるからだ。もちろん見た目もVツインでは世界随一だろう。

筆者も同年、スペインで開催された国際メディア試乗会に参加したが、設定されたルートの大半はワインディングで面食らった記憶がある。「直線番長のはずのハーレーが何故こんな場所で?」と疑問に思ったが、いざ走り出すとそれは杞憂であったことが分かった。格段に走りのクオリティと楽しさがアップグレードされていたからだ。従来のダイナシリーズは新型ソフテイルシリーズに統合される形となり、日本でも人気が高かった「ローライダー」も2本ショックを廃したソフテイルスタイルへとイメージチェンジ。当初は賛否両論あったが、メカニカルな完成度や走りの満足度を知れば誰もが納得する進化であり、ハーレーが新たな時代へと階段を駆け登ったことを確信したのだった。

「ローライダーS」に乗った日は「ローライダーST」にも乗ることができた。基本的には同じシャシーを使用しているが、STは最低地上高がSよりも5mm高い150mmに設定しているため、その見た目と相まってコーナリングをする姿はよりダイナミックだ。

確かに変わった新世代、しかし根っこの大きな魅力は変わっていなかった

さて、話を戻して今回のローライダーSだが、伝統的なローライダーのファクトリーカスタム版として2016年に登場したのが「S」である。象徴的なビキニカウルやソロシートなどが装着され足まわりが強化されたスパルタンな特別仕様だった。そして、2020年モデルではついに新型ソフテイル版として「ローライダーS」が復活。新たに倒立フォークを装備しローライダーと比べてキャスター角を立ててドラッグバーを採用するなど、一段と“走り”にフォーカスしたモデルになっていた。

「ローライダーS」が倒立フォークを採用していることには、言われなければ気が付かないのではないだろうか。裏返せば、デザインが「見事に調和しているから気づかない」と言える。倒立フォークになればハンドル側は必然的に太くなるが、それが車両の重厚感とマッチしている。

さらに2022年にはハーレー史上最大排気量1923ccを誇るミルウォーキーエイト117エンジンを投入。リアショックを延長することでストローク量と最低地上高を確保し、路面追従性と深いバンク角を実現。よりパワフルにコーナリングを楽しめるモデルへと昇華した。

直線の道が多いアメリカに育てられたハーレーは一般にコーナリングが得意とはいえない。しかし「ローライダーS」は写真のようにダイナミックなコーナリングが可能。アクセルを開ければ極太のトルクでアメリカンらしく豪快に加速する。

あらためて実車を目の前にすると、これぞハーレーという完成されたスタイルに惚れ惚れする。ピカピカのプッシュロッドと深く掘られた冷却フィンが誇らしげな巨大Vツインエンジンを筆頭に、パーツの一つ一つが他を寄せ付けない“本物”の存在感を放っている。一発一発がズドンと響くリアルな爆発によって重いクランクが回っていく、ざらっとした重厚なエンジンフィールはハーレーならでは。鼓動感たっぷりで振動さえ楽しめる。ちなみに新型ソフテイル系はデュアルカウンターバランサー内蔵のエンジンをフレームにリジッドマウントする形式なので、体は疲れずに雑味のないソリッドな鼓動を五感で楽しめるようになっている。何をするでもない。街中をゆったり転がしているだけで上機嫌になれる。これぞハーレー・マジックだ。

製作コストを考えて樹脂パーツを多用するバイクが多い中、ハーレーは鉄成分が高い。しかしその鉄パーツには温もりがあり愛しさを覚える。そこがハーレーの価値が下がらない要因のひとつではないだろうか。
「街中をゆったり転がしているだけで上機嫌になれる」。実はローライダーの最大の魅力がこれだ。日本の法定速度下でこれほど満足できるバイクは少ない。

進化はさりげなくアナログの陰に

2022年からの現行モデルはリアショックを伸ばして車高をアップした分、重心も高めで倒し込みが豪快かつ楽になった。サスペンションのストロークを使ってキッカケを作りやすいのだ。路面とのクリアランスも十分に保たれ、バンクしても従来のハーレーのように簡単にはステップを擦らないので思い切ってコーナーに飛び込める。それでいて元々の低重心を生かしてコーナリング中も地を這うような安定感が気持ちいい。ハンドリングは巨体に反して軽快でクセがなく、ツアラー系と比べてもよりコンパクトに曲がる。歩くような極低速でも安定していて、ハンドルも切れるのでタイトターンも得意。かつてのようなハンドルの重さや切れ込みもなく停止時もぐらっとくる感じが少ない。

ハーレー=直線番長というイメージは過去のもの。現在はコーナリングも楽しいモデルが多い。ここまで豪快に倒せるのは、ダイナ時代からの大きな進化ではないだろうか。

また、ハーレーの専売特許である足着きの良さも健在。車高をアップしたといってもシート高710mmと、原付バイクより低いのだ。ブレーキも強力かつコントローラブルで、フロントダブルディスクは下手なスポーツモデル以上に効く。タウンスピードではなみなみと溢れるトルクに乗って、アクセルをフリーにしていてもアイドリングだけでドロドロと走ってくれる。そして一旦アクセルを開ければ、クルマ並みの強烈なトルクで路面を掻きむしって弾け飛ぶサマはまさにアメ車。コーナリングもラインを切り取るような繊細さはないものの、多少の曖昧さは力技でリカバーしてしまう豪胆さが楽しい。ポルシェでもフェラーリでもない。同じスポーツを語るにしても、こちらはアメリカン・マッスル・カーなのだ。

ハーレーには女性ライダーが多い印象もある。スタイリングの影響はもちろん大きいが、実は足着き性が良いため女性でも怖がらずに扱えるという点も少なからずあるだろう。不安定な停止時でも安心できるというのは大切な機能であり、走りを追いかけるあまりそこを無視しているバイクも多いように感じる。

そう書くと、いかにも粗野なイメージを持たれがちだが、ハーレーも時代に確実にアジャストしてきている。2020年から最新の電子デバイス「RDRS」を搭載し、コーナリング中でも必要に応じてABSやトラコンを介入させて車体姿勢をコントロールするシステムをほぼ全モデルに採用している。これにより安全性を飛躍的に高めているわけだが、だからこそ巨大なハイスペックマシンでも安心してスポーツを楽しめる。そういう時代に生きている自分を幸せに思うのだ。

実はハイテクになっている現在の「ローライダーS」だが、メーターパネル等を見てそれは感じられない。ハーレーはやはり"アナログ"なバイク。だからこそこのような重い鉄の塊に温もりを覚えるのではないだろうか。しかしハーレーにはタコメーターがないイメージがあるが、こうしてタコメーターが主役のようなメーターレイアウトを見ると確かな変化を感じる。

ローライダーSはハーレーの伝統的スタイルと荒々しい乗り味に加え、現代的な走りのクオリティをも楽しめる正統派ニュージェネレーションである。

「ローライダーS」はハーレーの正統派を受け継ぐモデルとして、末長く生き残ってほしい。

ケニー佐川(佐川健太郎)
早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促・PR会社を経て独立。趣味で始めたロードレースを通じて2輪メディアの世界へ。雑誌編集者を経て現在はジャーナリストとして国内外でのニューモデル試乗記や時事問題などを2輪専門誌・WEBメディアへ寄稿する傍ら、各種ライディングスクールで講師を務めるなどセーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。元「Webikeバイクニュース」編集長。「Yahoo!ニュース」オーサー。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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