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流星に虚勢はいらない……ロイヤルエンフィールド・スーパーメテオ650

ケニー佐川 ロイヤルエンフィールド・スーパーメテオ650 2023.10.27

記者、そしてMFJ公認インストラクターとしてライダーのスキルアップを手助けするなどマルチに活躍するモーターサイクルジャーナリスト・ケニー佐川氏が、毎月注目の一台を選ぶ本連載。

第5回は、クラシカルモデルを長年作り続ける「ロイヤルエンフィールド」から「スーパーメテオ650」を選んだ。60年の歴史をもつエンフィールドのクルーザーだが、スーパーメテオにみる現代のエンフィールドらしさとは。

今のエンフィールドは“クラシック”ではない

現在のロイヤルエンフィールドは古さを逆手にブランド価値を高めている。 photo:徳永 茂

ロイヤルエンフィールドはインドに本社を置くインド製バイクだ。ただしそのルーツは英国に1891年に創業し1901年からエンジン付き2輪車を作り始めた世界最古級の老舗モーターサイクルブランドである。

1950年代~60年代の英国車全盛時代に生産拠点をインドに移し、経済成長著しいインド資本による再建を経て工場を近代化。現在では英国とインドの両方にR&Dセンターを持つグローバル企業へと発展している。

こうした新体制の中で生まれたのが2018年にデビューした並列2気筒を搭載したINT650/コンチネンタルGTだった。往年の英国車を強く意識したデザインは世界中のファンのハートを鷲づかみにして大ヒット。実際のところ、エンジン開発には長年他の英国ブランドで腕を磨いてきたエンジニア達が携わり、車体設計は名門フレームビルダーとしてWGPマシン開発でも名を馳せた英国・ハリスパフォーマンス社(現在はロイヤルエンフィールド傘下)が担当している。言わば筋金入りのサラブレッドなのだ。

カフェレーサースタイルの「コンチネンタルGT」(写真左下)とトラッカースタイルの「INT650」(写真写真右下)。

成熟したクルーザー市場で個性をどう見せる

ネオクラシック×クルーザーというスタイルはどのメーカーも作れる。しかし工芸品のような魅力を立たせるには長年培ったノウハウが必要だ。 photo:徳永 茂

ロイヤルエンフィールドではスーパーメテオ650を開発する際にシンプルさと扱いやすさを大事にしたそうだ。クルーザーのセグメントには、既に成功を収めた競合モデルが大勢いる。その激戦区で成功するために自分たちの強みを模索したという。それは60年におよぶ中間排気量クラスのクルーザー製造で培ったノウハウであり、INT650/コンチネンタルGTで実績のある650ccエンジンの投入だった。

photo:徳永 茂

この新型2気筒エンジンは排気量的にもミドルクラスとして最適だし、シンプルな構造ゆえに頑丈でメンテナンス性にも優れる。スペック的にも最高出力47ps/7250rpm、最大トルク52.3Nm/5650rpmとパフォーマンスもなかなかのものである。

参考までに同クラスで比較すると、ちょっと前のカワサキの名車W650(2009年に生産終了)は空冷並列2気筒OHC4バルブ675ccから最高出力48PS/6500rpm、最大トルク54Nm/5000rpmでほぼ同等レベル。W650のほうが排気量も少し大きく、しかも4バルブと有利なことを考えれば「ほほう、けっこう走りそうだな!」とイメージできるはずだ。

異なる部分もある。例えば鼓動感。並列2気筒は点火サイクルによってフィーリングが大きく異なってくる。W650が往年のW1由来の等間隔爆発360度クランクを採用しているのに対し、スーパーメテオ650は“ツインらしい鼓動感”を得られるとされる不等間隔爆発270度クランクを採用している。

どっちが良い悪いではなく、それぞれの個性であり好みの問題である。大ざっぱに擬音で表現すると「ドッ・ドッ・ドッ」か「ドゥルン・ドゥルン・ドゥルン」なのか……。また、スーパーメテオ650にはクルーザーらしさを引き出すため専用のエキゾーストとFIプログラムが組み込まれている。

もちろん、メインフレームやサスペンションなどの足まわり、ディメンションなども専用設計だ。つまり、INT650/コンチネンタルGTの派生型ではなくクルーザーとして新開発されたモデルということだ。

空冷エンジンを積んだ“自然体”

ロイヤルエンフィールドが持つアナログ的な肌触りは最新型でも不変。 photo:徳永 茂

さて、今回試乗したのは「スーパーメテオ650ツアラー」。フロントスクリーンやタンデム用バックレスト、エンジンガードとサイドバッグを装備した旅仕様である。ちなみにSTD仕様と比べて車重は3kg増しの244kgと見た目ほどには重くない。

photo:徳永 茂

跨ってみればシートは低いし、気合を入れなくても普通に取り回しできる。いろいろな意味で「ジャスト」なのだ。エンジンは直立したシリンダー二本が横に並んだ由緒正しきバーチカルツインは伝統的な英国車を彷彿させるレイアウトだ。しかも今や古典的とも言える空冷OHC2バルブとくればマニアにとっては垂涎もの。それでいてロイヤルエンフィールド初の倒立フォークやLEDヘッドライト、デジアナログ式メーターなどレトロ調の中にも機能美を盛り込むことで現代のバイクとしてのスマートさも演出している。

現代の機能性を、アナログな車体の中にさりげなく落とし込んでいる。 photo:徳永 茂

エンジンの鼓動感は割とマイルドで排気音も控えめ。良い意味で主張しすぎないので、乗っていて疲れにくい。乗り味は素朴で、鉄でできた旧き良き時代のバイクを思い起こさせる。低重心でどっしりしているが、足着きも楽で車格も大きすぎないのでリラックスして乗れる。

クラッチミートだけでスルスルと走り出す豊かな低速トルクも魅力だ。フロント19インチでリア16インチの穏やかなハンドリング。でもけっして鈍重ではなく、むしろクルーザーらしからぬ軽快さを秘めている。

コーナーではリアステア的に車体がリーンする動きに呼応してフロントが切れてくる感覚で、ライダーとしては肩の力を抜いてバイクに自然に身を任せていればいい。フロントは大径ホイールらしいジャイロが効いた安定感があり、逆にリアは小径ホイールならではの倒し込みやすさと共に150サイズのワイドタイヤが豊富な接地感をもたらしてくれるなど、安心感たっぷりのコーナリングを楽しむことができるのだ。

photo:徳永 茂

足まわりも倒立フォークの剛性感に加え前後ABS付きディスクブレーキで盤石。しかもリアブレーキは大径300mmディスクと制動力に余裕があるため下り坂の速度コントロールもしやすかった。箱根のワインディングも走ってみたが、バイクがシンプルで挙動も分かりやすいので安心だし、扱いやすいので自然とペースも上がっていく。足を前に投げ出すクルーザースタイルだが本気で走るとかなりスポーティ。自然体で気持ち良く走れるバイクである。

photo:徳永 茂

「ツアラー」仕様ということで大きめのスクリーンが最初から付いているがこれが大正解。60km/h以上だと上半身への風当たりが明らかに緩和されているのを感じた。万が一のエンジンガードや遠出にはサイドバッグも含め、自分としては長距離でより快適に走れて使い勝手の広がる「ツアラー」がおすすめ。装備の重さも感じないし、全体のシルエットもしっくりくると思った。もちろん、街乗りメインという人にはすっきりしたデザインのSTDもカッコいい。

STDはすっきりとしているが、ロー&ロング感が強調され独特の佇まいを感じる。 photo:徳永 茂

“普通に走れる”という価値

photo:徳永 茂

スーパーメテオ650は素直に良いバイクだと思う。何故ならどこにも無理がないからだ。まず見た目からして安心できる形をしている。親しみやすい丸っこいデザインと程よいサイズ感で、すぐにでも乗りこなせそう。最近のバイクは機能を主張したデザインが多いが、スーパーメテオ650はそんな虚勢とは無縁だ。

オーソドックスなスタイルというのは時に安心感を与えてくれる。 photo:徳永 茂

大型バイクに乗るライダーなら誰もが感じたことがあるであろう、スロットルを捻ったときの鋭すぎるレスポンスやクセのあるハンドリング、大きく重すぎる車体など。「ただ普通に乗りたいだけなのになあ……」こうした呟きに対する回答をスーパーメテオは持っている。

今回はワインディングと市街地を中心とした短時間の試乗だったが、素性の良さはしっかりと伝わってきた。タンクのエンブレムや塗り分けられた塗装も美しく、愛情を持って丁寧にちゃんと作られたバイクという印象が残った。機会があれば、次は荷物を積んで泊まりの温泉ツーリングにでも出かけてみたいところだ。

photo:徳永 茂

最後にひとつ、見逃せないのが税込で100万円を切る価格(ツアラー仕様は103万9500円)。バイクの値段も上がる一方の昨今、大型バイクの輸入車でこのプライスはとても魅力的と思うのは自分だけではないだろう。

ケニー佐川(佐川健太郎)
早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促・PR会社を経て独立。趣味で始めたロードレースを通じて2輪メディアの世界へ。雑誌編集者を経て現在はジャーナリストとして国内外でのニューモデル試乗記や時事問題などを二輪専門誌・WEBメディアへ寄稿する傍ら、各種ライディングスクールで講師を務めるなどセーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。元「Webikeバイクニュース」編集長。「Yahoo!ニュース」オーサー。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

[SPEC]
ロイヤルエンフィールド・スーパーメテオ650
車両本体価格(消費税込):¥103万9,500円
車体サイズ:全長2,300×全幅890×全高1,155mm
ホイールベース:1,500mm
最低地上高:135mm
シート高:740mm
車両重量:241kg(装備重量)
エンジン:並列2気筒 OHC 空冷 自然吸気 ガソリン
排気量:880cc
最高出力:47ps/7,250rpm
最大トルク:52.3Nm/5,650rpm
変速機:6段 MT リターン式
タイヤサイズ(前):100/90-19
タイヤサイズ(後):150/80B16
(記事執筆時点におけるデータです)

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