STORY

Start from Scratch #08

ドゥカティ モンスター M900 後編

高梨 廣孝 2023.02.20

トラス構造を持つモンスターを再現する楽しさと難しさ

ドゥカティのトレードマークであるLツイン空冷エンジンと美しいトラス構造のフレームもこのモデルの大きな特徴である。

ドゥカティは、日本のメーカーの多くが採用するアルミ製ツインチューブではなく、トラス構造のフレームに拘るのは何故か考えてみた。ドゥカティのトラスフレームは上部のみで、下部はエンジンを強度メンバーとして使う合理的な設計を取っている。フレームがエンジンを包み込んでいないので横幅も小さくスリムにまとまり、重量も軽いというメリットもある。そして、最大のストレスがかかるスイングアームのピボットを強度の高いクランクケースの後端に設けるという合理的な設計になっている。アルミ製ツインチューブは加工がしやすく生産性が高いというメリットがあり、コストや手間のかかるトラスフレームは避けたいというのが日本メーカーの本音かも知れない。

スクラッチモデルでも、フレームの制作は最初に行う重要な作業だ。フレームが正確に出来ないと、その後に大きな支障を来たすのである。私のモデルは、真鍮棒を銀ロウ付けして制作しているが、真鍮のような合金は高熱をかけた時の歪みが大きく、木型をつくってその都度、歪みを矯正しながらロウ付けを繰り返さないと正確なフレームをつくることが難しい。また、ロウは毛細管現象で流れるので、ロウ付けする箇所は限りなく隙間はゼロにしなければならないので、トラスフレームをつくるのは思いのほか大変な作業である。

フレームと木型。トラスフレームの銀ロウ付けに欠くことができない木型。
歪みないトラスフレームにエンジンユニットを仮組みする。フレームとエンジンが一体化の再現を見極めて、パーツ完成を判断する。
さらに、補機類、スイングアームを組み込み、燃料タンクからリアカウルまでを仮組みする。
下塗りを施したタンクとリアカウルにトラスフレームを組み合わす。モンスターらしさが再現できた。

エキゾーストの取り回し、マフラーの形状……

モーターサイクルのスクラッチモデルを制作していて、いつも多くの時間を要するのがエグゾーストパイプの制作とフロントフェンダーの取り付け部の制作である。何れも加工技術そのものは単純な作業であるが、正確な加工と位置出しをするのが大変難しく、いつも試行錯誤を繰り返すのである。

モンスターのエグゾーストは、後ろのシリンダーから出たエグゾーストがエンジンブロックとスイングアームの細い隙間をすり抜けて微妙な曲線を描いて曲がっている。そして、前のシリンダーから出たエグゾーストとオイルパンの後端で、菱形をした部品で合体しているという今まで例のない方式で構成されている。この複雑な形状を、それぞれの繋ぎ目の隙間をゼロにして制作するのに多くの時間を要した。F1レーサーのような多気筒エンジンのエグゾーストは、複雑に絡み合ってもっと難しいかも知れない。

またマフラーは、円筒ではなくアルミの楕円パイプであり、これをどのように制作するかは考えこんでしまった。そして思いついたのは、アルマイト加工をしたアルミパイプを購入して、外形を包み込む木型に挟んで万力でプレスしたらどうかという考えであった。半信半疑でその案を実行して見たところ、一瞬にして思い通りの楕円パイプが出来上がった。

フロントフェンダー取り付け部の制作は、タイヤとフェンダーの隙間を一定にし、尚且つ方向性を正確に出すのが意外と難しいのである。

楕円の断面を持つマフラーの制作には、一瞬考え込んでしまった。
真鍮の曲げ加工から、エキゾーストの取り回しを忠実に再現した。

組み上げる段階では

緊張する仮組。塗装やメッキ加工で寸法が微妙に大きくなることを見込んで。部品の一つひとつを確認する。

全てのパーツが出来上がり、互いの部品の干渉具合を確認する仮組は、一番緊張する場面である。仮組の後、バラして塗装やメッキを施すのであるが、これらの処理によって微妙に寸法が大きくなり、本組の時に元通り組めなくなることがままある。そのことを想定して、仮組の時に寸法をチェックするのが最も大切な仕事だ。

塗装とメッキ加工を終えて、完成に向けての本組。タンクの内側は大変苦労した。エアクリーナーとタンクとの隙間は極めてシビアだった。仮組の段階で、タンクの内側を何度も削り直しをした。

モンスターはタンクの内部にキャブレターやエアクリーナーを内包する構造であり、タンクの後端に回転するヒンジが付いているので、キャブレターの調整やエアクリーナーエレメントの交換は、前部のフックを外してタンクを持ち上げて行う。エアクリーナーのハウジングとタンクの内側の隙間は極めてシビアであり、仮組の段階で何度も削り直す作業を行った。

完成したモンスターのスクラッチモデル。躍動感ある曲線美に、ガルッツィの熱い思いを感じながら制作した。

フルカウル付きのスーパースポーツモデルに力を入れていたドゥカティの社内で、ネイキッドスポーツモデルの開発には大きな抵抗があったことが想像される。そんな中でガルッツイは情熱をこめて新たなストリートモーターサイクルのデザインを創り出そうと孤軍奮闘したと思われる。このスクラッチモデルから、ガルッツィの熱い思いの片鱗を感じ取っていただけたら幸いである。

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