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レストア開始! Der FREIRAUM デアフライラウム“自由な余白” ♯21

ベース車Golf Caddyは尼崎の名工房へ

ライター:横川謙司 フォトグラファー:平林克己 フォルクスワーゲン・ゴルフ 2024.01.21

オートモビル・カウンシルを目指して

VW Golf Caddyベースのビショフベルガー・キャンパーを自作しようとベース車を手に入れた途端、ビショフベルガーCaddyキャンパーそのものが売りに出るという今世紀最大の想定外により、行きがかり上どちらも輸入……まさかの2台同時レストアという底なし沼にハマってます。

そもそも、自分一人では出来ないプロジェクトでした。ドイツからコンテナで日本へやってきた2台のGolf Caddy。一台はエンジン不動、未塗装キット状態のピックアップトラック、もう一台は昨春まで現役で走っていたビショフベルガーCaddyキャンパー。どちらも日本の道を走り始めるにはまだまだ越えねばならぬ壁がたくさんです。今回はベース車Golf Caddyのレストア開始のお話です。

どこから手をつければいいのか……。オーストリアのGolfコレクター、ヨーゼフが死蔵していたCaddyは、通関のために自動車の姿に復元されているだけで、ボディ未塗装、エンジン不動、各種配線やその他補機類もバラバラ。新品のように見えるフレームも、そのままでは錆びてしまうので、やはりこれを塗るのが先決ではないだろうか。

しかし、素人目には綺麗なフレームもいざペイントするとなると不安の残る表面処理です。何より、ヨーゼフがショーカーに仕立てようと改造した箇所があり、そこもノーマルに戻さねばなりません。一つはキャビンと荷台の仕切り板、もう一つは穴の開いたルーフパネル。こんなの素人の手に負えません。

この穴を埋めるのは大変……

しかし、縁は異なもの。なんと、フレーム状態のCaddyに手を差し伸べてくださるスペシャリスト達が現れたのです! 話を聞いてもらうだけでも難しい案件、せっかくの機会を活かせるよう資料をまとめ、車体の現状や目指すゴールについて説明させていただきました。

話を聞いてくださったのは、兵庫は尼崎にあるフォルクスワーゲン認定工場「中央自動車鈑金工業所」の皆さん。こちらは国内でも数少ない、アウディのアルミボディ修理が認められた工房、かつボディ塗装の世界大会で第3位を獲得した凄腕ペインターさんのいる工房で、とんでもないところが話を聞いてくださった! と。

続けて耳を傾けてくださったのは、フォルクスワーゲンを始め、世界中の自動車ボディペイントで大きなシェアを持つドイツの化学会社、BASFの方々。中でもR-Mというブランドは、フォルクスワーゲンの補修塗料として純正指定されています。

BASFさんがご用意くださるのは“R-M”というVW純正指定塗料。

素材としてのCaddy自体の魅力も手伝って、鈑金塗装、そして純正塗料のスペシャリストが正式にサポートくださることになって、昨年秋”Project Caddy”がキックオフしました。この時、おぼろげながらも目標にしたのは、毎年幕張で開催されるヘリテージカーのショー、AUTOMOBILE COUNCILへの出展。車両の出自のユニークさ、個人のレストアに手を貸してくれるスペシャリストの活躍をきちんと記録に残したい、と思ったのです。

そんなこんなで、未塗装キット状態のCaddyは、積載車に揺られて横浜港から尼崎へ。車両搬入に立ち会うべく、私も現地に赴いたのですが、そこで目にしたのは想定外の光景。工場には大きなバナーが掲げられ、様々な装飾とともにスタッフ総出で積載車上のCaddyを迎え入れてくださったのです!

“Project Caddy”のバナーまで用意してくれていた中央自動車鈑金工業所の皆さん。スタッフ総出で受け入れてくれました。

レストアベースのクルマが、これほどの歓迎を受けたことが果たしてあるでしょうか。「すごいスーパーカーでなく、ゴルフのトラックを蘇らせたい、というところがまたいい」と私のレストアに賛同くださった社長が率先してCaddyを誘導してくださいます。こんなにクリーンで最先端の工房に、廃車寸前のようなCaddyをお預けしてしまって本当に良いのだろうか……そんな不安も消える大歓迎セレモニーでした。この模様を伝えたら、オーストリアのヨーゼフも大喜びでした。

ここからの道のりは想像するだけでも大変

完璧な塗装のためには、一見きれいなこの下地(プライマリサーフェーサー)も落とさねばならないかも、とのこと。よく見れば多少の凹みもあり鈑金は必須。そんな中、一体何色に塗るのか、というのが皆さんの関心事かと思います。

このCaddyのオリジナルカラーはAlpinweiss(アルピーンヴァイス)、つまり白でした。素直にそうする手もあったのですが、わたしはGambiarot(ガンビアロート)、いわゆるワインレッドを選択。当時のカタログ表紙に写っているCaddyがこの色で「実用車だけどちょっとオシャレ」な雰囲気であるのと、背中にしょったカーゴトップがベージュなので、そのツートーンも素敵だな、と思ったのです。ペイントのスペシャリストの皆さんが、色見本を手に説明してくださいます。驚いたのは、同じ色名でも幾つかのバリエーションが存在すること。

同名のボディカラーが数種類あります。その差は微妙。

今回は全体を塗るので良いですが、事故でドアだけ塗る、みたいな時には注意が必要ですね。そしてさらに驚いたのは、そのものの色をしたペイントがあるわけではなく、レシピをもとに毎回必要量を調合する、という事実。

レシピに従いこれらを調合して色を作ります。

データベースはデジタル化されていますが、1グラム以下の一滴を混ぜるなど、かなり繊細な作業が行われていたことを知りました。一見同じ色に見える数種類のGambiaroteも、構成している色やその数が様々で、隠し味が白だったり、オレンジだったり……いやいやボディカラーの世界がこんなだとは知りませんでしたねぇ。

Project Caddyの今後ですが、通関のために組み立てられた「自動車の姿」から再び骨組みに戻し、凹みやキズ、パネルが切り取られた箇所を再生し、下地を仕上げる……などなど塗装前にやることも山積みです。

現在のCaddyは、すべてのパーツが外されて綺麗な骨格状態。まずは、ヨーゼフがポップアップルーフ用にくり抜いていた屋根を補修。こちら、スペアパーツなど出るはずもなく、鉄板叩き出しでやろうか、と検討して頂いたのですが、なんとリトアニアで解体パーツを見つけまして、交渉の上送ってもらうことが叶いました。

リトアニアでGolf Caddyのルーフを発見。送料を抑えるためにカットを依頼した。

しかし、これが手に入ったとはいえどう補修するのか私には想像もつきません。この先フレームとボディを塗装して、ここまでバラした自動車を組み立てて、ナンバー取得まで果たしてどんなドラマが待っているのでしょう……あぁ怖。スケルトン状態のCaddyは、まもなく、通称「カーベキュー」と呼ばれる回転台に据え付けられ、痒いとこにも手が届く鈑金作業が始まります。私の自動車趣味史上、未知の領域に踏み込むのでとても楽しみです。記事中の主な写真は、写真家・平林克己君の撮影です。お世話になっている皆さま、ありがとうございます。

中央自動車鈑金工業所のみなさん、お世話になります。

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