STORY

メーター越しの空はあの頃の色……HONDA CB1100EX[ケニー佐川の今月の1台・第1回]

ケニー 佐川 ホンダCB1100EX 2023.02.09

モーターサイクルジャーナリスト・ケニー佐川による新連載

連載を始めるに当たって最初にひと言ご挨拶。自分はモーターサイクルジャーナリストとして国内外のニューモデルや懐かしの旧車・絶版車に試乗して、それらの魅力を二輪専門誌やWEBメディアで紹介することを仕事としている者だ。

他にもバイクに関する時事問題や交通安全について書いたり、ライディングスクールやイベントなどリアルな場でバイク乗りの皆さんと直に接する機会も多い。多くの業界人と同じようにバイクが好きすぎて趣味がいつの間にか生業になっていた。

たぶん、70年代以降の古今東西新旧大小ほとんどの市販車に乗ってきたし、今現在も公私にわたりバイクざんまいの日々を生きている。この連載では自分目線で最近気になった1台について自由に書かせていただきたいと思っている。

photo:ケニー佐川 CB1100EX ファイナルエディションとともに。

CBの元祖を感じさせるボディワークが昭和世代に刺さる

さて、今回選んだのはCB1100EX。2021年に惜しまれつつも生産中止となったファイナルエディションである。

CB1100はホンダの正統的なネオクラシックモデルとして2010年に発売された。ネオクラシックとは古き良き時代のバイクを現代の技術とセンスで再現したモデルで、過去の名車を彷彿させる正統的なスタイルが特徴になっていることが多い。

CB1100もまさにそれで、特にEXは前後18インチのワイヤースポークホイールにメッキパーツをふんだんにあしらうなど、元祖「CB」とも言えるドリームCB750FOURへのオマージュが全身に散りばめられている。参考までにRSは前後17インチキャストホイールを履いたスポーティな仕様でデザインもより現代的だ。ド昭和世代の自分としては、やはりEXが好みである。

photo:ホンダ、田中誠司 上と左下がCB1100EX ファイナルエディション、右下がRSのファイナルエディション。RSは現代の大型車でメジャーな17インチのキャストホイールを採用している。

ちなみに1968年に登場したCB750は世界グランプリで全カテゴリーを制したホンダがレースで培われた技術の粋を投入して開発されたモデルであり、量産市販車初の並列4気筒エンジンやディスクブレーキを搭載しトップスピードで200km/hを超えた当時の最先端にして最強マシンだった。

北米市場をメインターゲットにしていたが、ふたを開けてみれば世界的なビッグヒットに。その圧倒的な走りと直4サウンドの咆哮はたちまち数多のライダーを虜にした。大型バイクに馴染みが薄かった当時の日本でも“ナナハン”ブームの立役者となったのは有名な話だ。

photo:ホンダ 上と左下がCB始祖と言えるCB750FOUR。右下CB750Racer。1973年のデイトナ200で6位となったそのマシンだ。

少し脱線するが、近年バイク業界は迷走しているように見える。高級スポーツモデルはすでに普通の人間が扱いきれないほどに高性能化してしまい、逆にマーケティング重視で作られた普及モデルは迎合主義的でなんか面白くない。バイクってそんなものじゃなかったはず。眺めたり転がしているだけで気持ち良くなれたり、仲間とワイガヤしながら堂々とストーリーを語れる憧れの存在であってほしい。

そんな想いを抱くライダーも少なくないと思う。そう考えると最近の旧車や絶版車の異常な人気ぶりも納得できるが、一方で価格高騰や年式ゆえの部品供給の悩みもあり。その狭間にピタっとはまるのが現行のネオクラシックモデルであり、とりわけホンダ「CB」やカワサキ「Z」など伝統の名を受け継ぐモデルは名実ともに鉄板と言える。

photo:ホンダ CBシリーズの旗艦車種であるCB1300 SUPER FOUR。1992年に1000ccエンジンを搭載したCB1000 SUPER FOURとして初登場し、1998年から現在へと続く1300ccに。そのオーソドックスなスタイルはCB1000SUPER FOUR以来大きな変更はなく、現在もシリーズの象徴的なモデルとして生産・販売が続いている。
Photo:ホンダ 左が1000ccのエンジンを積んだCB1000Rで、右側が650ccのCB650R。どちらもスーパースポーツのCBR系のエンジンを採用した現代的なスポーツモデルだが、丸型のヘッドライトを基調とした往年のCBスタイルを踏襲したネオクラシックモデルでもある。

"ひとりのバイク乗り"としての新たな相棒に

そのCB1100EXが実は最近自分の相棒になった。ファイナルエディションが出ると聞き、もうこの先作られることがないであろう最後の空冷4発と思うと居ても立ってもいられず、気が付くとホンダドリーム店の入口に立っていた。なぜかドキドキしてしまい、まるで片思いの彼女に想いを告白するような照れくさい緊張感が押し寄せてきたのが自分でも可笑しかった。

バイク業界に身を置くようになって久しいが、これまではスクールや雑誌企画などの絡みで仕事優先のバイク選びをしてきた感がある。その点CBは完全に自分の趣味。何の忖度も柵もないフリーな相棒だ。

CBと名の付くバイクにはこれまでも何台か乗ってきたが、やはり直4エンジンは最高。まずエンジン自体が車体からはみ出るほどにデカく存在感があるし、特に空冷エンジンは水冷と違ってラジエターなどの補器がないため見た目にもシンプルな美しさがある。一方でシリンダーはウォータージャケットに覆われていないためメカノイズも大きいし、冷却用のフィンからもキンキンカンカンと音が鳴る。でもその剥き出しの機械っぽさが愛おしいのだ。

Photo:ホンダ、ケニー佐川 CB1100のエンジンは専用機として新規開発された。トランスミッションは2010年の発売当初は5速MTであったが、2014年の商品改良でEXを追加したと同時に6速MT化。100km/hの高速巡行でも回転上昇が抑えられ、3000回転付近の心地よい回転フィールを味わえるようになった。ちなみに右下の画像はエンジンオイルを利用したプラグ周りの冷却回路の透視図。

東京・玉川ICから第三京浜に乗り、横浜新道を経由して西湘バイパスへと向かう自分の中での黄金のルートがある。都会の喧騒を抜け出して海へと向かう解放感は何度味わっても飽きることがない。CB1100EXで街を流しているときの図太い唸り、高速でアクセルを大きく開け放ったときの伸びやかなハイトーン。CB1100EXの2本出しメガホンマフラーが奏でるハーモニーはまさに管楽器のような心地良さで胸に響いてくる。

Photo:ホンダ EXのマフラーは左右2本出し。一本一本がコンパクトなため後輪の存在感も際立つ。

そして、ハンドリングが最高に気持ちいい。ちょっとしたカーブを曲がるときでも、ワイヤーで編んだしなやかなホイールと細めのタイヤが、ライダーを急かすことなく穏やかで軽快なコーナリングを楽しませてくれる。これぞ昔ながらのバイクのハンドリングである。

Photo:田中誠司 ワイヤーのパターンが美しいCB1100EXのホイール。タイヤはラジアルタイプだ。

抜けるような紺碧の空の下、ふと湘南の海に横眼を向けると砕ける波頭が陽光に染まってキラキラと輝き、メーター越しに流れる景色に身を任せていると20代の頃に戻ったような清々しい気分になる。晴れやかで爽快。バイクに乗ると科学的にも脳が活性化して若さを保てるらしいが、それもたしかにあると思う。もうすぐ季節が良くなったら、ちょっと遠くまで足を延ばしてみたい。

連載初回からすっかりエモい話になってしまったが、そんな気持ちにさせてくれるCBとの蜜月は長く続きそうだ。

Photo:ホンダ 新たな相棒は今後どんな景色を見せてくれるのだろうか。

ケニー佐川(佐川健太郎)
早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促・PR会社を経て独立。趣味で始めたロードレースを通じて2輪メディアの世界へ。雑誌編集者を経て現在はジャーナリストとして国内外でのニューモデル試乗記や時事問題などを2輪専門誌・WEBメディアへ寄稿する傍ら、各種ライディングスクールで講師を務めるなどセーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。元「Webikeバイクニュース」編集長。「Yahoo!ニュース」オーサー。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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