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ヒマラヤの麓、道なき道を駆け抜けろ! 「モト・ヒマラヤ 2022」#01

出発の日が来た

田中 誠司 ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ 2022.08.14

東京からすでに波乱の予感

いよいよモト・ヒマラヤ2022へ向けて出発の日が来た。この日のためにいろいろ買い込んで準備をしてきたが、最終段階のパッケージングも大変だった。オフロード走行用品を含め装備を大きなトランクに、衣服は小さなトランクに、食料品はエコバックに、PCと医薬品ヘルメットはバックパックに収めた。

朝3時まで支度をして、7時過ぎの電車に乗ったと思ったら羽田へ向かう京急線が事故で不通に。品川から浜松町へ引き返してモノレールに乗ろうとするも大混雑している。

右:今回の私の荷物。ひとりで取り回せるのはこれくらいが限界だろう。

両手一杯に荷物を抱えて、コロナ禍ゆえ多数ある提出書類をコンビニで印刷して両替したら、もうボーディングまでギリギリ。飛行機がANAで本当にホッとした。機内で見た「市船ソウル」の映画も良かった。

ときには60km/hを超える強い追い風のおかげでせっかく早く着陸できたのに、インド入国は書類の審査や指紋採取で大渋滞、飛行機を降りてから空港を出るのに2時間もかかった。

そしてホテルへタクシーで向かう道の交通マナーの酷いことに驚く。狭い道にトゥクトゥクを含む多数のクルマがツメツメで走り、隣の車が10センチまで迫ってきて、クラクションの嵐。これは戦いだと思った。そこをさらにバイクがすり抜けていく。

タクシー自体もなかなかひどい代物で、よくアフリカあたりの未開の地をテーマにしたドキュメンタリーで、移動用の果てしなく汚れたクルマが出てくるが、イメージとしてはあんな感じだ。型遅れのスズキ・スイフトに小さなトランクを与えたものだが、LPG仕様なのか荷室には小さなトランクひとつしか入らず、セダンの上に荷物用のキャリアが搭載されていて、トランクはそこに無造作に置かれ、固定すらされない。

到着したデリーのホリデーインは、他の国のそれより設備がよくホッとした。翌朝は7時10分発の飛行機に向けて、念のため4時50分という早いチェックアウトだった。ホテルが手配したクルマなので、昨日のタクシーよりだいぶマシだ。

空港へ着くと、まだ夜明け前なのにものすごい数のタクシーとクラクションの嵐が。

左:朝5時過ぎ、周囲は真っ暗だというのに空港の外から長蛇の列が。

インドの旅は、それだけで冒険だ

他の国では経験したことがないのだが、空港建物の入り口で搭乗券のチェックをしており、そこで30分を消費。涼しい早朝だからいいけれど、暑い昼間に屋外で並ぶのは地獄だ。

さらに荷物の預け入れに、なんと1時間かかった。超過荷物の重さを厳密に測って、追加料金が払われるまでチケットが発券されないという仕組みで、オーバーブッキングしていたこともあり10人中ふたりは搭乗できなかった。朝の時点で事前チェックインしていなければ、席は確保されていないのだった。

さらに1人は荷物がロストした。満足にレー空港まで到着できたのは10人中7人。インドに出入りする時、あるいは国内で移動する時は、1日余裕を持っていなければならない。

レーに向かう飛行機は、予想よりはるかに大きい、百数十人を収容できるエアバス320だった。オーバーブッキングしているだけあって、確かに隅々まで満席である。

機内からはヒマラヤの山々が見渡せる。こんなに刺々しくたくさんの山が林立しているとは。

山を切り開いて作ったレー空港に着陸するには、かなりの技術を要求されるようだ。実際、高度が周囲の山々の頂と同じ位になってから、左右に何度も大きなロールを繰り返すので、映画「トップガン・マーヴェリック」のレーダーをかい潜るシーンを思い出させた。なかなか上手な操縦だった。

空港からホテルへの移動は懐かしい顔のスズキ・キャリイをベースとする小さなミニバンだ。1969年に登場し、デザインはジウジアーロが手掛けたといわれる。周囲の山々は麓から頂上まで薄茶色の瓦礫を積み重ねたようで、思いのほか殺風景ではある。

インドの乗用車といえばまだスズキが大活躍。古いキャリイの荷室をおそらく拡大し、後端まで座れるミニバンにしているのだが、追突されたらひとたまりもなさそうだ。

高山病がお出迎え

標高3,500mのレーに降り立ってまず感じたことは、日差しの強さである。スキー場やアスファルトの照り返しよりも強烈だ。そしてだんだん空気の薄さを感じ始めて、眠くなってくる。

「イベントが始まるまでの2日間は高度順応のため、完全に身体を休めてください。タバコも酒も禁止、ホテル内の移動は階段ではなくエレベーターを使いましょう。今日は街へ出ない方が良いです。最初の過ごし方でその後の体調が決まります」と、ロイヤルエンフィールドのスタッフであるアルジェが説明する。勧めに従って、持ち込んだ食料を食べたあと、すぐ昼寝することにした。

しばらく食事の用意などしていると、高山病の薬を飲み始めたにもかかわらず、酸素不足が身体に響いていることを実感する。ひとつのことしか考えられなくなって、動作が緩慢になるのだ。昼なのに4時間くらい寝たけれどもまだ眠くて、すこし息苦しくて頭が痛い。二日酔いの日に風邪をひいた感じだ。

高山病の薬とセットでロキソニンを渡されたこと考えると、高地で慣れない人はこうなるのが当たり前なのだろう。そのロキソニンを1錠飲むと、頭痛はだいぶ改善された気がする。そもそも、時差があるとはいえ朝4時台集合で、そこから7時のフライトまでずっと立ちっぱなしでバタバタしたことを考えると、疲れているのは仕方ない。山の端と雲の美しさを部屋から眺められる部屋で、明日もゆっくりしようと思う。

Hotel Lakrookからの夕景。

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