STORY

ドラマにはアクシデントがつきもの……Der FREIRAUM デアフライラウム“自由な余白”♯26

エンジン復活! 路上テスト敢行!!

横川謙司 フォルクスワーゲン・ゴルフ 2025.01.17

GTIエンジンを搭載します

どんなレストア物語も同じだと思いますが、一喜一憂、七転び八起き……ひと筋縄にはいかないみたいです。それでも、ほぼ一年に及んだエンジン換装作業、茨木の空冷VW工房、CHELM てんちょーの苦労の甲斐あり、十数年ぶりにエンジンが息を吹き返しました!

ボッシュの禁断メカ、K-Jetronic のオーバーホールは自分でやることになりましたが、なんとかエンジン始動に漕ぎ着けることが出来ました。このエンジンは、岩手の廃車ヤードから引き上げて来た二世代目Scirocco GTXのもの。

希少なSciroccoながら、書類なし、クレーンで吊られてルーフが変形している状態で、公道復帰は叶わぬ個体ですが、エンジンは初代Golf GTIと同スペックで、貴重な5速MT仕様。「これは持っておいた方が良い」という友人のアドバイスで岩手から運び、長らく実家ガレージで保管していました。そもそもは、もう一台のCaddy用にと思っていたのですが、Bischofberger(ビショフベルガー)Camperが突然手に入ったことで予定変更。重たいCamperには、エンジンが元の55馬力から95馬力にパワーアップするのは魅力的だし、GTIエンジンのCaddy Camperと言うのも悪くない、と思ったのです。

ただし、10年以上放置されていたエンジンが素直に始動するはずもなく、蘇生までかなりの紆余曲折を経たことは先の連載の通りです。エンジンが動いたら今度は様々な補器類との調整も発生し、てんちょーには相当なご苦労をおかけしました。作動しなかった水温計はセンサーやサーモスタットの交換で復活、液晶漏れしていたクロックも部品が手に入ったので自分で交換しました。ミッション周りのリンケージやガスケット、フロントサスペンションやらボールジョイントやら、ディスクブレーキにブレーキホース、ウォーターポンプにイグニッションコイルに……いくつ部品を買ったかわかりません。部品が出るだけありがたいし、そこはさすがGolf一族だな、と感謝するところですが、時々Caddy専用部品が欠品していることもあり、やれるとこからリフレッシュ、という感じで進んでいます。

エンジン復活後初の路上テストやいかに!?

さて、エンジンも問題なく回り「とにかく走ってみよう」と言うことで、短期の自賠責を契約、仮ナンバーを取得しました(並行輸入車で未だ車検証がない状況でも、自動車通関証明書があれば自賠責に入り仮ナンバーを取ることが出来ます)。CHELMに着くと、長らくリフトを占拠していた我がキャンパーは地上に降り立ち、試運転の時を待ち侘びているように見えます。

(左)Golf 1乗り憧れの5速。エンジンスペックは初代GTIとほぼ同じ。(右)Scirocco用メーターを移植。260km/hまで刻まれています。

運転席につくのは約1年ぶり。ダッシュボードは、グローブボックスのついた別のGolfのものを取り付けてあります。メーター類はSciroccoから移植。元々のメーターは距離計が5桁しかなく、10万キロで0に戻ってしまうのが残念で、将来の長旅を考えて6桁仕様であるSciroccoのものを使うことにしたのです。ただ、メーター部分のユニットがGolf/Caddyのモノより5mmほど幅広く、悩んだ末にボルト取り付け突起を 3Dプリントで自作しなんとか固定しました。

さて、これもSciroccoから移植したシートに腰掛け(やはりポン付けはできず、てんちょーにひと工夫してもらってます)、ミッションの感触を確認。イグニッションキーを捻ります。数ヶ月前の状態が嘘のように目覚めたエンジンは、快調そのものに思えます。てんちょーにも同乗いただき、ドキドキのご近所一周へ。シフトをローに入れると、スッと前に出るキャンパー……感動のひととき。

初の長距離テスト走行。前半は快調でした……。

まずはガソリンを入れようと、工房から100mほどのスタンドへ向かいますが、なんと、早速エンジン不調の兆し。アクセルを踏み込んでも、パワーが出ない。むむ、これは……。スタンド入口の縁石を越えるにも心許ない力で、なんとか敷地内へ。せっかくなので給油は済ませたものの、やはりエンジンは息をつく状態です。這々の体でスタンドから出るも、100mほどでついに立ち往生してしまいました。

牽引されるって、難しい……。

幸い、工房からそう遠くなく、牽引できるクルマを取りに行くことに。牽引ケーブルを引っ掛けソロソロと裏道を曳かれて行くと、偶然通りがかったCHELMのお客さんに励まされたり、下校途中のキッズに笑われたり……。なんとか工房まで戻り原因究明です。10分ほどアイドリングしているとエンジンが息をつき始めて、そのまま様子を見ているとやがてストールしてしまう。この謎のストール現象は実に様々な状況で現れ、原因特定までかなりの時間を要することになります。

このScirocco用エンジンは、Golf 1世代のものをなんとかGolf 2時代の新基準に適合させようとアレコレ延命策が施され、機能のよくわからない配線や配管がたくさん。燃料経路一つとってもオリジナルの状態と違っており、アイドリング不調の原因特定は困難を極めました。Scirocco の燃料タンクからの経路には、エンジンまでの間に二つポンプがあるのですが、キャンパーのベースであるCaddyにはひとつだけ。しかも、自然落下というか重力式というか、ただ自重でガソリンが押し出される構造なので、それゆえ燃圧が足りなくてアイドル不調になるのでは、とも考えました。ただ、Caddyにも、そもそも同じ形式のエンジンが載っていた仕様もあり、パーツ構成図を見てもポンプが追加されていた形跡はありません。

始動直後は好調なのだが……。

エンジン始動後しばらくは調子が良いのも謎。今年の夏がかなりの猛暑だったのは皆さま記憶に新しいと存じますが、不調が出たその日もあまりに暑く、ガソリンが沸騰するパーコレーションを疑ったりもしました。てんちょーには善後策として、燃料のリターン経路にフュエルクーラーを挟んだり、 燃料ポンプを替えたり、あの手この手で打開策を講じていただきました。だんだん症状は出なくなり、ある日の長距離試運転ではかなり調子良く100kmを無事に走行、道中で問題解決を確信したものの、最後の最後に息つきが出てしまい、なんとか CHELM まで帰還したそうです。

Golf 50th GTI FAN FESTで転機を掴む

(左)GTI FAN FESTに電撃参加! (右)WolfsburgのVW博物館「アウト・ムゼウム」。

なかなか迷路から抜け出せず試行錯誤が続くこの時期、ちょうどドイツのVW本社脇でGolf 50thのGTI FAN FEST がありました。Golf好きをここまで公言する身としては行かねばなるまい、ということで渡独。工場近くに旧くからある Auto Museum にも足を運ぶと、ピカピカのCaddyが展示されているではないですか。

アウト・ムゼウムで発見した新車のようなCaddy。さっそく下回りを覗き込む筆者。

オリジナルの燃料経路はどうなっているのか、これは観察しない手はないということで、失礼して裏側を撮影し、格闘中のてんちょーに共有しました。やはり追加の燃料ポンプはなく、シンプルに配管がエンジンへ伸びていることを確かめました。

その後しばらくして「フィルター詰まりかも」と言うことで、燃料タンクの次位にあるフィルターを外して試走。問題は起きず、外したフィルターを分解するとまぁまぁな量のサビが出たそうです。

VW Golf1 Caddy キャンピングカーとの旅 Chapter 3 VW Caddy Journey / Bischofberger VW Caddy Camper
https://www.youtube.com/watch?v=aFVv9pIqti8

燃料タンクからのサビ。タンク内部を洗浄しないといけません。

ようやく原因が特定出来ました。走っているうちに細かなサビがフィルターに蓄積し、だんだん目詰まりを起こし、やがて梗塞状態に。エンスト後、しばらくすると圧が解除されて詰まったサビが再びフィルター内に拡散し、再始動が可能になっていたようです。少々目の細かい問題のフィルターを、エンジンルームにあるのと同じものに交換、再度のテスト走行で118kmを無事に走り切ったとの一報が!

ようやく謎のストール呪縛から解放されました。様々な想定外をてんちょーと友人たちの知恵と工夫でひとつずつ克服、キャンパーがCHELMを旅立つ日が近づいて来ました。さて、次のドラマはどんな展開に……?

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