皮を剥いだレーサーは紳士か戦士か……トライアンフ ストリートトリプル 765 RS [ケニー佐川の今月の1台・第3回]
ケニー佐川 2023.05.31記者、そしてMFJ公認インストラクターとしてライダーのスキルアップを手助けするなどマルチに活躍するモーターサイクルジャーナリスト・ケニー佐川氏の本連載。
第2回は、昨今日本でも存在感を増す英国のブランド「トライアンフ」から「ストリートトリプル 765 RS」を選んだ。同車は、今年1月に日本でのデリバリーが始まったばかりの新型で、レーサー由来の心臓を持つストリートファイターである。トライアンフを駆り実際にレースにも参戦した佐川氏が、そんな最新の戦士を「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」で試した。
英国文化が育てたスポーツマシン「ストリートトリプル 765」
モーターサイクルが生まれた20世紀の初頭から1960年代まで世界中を席巻した英国車。
マン島TTなどのメジャーレース界での活躍はもちろんのこと、自慢の改造マシンで夜な夜なカフェに集まる「カフェレーサー」や、革ジャンに身を包んだワル風バイカースタイルの始祖である「ロッカーズ」などの若者文化を生み出した。
リアルな歴史に裏打ちされた本物の伝統を今に伝える数少ない生粋の英国ブランドが、トライアンフである。
普段着のように手触りの良かった2007年登場の初期型「ストトリ」
今回ご紹介する「ストリートトリプル 765」は、トライアンフが誇るミドルクラスの3気筒スポーツモデルだ。
最初に少し出自について触れておこう。2007年に登場した初代は、当時のフルカウルスポーツ「デイトナ 675」をベースに、公道での扱いやすさを重視して最適化されたネイキッドモデルだった。
その後も改良を重ね、2017年には排気量を765ccに拡大し電子制御を投入した新世代へと進化。2019年に「ロードレース世界選手権 Moto2クラス」へ独占的にエンジンを供給する権利を得たトライアンフは、従来型「ストリートトリプル RS」の水冷3気筒765ccをベースにMoto2用エンジンを開発。
レースで切磋琢磨されたエンジンを、逆に市販車にフィードバックする手法で実績を積み上げてきた。そして今回、2023年モデルではエンジンを一新し、さらにパワフルな走りと洗練されたデザインと、先進的なテクノロジーを搭載した最強マシンとして生まれ変わった。
ちなみに新型「ストリートトリプル 765」シリーズにはスタンダード版の「R」と上級版の「RS」、そして限定モデルの「Moto2エディション」の3タイプが設定されている。
私事だが自分とトライアンフとの付き合いはけっこう濃厚だと思っている。「デイトナ 675」の初期型を購入して「鈴鹿4時間耐久ロードレース」に参戦したり、空冷時代の「スラクストン900」で耐久レースにも出場したりも。
「ストリートトリプル」についても、2007年に初期型のローンチがスペインで開催されたが、まるで普段着のような“乗りやすさ”に大そう感心した記憶がある。もちろん、その後に出てきたすべての「ストリートトリプル」にもみっちり試乗し、その進化ぶりを目の当たりにしてきた。
そして今回の最新型だが、先代モデルの完成度がかなり高かった故にかえって内心ちょっと心配でもあったのだ。
もっとも手の届きやすいMoto2マシン
最新モデルではスタイリングも一新され、ヘッドライトやタンクまわりなど多くの外装パーツが新設計となっているが、やはり注目したいのはエンジンだ。
Moto2から得られた知見とノウハウをフィードバックして開発された新設計の水冷並列3気筒エンジンは、従来モデルから7psアップの最高出力130psを達成するとともに、ピークトルクも80Nmへと強化。ギアリングとファイナルドライブの見直しにより、レスポンスと加速性能も向上した。
車体面では、12mmワイドなハンドルバーやジオメトリーの見直しにより、扱いやすさと俊敏性を向上させている。
そして、何よりもMoto2マシンとほぼ同じエンジンを積んだ公道モデルであることに価値があると思う。
つまり、望めば誰もが乗れるのだ。
昨秋にMotoGP最終戦が行われたバレンシアで発表会が行われた際も、トライアンフは「公道を走れるMoto2マシン」とそのコンセプトを高らかに打ち上げていた。
ちなみにMoto2マシンのトップスピードは、今や300km/hオーバーに達し、コーナリング速度は最高峰クラスのMotoGPマシンに肉薄する。そして、今現在2023年シーズンを戦っているMoto2マシンのエンジンは、まさしく新型「ストリートトリプル」用がベースになっているのだ!
話を戻して、足まわりも進化した。シリーズ史上最高グレードのブレンボ製スティルマキャリパーを新たに採用し制動力を強化。従来から引き続き全調整式のショーワ製ビッグピストン倒立フォークと、オーリンズ製リアサスペンション、ピレリ製「ディアブロ・スーパーコルサ SP V3」タイヤを純正採用するなど、サーキット対応の戦闘力を狙ったスペックが与えられていることが装備からも分かる。
また、電子制御では新スロットルマップによる進化した5段階のライディングモードに加え、新たに最適化されたコーナリング対応のABSとトラコンを搭載。Bluetooth対応のTFTメーターやDRL付きフルLED、ラップタイマーなど装備のグレードも上級モデルならではだ。
サーキットにてテイスティング、Moto2産のトリプルは太くて軽快
さて先日、日本初お披露目となった新型「ストリートトリプル 765 RS」だが、千葉県にある「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」にて試乗する機会を得たので、そのインプレッションをお届けする。
跨ってみると、タンクまわりがスリムかつサスペンションも柔らかめなので、足着きも見た目ほどは悪くない。
全域で盛り上がる3気筒ならではのフラットトルク特性は扱いやすく、アクセルさえ開ければ、どこからでも加速できるパワーバンドの広さが強みだ。
昔のアストンマーチンにも似た独特のハスキーなトリプルサウンドはいつ聴いても惚れ惚れする。新型はとにかく回転がスムーズで、分厚いトルクと伸びやかなパワーという3気筒の良さがさらに磨かれた感じだ。
ライディングモードも乗り味が変わるので楽しい。「ロード」から「スポーツ」へと切り替えるとパワーの立ち上がりが俊敏になり、最もアグレッシブな「トラック」モードでコーナー立ち上がりからフロントが浮いてくるほど。ギア比がショート化されて加速重視になったことも奏功している。
サーキット走行に対応したクイックシフターとスリップ&アシストクラッチもすこぶる滑らかタッチで反応も正確だ。
ハンドリングは3気筒ならではの軽快さ。軽量な車体を生かしてひらりと身をかわしスパっと倒し込める自在感が気持ちいい。
キャスター角を立ててヒップアップした車体ディメンションへと見直され、新たにワイドハンドルを採用したことで、ステップワークや操舵に対するレスポンスもより俊敏性を増している。
すこぶる速いが車名に込めた志向はブレていなかった
簡単に言うと、よりスポーツ志向になった。ぎりぎり扱えるパワーとミドルクラスならではの軽さが両立しているため、めちゃ速いけれど“手の内感”がある。そこが1000ccクラスにはないメリットだ。
従来から継承された前後サスペンションも、ストローク感があり路面のギャップにもよく追従してくれるのでコーナリング中も安心。新型ブレンボの制動力は、強力かつレバータッチにストローク感があってコントールしやすい。
トラコンの制御もより緻密で自然になった。新たに採用されたコーナリング対応のABS&トラコンに加え、「スーパーコルサ SP V3」の絶大なグリップ力に支えられ安心して攻め込むことができた。
一方で、シート高が従来モデルより高くなったことを気にする人もいるだろう。ただ、オプションのローシートに加えさらにローダウン化できる仕組みが標準装備されているため、足着きの問題はクリアできるはず。
ちなみに、そのローシート&ローダウン仕様にも試乗してみたが、これが意外にも乗りやすくスポーティさも犠牲になっていなかった。
少しだけ街乗りする機会もあったのだが、低速からトルクが出ているのでストップ&ゴーも苦にならず、ハンドルも思っていた以上に切れるため街中での取り回しもしやすかった。
扱いやすさはそのままに、よりパワフルに走りのグレードを高めた新型ストリートトリプル。強豪ひしめくミドルクラスの中でも最も洗練された走りを堪能できる一台だ。
ケニー佐川(佐川健太郎)
早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促・PR会社を経て独立。趣味で始めたロードレースを通じて2輪メディアの世界へ。雑誌編集者を経て現在はジャーナリストとして国内外でのニューモデル試乗記や時事問題などを二輪専門誌・WEBメディアへ寄稿する傍ら、各種ライディングスクールで講師を務めるなどセーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。元「Webikeバイクニュース」編集長。「Yahoo!ニュース」オーサー。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。
[SPEC]
トライアンフ・ストリートトリプル 765 RS
車両本体価格(消費税込):¥149万5,000円~全長:2,050mm
全幅:790mm
全高:1,060mm
シート高:836mm
車両重量:189kg
エンジン:直列3気筒 DOHC 水冷 自然吸気 ガソリン
排気量:765cc
最高出力:130ps/1万2,000rpm
最大トルク:80Nm/9,500rpm
変速機:6段 MT リターン式
タイヤサイズ(前):120/70ZR17
タイヤ(後):180/55ZR17
(記事執筆時点におけるデータです)