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「ブレイクアウト」と「ローライダーST」ハーレーダビッドソンの最新クルーザーに触れる

田中誠司・橋本誠一 ハーレーダビッドソン 2025.10.24

ハーレーダビッドソンの2025年モデル「ブレイクアウト」および「ローライダーST」の試乗会が東京湾岸エリアで開催された。空冷Vツインの基本構造は不変のまま、最新の電子制御と装備を積極的に取り入れ、毎年細やかに改変を重ねていくハーレーの料理法は、人気の2台にどんな味わいをもたらしているのだろうか。夏の盛りの1日、東京ゲートブリッジを仰ぐ海沿いの道を走らせると、両車は同じクルーザーカテゴリーに属しながら、求める世界観がはっきり分かれていることを改めて理解できた。

ブレイクアウトはロー&ロングの姿勢と極太タイヤが生む直進安定性を土台に、最新のライドモードと改良された操作系で、豪快さの中に扱いやすさを手に入れた。117ci(1923cc)へのエンジン拡大により、低中速の粘りとフレキシブルな応答が増し、どれほどリラックスしていてもバイクのほうが着いて来てくれるような包容力が得られている。4インチのアナログ+LCDメーターや刷新されたLEDヘッドライト/ハンドスイッチにより、視認性とクラシカルな質感が両立したのもトピックだ。

一方のローライダーSTは、ミッドコントロールと比較的短いホイールベース、43mm倒立フォークがもたらす、積極的に操る感覚が光り、スポーツモード選択時の鋭いエンジン・レスポンスも含めて走りの解像度が明確だ。2025年モデルは最高出力・レブリミットの向上とともに、新しい2-into-1エキゾーストやヘビーブリーザーインテークも与えられている。基本的にスポーティなスタンスに、大型フェアリングによるウィンドプロテクションが組み合わせられ、万能なハーレーダビッドソン・クルーザーとしての立ち位置が明らかである。

ブレイクアウト:押し出しと寛ぎの同居

ブレイクアウトは、カスタムトレンドを取り込んだプロポーションと、240mm幅の極太リアタイヤが象徴的だ。今回のモデルでは、ロード/レイン/スポーツの3モードでスロットル応答と電子制御を変更できるライドモードが新たに備わった。

スポーツモードであっても、うかつにスロットルを開けると危ないような神経質さは見えず、厚いトルクを穏やかに立ち上げていく印象であった。直進ではホイールベースの長さが奏功し、クルージング時のどっしりした安楽さはこの車の美点である。扁平タイヤの採用により、ほかのクルーザー各モデルに比べて足元の重さを意識させるシーンはあるし、路面の轍ではやや神経質さが顔を出す局面もある。コーナリングに際しての身のこなしは重めだが、自然に曲がる範囲に収まり、重心の低さを反映して街中の取り回しも構えたほど苦にならず、総じて扱いやすい。

足を投げ出すように着座するフォワードコントロールのライディングポジションは、ハーレーに慣れないライダーには難しく感じるだろう。しかし、チョッパーレイクと呼ばれる後傾したフロントフォークがもたらすロングホイールベースは、このフォワードコントロールに限ってバランスするデザインである。シフト系はリンクが長いためか、操作量が大きく感じられることがあるが、節度感そのものはしっかりしており、がっちりとした作動感のなかでスムーズにつながる。

デザインはヘッドライトがよりクラシカルな意匠となり、ハンドル内に隠れるようだったメーターも、バイクのメーターらしいレイアウトへ回帰した。結果として、チョッパー的なクラシック観と現代的な電子制御が同居する、独特のリラックス感と迫力が並び立つ仕上がりである。103hp/168Nmのエンジンは「カスタム」系統で、低中速域の太さがこの車のキャラクターに素直に寄り添う。総括すれば、見た目のインパクトと直進の安楽を最重要視しつつ、扱いやすい豪快さへと進化したのが今回のブレイクアウトである。

ブレイクアウトはライドモードの導入や操作系の見直しで、豪快な見た目に反して扱いやすさが増し、クラシカルな意匠への回帰も相まって押し出しと寛ぎが同居する。

ローライダーST:積極的に操るパフォーマンスクルーザー

ローライダーSTは、走りに振ったハイパフォーマンスクルーザーという成り立ちをさらに磨き上げた。ミッドコントロールの自然なペダル位置は、ブレーキとシフトの操作に余裕を生み、街中の取り回しからワインディングの切り返しまで、人が主導で操る感覚を常に失わない。

外観の重々しさに反してハンドリングは軽く、ライダーが積極的にラインを選べる余白が大きい。114hp/173Nmのエンジンは「ハイアウトプット」の系統で、回したときの伸びとパンチが明確だ。巡航域での粘りも備えつつ、ひと捻りで1段上の加速帯へ滑り込む身のこなしが得られる。

フロントカウルが生み出す顔がアイコンのデザインは、ブラックアウト1択だった従来型と異なり、クロームトリムの選択肢が加わったことで、メカニカルな輝きの表情が戻ってきた。グラフィックもわずかにトーンが見直され、アメリカンらしい雰囲気を色濃く感じさせる。

ウィンドプロテクションを高め、長距離巡航を圧倒的に楽にしてくれるフレームマウントの大型カウルを備えることが実用面での大きな特徴だ。その反面、走行音が反響しやすいこと、熱気がこもる場面があることは事実で、ここは長所と短所が表裏一体の関係にある。総じて、より軽い操舵感とスポーツモード時の即応性、そして日常域の扱いやすさが高い次元で同居し、走りの骨格が明快なパフォーマンスクルーザーに仕上がっている。

二者択一ではなく、世界観の選択

両車は日本で上位人気を競うモデルであり、その拮抗は今作でも変わらない。ブレイクアウトは「押し出しの強さと寛ぎ」を核に、直進での官能を最新の電子制御で飼い慣らした。一方のローライダーSTは「積極的に操る快感」を軸に、走りの文脈をよりクリアにした。

どちらも“最新の配慮でもう1段乗りやすくなったハーレー”という着地点を共有する。見た目で惚れるか、操縦で惚れるか。最終判断はシンプルだが、そのどちらにも説得力があるのが2025年の2台である。

ローライダーSTはミッドコントロールと倒し込みの軽さ、スポーツモード時の即応で積極的に操る快感が明快だ。大型カウルの装着は、反響するサウンドと熱のこもりから好みが分かれるかもしれない。

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