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「フォーミュラE」東京大会: 撮影体験とレースの新たな魅力

PF編集部のフォトグラファーとエディターが観て感じたフォーミュラEとは?

J.ハイド、烏山 大輔 2024.04.29


PF編集部は初の東京開催となったフォーミュラEに、ドローンも操るフォトグラファーと、モータースポーツとEVに目がないエディターを派遣した。ふたりの視点から、新しいモータースポーツの姿を紹介する。

都心で味わえる、非日常感に溢れたサーキット体験:J.ハイド(フォトグラファー)

3月29日、30日に開催された「フォーミュラE」 へ、FIAから公認されフォトグラファーとして撮影に臨んだ。初の東京都心での本格的なモータースポーツの世界大会、そこに多くのポテンシャルを垣間見ることができた。

まずF1をはじめとする多くのモータースポーツは郊外の、人気が少ない地域に建設されたサーキットに行くまでに、多くの時間や費用がかかる。F1の場合は、スーパーフォーミュラなどの国内レース以上にアクセスや宿泊や手配は深刻であり、重い機材を抱えてのそれは、慣れていないと苦行そのものだ。

その点では、以前に取材した海外の市街地サーキットは公共機関でも無理なくたどり着けた。宿泊もネットで探すと法外なレベルまで高騰しておらず、会場まで1時間程度のホテルを見つけることができる。

同様の意味で、今回のフォーミュラE東京大会は公共機関でスムーズにアクセスでき、首都圏在住者にとって、市街地サーキットの魅力を存分に発揮するものだった。

初回なので観客席は2万人と少なかったせいもある。ただ、元々はモビリティショーなどで10万人以上のアクセスが可能なエリアなので、数々のイベントを見てきた経験からいえば5〜6万人まで大きく混乱しないであろう。

会場に入ると、チームも老舗モータースポーツブランドと新興ブランドが両立して華やかなものだ。ピットレーンこそ限られた時間しかアクセスできないが、パドック裏のエリアは今回、一定以上のカテゴリー客に解放されていた。

そこに足を踏み入れれば、オープンラウンジの様相で、国際的なセレブ感覚を味わえる。ソファとテーブルもある優雅な作りに加えて、欧米人の多い雰囲気は、かなりの非日常感である。

笑顔でファンに応じるセルジオ・セッテ・カマラ選手(25歳、ERT)、左下の写真は手前がニック・デ・フリース選手(29歳)とエドアルド・モルタラ選手(37歳)のマヒンドラのコンビ。右下の写真は手前がサム・バード選手(37歳)とジェイク・ヒューズ選手(29歳)のマクラーレンの二人。 photo: J.ハイド

また、レース前のピットレーンイベントもまるで有名タレントのサイン会のように洗練され、ファンサービス視点の運営がなされている。そして20〜30代のレーサーたちの多くは笑顔が爽やかでハンサム。時にナーバスなF1パイロットと異なり、彼らはサインの後に2ショットを撮ることも全く厭わない。

ポルシェは東京大会にピンク色のスペシャルカラーのマシンを投入した。この写真は3コーナー手前にあったジャンプスポットでの1枚。土曜日のフリー走行では着地でトラブルが出たマシンもあった。ドライバーも横Gには強いが、衝撃をともなう縦Gは苦手だと聞く。来年の開催に向けて改善が必要なポイントだと思う。 photo: J.ハイド

車両はLEDが散りばめられたデザインこそ画一的だが、カラーリングは各チームの個性が存分に生かされている。ポルシェやジャガー、マセラティといった高級車ブランドに加え、マクラーレンやアンドレッテイといったレースマニアの聞き馴染んだチーム名がラインナップされ、会場内でもそのロゴが随所に見られる。

一度レースが始まるとその展開は、前日と決勝当日のプラクティスで30分、決勝でも40分強と非常に短く、展開も早い。流石に1時間もない決勝レースに少し物足りなさを覚える一方で、決勝日だけでプラクティス、そして2ステージある予選、さらに決勝そのものが楽しめる訳だ。

つまり予選と決勝が2日間に亘る多くのモータースポーツイベントに比べて、中身が1日にグッと濃縮されているとも言える。そして、エンジン音がないため、風切り音やタイヤのスキール音、路面とシャシーが干渉する衝撃音など、F1とは違った迫力が発見できる。

この未来的な非日常感は、動画によって初めて伝えられるポイントだ。

加えてコースと撮影ポイントはかなり近く、フォーミュラカーならではのドライバー同士によるアイコンタクト、ヘルメット越しの表情のドラマを至近距離で伺える。具体的には鈴鹿ではカメラマンエリアで400mm換算のレンズが必須であるが、フォーミュラE東京大会では300mm換算でも十分な撮影が可能といった印象である。

翌週の鈴鹿サーキットでのF1日本グランプリ。こちらも日本初の「春開催」でもある事からカメラマンエリアでの撮影取材を敢行した。F1がモータースポーツの最高峰として圧倒的な事は揺るぎないが、冷静に考えれば、時代が求めるのは前者であることを痛感することとなった。

F1の走行は常人の感覚を超え、時に「怖さ」に達するので、市街地サーキットであっても観客席とコースの間には十分な距離が置かれている。しかし、少なくともフォーミュラE東京大会に関しては、一般の観客席からのコースまでが平均して近く感じられるのは間違いない。

そのように考えれば、F1なみの“映え”を、F1にはない未来の“非日常”を、F1では望むベくもない“快適”さで体感でき、撮影チャンスにも恵まれる。これをミラーレス1眼や動画配信をはじめ、新しいスタイルをもつフォトグラファーたちが放って置くわけはない。

今大会も参加フォトグラファーは従前のモータースポーツ撮影関係者は少なく、動画も含めたハイブリッドな撮影を数多くしているように見られた。加えるならプレスルームの女性比率も一般のモータースポーツイベントに比べて、かなり高いように感じた。

来年5 月とも言われる次回の「フォーミュラE」東京大会。そこでは新しい撮影体験を求め、新しい世代のフォトグラファーの参加が一層多くなる事は間違いない。

ビッグサイトの特設会場で行われた表彰式で優勝を喜ぶギュンター選手。ドイツ出身、26歳の彼も爽やかな笑顔の“イケメン”だ。 photo: J.ハイド

会場はニッサンVSマセラティで大盛り上がり:烏山大輔(エディター)

フォーミュラEはこれまでの内燃機関車によるレースにない、独自のルールをいくつも採用している。それらを紹介しながら今回のレースのレビューをしていこう。

予選は、2ステージに分かれたフォーマットを採用している。まずグループステージでは、全22名のドライバーがチャンピオンシップポイントに応じて、各11名の2グループに分けられる。1グループごとに10分間の走行で上位4名のタイムを記録した計8名のドライバーが、1対1の勝負を行うデュエルステージに進出する。

デュエルステージは、準々決勝が4戦、準決勝が2戦を経て、ポールポジションをかけた戦いが展開される。2名のドライバーは15秒ほどの間隔を空けてコースに放たれ、1周のみのアタックラップタイムで勝敗が決まる。会場に配置されたモニターではコースが複数箇所に分割され、その通過時間ごとにどちらのドライバーが速いかが映し出される。観客もそれに一喜一憂しながら応援するドライバーを見守ることができる。

特に今回の予選は、初のホームレースを迎えたニッサンとマセラティがポールポジションを争い、会場は大いに盛り上がった。序盤から中盤にかけてはニッサンのローランド選手が最大0.284秒差でリードするも、終盤にマセラティのギュンター選手が0.099秒差でリードを奪い返す。そしてローランド選手がチェッカーを受けると、わずか0.021秒差でギュンター選手を打ち破り、東京大会の初のポールポジションを獲得した。

決勝レースは、33周で行われる“予定”だった。ポールポジションからスタートしたニッサンのローランド選手が、安定してトップを走り続けていたところ、20周目に起きた他車の接触事故に起因してセーフティーカーが入る。6分50秒ほどのセーフティーカーラップを終えて、23周目にレース再開。

決勝レースはカーナンバー22のニッサンのローランド選手がレースを引っ張った。この写真のようにフォーミュラEは、先頭から数珠つなぎの隊列でのレースが続くので、至るところでオーバーテイクが繰り広げられるのも観ていて面白い。 photo: J.ハイド

そして事態が動いたのは25周目だった。バッテリー残量がもたないと考えたニッサンチームは、ローランド選手に、後続のドライバーにトップを譲るように指示。そしてローランド選手の代わりにトップに立ったのは、予選で鎬を削ったマセラティのギュンター選手だった。

フォーミュラEは、全ドライバーが大会ごとに決められた電力量で決勝を走り切らなければならない。トップを走るドライバーは、隊列の先頭で風の抵抗をもろに受けながら走るため、後続のドライバーよりもバッテリーの消費が進む不利なポジションでもある。事実、セーフティーカーラン中に表示されたローランド選手のバッテリー残量は39%とギュンター選手よりも2%少なかった。

さらにフォーミュラEの特異なルールとして、セーフティーカーが導入された時間に応じて周回数が追加される。セーフティーカー導入中のペースはレース中より遅いため、消費電力が少なくなる。周回数が変わらない場合、セーフティーカーランが長くなるほど、トップのドライバーが有利になるのを防ぐためだろう。

東京大会ではセーフティーカーラン3分10秒ごとに1周が追加されることになっていた。今回の決勝ではセーフティーカーは6分50秒ほど走っていたので、2周の追加ラップが予測できたニッサンチームはローランド選手に先ほどの作戦を伝えたと考えられる。

そして31周目、ルール通りに2周の追加ラップが決定し、35周の決勝レースになった。その時点でもトップはマセラティのギュンター選手、2番手はニッサンのローランド選手。迎えたファイナルラップ、ローランド選手はあの手この手でギュンター選手に仕掛けるが、トップ奪還はならず、そのままの順位でチェッカーを受けた。

25周目にトップに立ったギュンター選手。 photo: J.ハイド

2台ともにチェッカーを受けた瞬間にバッテリー残量は0.0%に。つまりニッサン・チームのバッテリー残量の読みは完璧に合っていたが、マセラティ・チームとギュンター選手の勝負強さまでは読めず、一歩及ばなかった。

しかしチャンピオンシップを考えれば、トップのまま走っていたら電池切れでノーポイントのリタイヤだった可能性があるので、決勝を2位フィニッシュで18ポイント、さらに予選のポールポジション獲得で得た3ポイントの合計21ポイントを獲得したのは立派な結果だ。

東京大会は今シーズンの第5戦だった。その後イタリアでのダブルヘッダーを終え、ローランド選手はチャンピオンシップ3位(80ポイント)に位置している。上位のウェアライン選手(ポルシェ)とデニス選手(アンドレッティ)とはわずか9ポイント差で肉薄している。

今シーズンは7月20日と21日にダブルヘッダーのロンドン大会で終わりを迎える。果たして誰がチャンピオンになるのか、とても楽しみだ。

ABT(アプト)は来シーズンから「ローラ・ヤマハ」のパワートレインを搭載することを発表。ヤマハは1991年から97年にかけてエンジンサプライヤーとして、ブラバム、ジョーダン、ティレル、アロウズと組んでF1に参戦していた。もし来年の東京大会が日産とABTの争いになったら、今年以上の盛り上がりになるのは必至だろう。 photo: J.ハイド

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