1970年代から訪れたデッドストック・ソファ
天童木工の作品を落札してみると・・・
PF編集部 2022.04.08「ENGINE」誌に工業デザイナー、奥山清行氏の連載をさせていただいている関係で、最近、彼の地元である山形を訪れる機会が多く、また山形の産品が気になるようにもなった。
ぼくは昨年事務所を移転して以来、打ち合わせテーブルに組み合わせる椅子をずっと探しており、深く意識もしないままスマートフォンを操る指先が「天童木工」と検索していた。
天童木工は1940年に設立されて以来、成型合板を用いた家具を作り続けており、剣持勇、柳宗理ら著名なデザイナーと組んで特徴的な製品を送り出し続けてきたメーカーである。KEN OKUYAMA DESIGNも、一枚の合板を芸術的に折り曲げた「ORIZURU」というチェアをデザインしている。
オークション・サイトを眺めていると、鮮やかなオレンジ色の、アームレストのついたひとり用ソファが目に飛び込んできた。
1970年代製造の、デッドストックだという。40年以上前に作られていながら、新品だというのだ。
商品の説明書きには下記のように記されていた。
「石鹸の泡のようなものを型に入れて固めたら色々な面白い形ができる。それを家具に使えないかという発想は面白い。その発泡体で椅子を作ってみたい。そうすれば、成形合板で苦心している 球面状の曲面も簡単に作り出せるのではないか。そんな考えで昭和36年に実験が始まり、苦心の末昭和39年に初めての発泡プラスチック製の椅子が東京鼠ヶ関の東京クラブに納められた。(天童木工30年のあゆみ より)そこからフォームチェアが生まれてきました。」
1972~1979年にかけて生産されたOM-5131C型、原好輝デザイン事務所によりデザインされたもので、アルミ鋳造の足に発泡スチロール成型の本体を組み合わせ、山形名産の紅花染を思わせる布地で覆われている。
「未使用品ですが、長期在庫のため経年劣化はご承知下さい。」と書いてはあったものの、 決して高価ではないし、正面から見るとクリオネを思わせる姿がなんとも愛嬌がある。たまらず、入札した。
事務所にとどいたそのソファは、イメージどおりのまさに新品であった。回転式の脚の動作がやや渋いかなと思う程度で、キャスターもしっかり動く。
どこか張り地が剥がれていたり、へたっていたりしてもまあ仕方ないかなと思っていたのだが、どこを触った感触も新品と遜色ない。カビなどの臭いも一切なかった。
座った感じ、とてもしっかりして安定感があるのに、持ち上げてみると体積のわりにとても軽い。移動が楽でとてもいい。
オークションの取引を終えるとき、「差し支えなければ、一体なぜ40年も前の椅子のデッドストックが存在して、なぜいま売りに出されたのか伺えますか?」と尋ねてみた。
「これらの商品は、もともと売るつもりもなくデッドストックになったものですが、これらの商品を保管していた当社の倉庫が使用できなくなり、今お出ししております。」との返答だった。出品元は山形で、オークション・サイトの写真には背後にTendoのロゴが入ったダンボールがいくつか写っていたから、天童木工の取引先か何かなのだろう。
「大事に使わせていただきます」と返答したものの、ぼくはこの椅子の座り心地がとても気に入ってしまった。430mmという座面の高さがぼくの体型にちょうどいいのと、発泡スチロール製ならではなのだろう、尻から腰にかけて継ぎ目なくサポートしてくれる形状がとても好ましい。
仕事用デスクには、KEN OKUYAMA DESIGNのイナバ・エクセアを愛用していたのだが、もしかするとこちらのほうがしっくりくるかもしれない。
心配なのは、わが事務所は朝の日当たりが良すぎるので、赤い椅子はすぐに色褪せてしまうのではないかということだ。褪せたら褪せたで、またいい味が出てくるのかもしれないけれども。