実車降臨!(後編) Der FREIRAUM デアフライラウム “自由な余白” ♯17
ホンモノとご対面
横川謙司 フォルクスワーゲン・ゴルフ 2023.07.19実車を検分
Golf Bischofberger Camperの自作に情熱を燃やし、ベース車両となるGolf Caddyをオーストリアの博物館から購入した筆者。現在まさに日本へ向けて航海中というところで、なんとホンモノのBischofberger Camperの売り物が! しかも探し求めていたポップアップルーフ仕様!! さっそく南ドイツへ飛び、出品者に会ってきました。
クルマを停め「着きました」とメールすると、男女が近づいて来ます。
“Es freud mich sehr Sie kônnen zu lernen”(初めまして)
目の前に現れた出品者の男性、ステファンはメールのやり取りで想像していたより若く、腕っぷしの強そうな雰囲気。彼はドイツ語オンリーでしたが、私のつたないドイツ語では伝えきれないところは、英語を話せる彼のガールフレンドが通訳してくれました。
いやぁ、本物だ……。
何年にも渡って、数少ない写真をもとに図面を起こし、模型をつくり、あまつさえ実車も作ろうと準備して来た私の目の前に、ホンモノがある。車齢36年、外観は相応にヤれていますが、丸みを帯びたボディの造形は美しく、ベースとなったCaddyとのバランスも申し分ないデザイン。キャビン部分は平面的なデザインのキャンパーが多い中、この側面の丸みこそがチャームポイントで、自分で再現するにしても造形の難易度が高く、しかし譲れない部分でした。CADや3Dプリンターなどない1980年代にこれを作り上げたビショフベルガー氏とは、どんな人だったのでしょう。
室内に入りポップアップルーフを上げます。模型で何度もシミュレーションした通り、天井高は十分で、豊富な収納が使いやすそうです。シンク、コンロ、冷蔵庫など装備について説明してくれる中で、全く想像と違ったのはベッドへの変形方法。その発想はなかった、よく考えられてる、と感心しました。
運転席の背もたれを前に倒し、キャビンとの仕切り板を水平まで持ち上げます。足を運転席側に伸ばすという就寝スタイルで、190cmほどの寝床を確保するという方式。そして、ポップアップルーフの下の空間も、収納されていた板を引き出せば上段ベッドになるという仕掛けでした。
私はといえば、自分の記事が載ったドイツの雑誌を見せながら、いかにこのキャンパーに入れ込んで来たかを熱弁!(数年前にこのキャンパーの3Dプリント模型を作ったことを、ドイツの雑誌「VW CLASSIC」が記事にしてくれていたのです)。
彼がこのキャンパーを手に入れたのは8年前だそうで、「時々、この町の中で見かけていて興味があった。ある日、通りかかったVWディーラーにこのキャンパーがいて、お爺さんがナンバープレートを外そうとしているところに出くわしたんだ。手放すのですか?と聞くと、もう歳で、重たいハンドルとマニュアルギアが扱えなくなって来てね、と。その場ですぐに買うことにしたんだ」。
そんないきさつで8年間ステファンの元にあったCaddy Bischofberger。この度の売出し情報に対して「問い合わせはたくさん来てるよ。でも、ほとんどは本気じゃなさそうだ」。「日本から見に来るヤツは?」「まぁ、いないね」
ステファンはBischofbergerマニア
ステファンもかなりこのキャンパーにハマッたようで、がんばって集めた古いカタログのコピーを見せてくれました。彼の話だと、プロトタイプを含め作られたのは14台とのこと。出品車両はポップアップルーフですが、ヨーゼフ所蔵の一台は初めからルーフが高いハイトップ。その他、Caddyの荷台に着脱可能なトラックキャンパー型など、すべてオーダーメイドで仕様もカラーも異なり同じものは存在しない模様。Audi100ベースのものもありますね。
私が写真で一目惚れしたベージュの一台はプロトタイプで、なんとCaddyではなくGolfがベース。ちゃんとした走行は出来ないディスプレイ用らしいのです(これは推測ですが、カタログの記述からすると、このキャンパーシリーズの発表は欧州での Caddy発売開始の年で、まだCaddyが手に入らない状態でGolfをベースにモックアップを作ったのではないかと思われます)。
夢にまで見た幻のキャンピングカーを私は買うのか? 買ってどうするのか? 自作しようとして行ってきたこれまでの準備はどうなるのか!?
日本へ運ぶにあたって最大の懸念は、このクルマがディーゼルエンジンだということ。私の住む町は、古いディーゼル車の登録が出来ないのです。
さて、どうする? どうなる??