Start from Scratch #07
ドゥカティ モンスター M900 前編
高梨 廣孝 2023.02.03デザイナーの執念に似た熱意を感じるMONSTER
スクラッチモデル制作について、どんなモーターサイクルをつくるかという明確な基準を私は持ち合わせていない。国籍、年代、技術的な特徴などに焦点を当てて、系統的にモノづくりをすればよいのかも知れないが、どちらと言えば、その時々に目についたモーターサイクルを行き当たりばったりに制作してきたのが実情である。
そんな中で、今回のドゥカティ モンスターは、一目見てその美しさに惚れ込んで制作を思い立った1台である。流麗なフォルムの燃料タンク、シートからテールカウルへと至るダイナミックな曲線を眺めていると、このモーターサイクルをデザインしたデザイナーの並々ならぬ執念のようなものを感じたのである。
スポーツ・ネイキッドを提案したミゲール・エンジェル・ガルッツィ
このモンスターをデザインしたのは、アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれで、アメリカ西海岸のデザイン名門校Art Center College of Designでデザインを学んだミゲール・エンジェル・ガルッツィ(Miguel Angel Galluzzi)である。1988年にはホンダのデザインスタジオに在籍した後、1989年にドゥカティの親会社であったカジバに移籍し、モンスターのデザインを行っている。
このモーターサイクルがドゥカティにとって爆発的なヒット作になったのは、デザインによるところが大きい。フレームなどは、スーパーモーターサイクル「851」をベースにしたものであり、エンジンは900SS用の空冷2バルブを搭載しているので、特に技術的に新機軸を盛り込んだものではない。スーパースポーツからカウルを外し、ハンドルをクリップオンからバーにして、軽快で誰でも楽しめるストリートスポーツに変身させ、スポーツ・ネイキッドの手本を提案したのである。
スクラッチモデル創作の醍醐味
創作の動機にあたって、モンスターのタンクからテールカウルに至る造形に強く惹かれたのだが、ガルッツィは特にタンクの造形に異常な執念を燃やしたように思われる。実際のスクラッチモデル化では、ウレタンブロックからタンクを削り出す作業の中で、その造形が微妙なRの連続であり、膝が入り込む“えぐり”、ガソリンキャップからシートに至るかすかな面取りなど、ガルッツィがクレイを前にして試行錯誤を繰り返した様子が手に取るようにわかるのである。
この練りに練って創り上げた形が、見る人の心を捉えて離さないのは確かである。こんなデリケートなタンク造形をモデルで再現したのは初めてである。この作業こそスクラッチモデルづくりの醍醐味であり、あたかもガルッツィのクレイ作業を追体験しているような錯覚にとらわれてしまった。実際に自分の手で造形しなければ絶対に得られない喜びであることを改めて実感した。
テールカウルの造形は、17年間も我が家のガレージで眺めていたポルシェ911カレラのテールを彷彿とさせ、思わずニヤリとした。
モンスターの創作については、次回にとっておこう。タンクの造形、トラス構造のフレームと、惹きつけてやまない要素がモンスターにはあるのだから。