究極の安全装備?聖人と一緒にドライブ!:大矢麻里&アキオの 毎日がファンタスティカ! イタリアの街角から #13
大矢 麻里 Mari OYA/イタリア在住コラムニスト 2023.11.29ものづくり大国・ニッポンにはありとあらゆる商品があふれかえり、まるで手に入れられないものなど存在しないかのようだ。しかしその国の文化や習慣に根ざしたちょっとした道具や食品は、物流や宣伝コストの問題からいまだに国や地域の壁を乗り越えられず、独自の発展を遂げていることが多い。とくにイタリアには、ユニークで興味深い、そして日本人のわれわれが知らないモノがまだまだある。イタリア在住の大矢夫妻から、そうしたプロダクトの数々を紹介するコラムをお届けする。
毎日が聖人の記念日
2023年も残りわずか。イタリアの商店の文具コーナーにも、偉人の名言付き、農事暦、赤ちゃんの成長を記録するものなど、さまざまな種類のカレンダーが並んでいます。
キリスト教のカトリックにゆかりが深いこの国ならではのカレンダーといえば、聖人の名前が書かれたものです。“聖なる人”とは、生前に模範となる信仰生活を全うし、教会が認めた人物を指します。
1年365日、原則として毎日ひとりの聖人の名前が日付の脇に書き込まれていて、カトリック教徒が、1日ごとに聖人を結びつけて信仰の模範として心に留めるためのものです。
また多くのイタリア人は自分に子どもが誕生すると、聖人にちなんだ名前を授けます。そして誕生日とは別に、自分と同じ名前の聖人の記念日を祝います。
それぞれの聖人は、生前に行った活動や功績、また起こした奇跡などから、何らかの守護者として祀られています。
たとえば、イエス・キリストの12使徒のひとりである「聖ペトロ」は、もともと海で魚を捕る漁師でした。そのことから、漁業に携わる人々を守る聖人として崇拝されます。
また、3世紀のエジプトに生まれたとされる「聖アントニオ・アバーテ」は、動物たちの守護聖人として知られます。彼の偉業のひとつとして、蔓延していた原因不明の皮膚病に苦しむ民衆を癒すため、治療薬をこしらえたという伝説があります。その薬の原料が豚の脂だったことから、彼を表した絵や像の足元には、豚の姿を見つけることができます。
ドライバーに寄り添う聖人
ところで、どの国においてもトラック運転手をはじめとするプロドライバーは、厳しい労働環境や道路状況のなかで日々奮闘しています。道中の無事を願う彼らが、おのずと信心深くなることは容易に想像できます。
かつて日本で昭和のトラック野郎のマドンナといえば八代亜紀でしたが、カトリックの国におけるマドンナといえば「聖母マリア」のことです。車両本体にデカデカと聖母の姿を描いたトラックを目撃することもしばしばあります。
また「聖クリストフォロス」という名の聖人は、宗教絵画では、幼いイエス・キリストを肩に乗せて、川を渡る姿で描かれます。かつては川や海の安全を守る聖人として、現代においては旅や交通安全の守護聖人として祀られています。
また、聖クリストフォロスと並んで、ドライバーに絶大な人気を誇る聖人に「ピオ神父」がいます。彼は人々に現代医学では説明できない病気の治癒を施し、また自身の手足や腹部には聖痕が現れたとされます。聖痕とはイエス・キリストが磔刑で受けたと同じ傷のことです。ピオ神父は20世紀に生きたため、こんにち多くのイタリア人にとっては最も身近な聖人なのです。
イタリアを旅する機会があったら、街角に停まるクルマやバイクをチェックして見てください。かなり高い確率で、窓ガラスやダッシュボードに、聖クリストフォロスやピオ神父のお守りが貼られているのを目にすることでしょう。
こうしたグッズは、聖人にゆかりある教会併設の売店や、司祭がミサで使う衣装や道具を扱う聖具店といわれる店で手に入れることができます。それらの門をくぐるのはちょっとハードルが高いという人には、高速道路SAにあるガソリンスタンドの売店がオススメです。カー用品と並んで、聖人ステッカーが売られていることもあるのでお見逃しなく。
不確実性の高まる時代にあって、人々はこれまで以上に心の拠りどころを求めています。遥か昔に生きた聖人たちは、新しい年もイタリアの人々の、そしてドライバーの暮らしを見守り続けてくれることでしょう。