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伊東和彦の写真帳_私的クルマ書き残し:#000 はじめに

伊東和彦/Mobi-curators Labo. 2023.08.24

ネガ、ポジ、紙焼き……そして書き留めなければ失われてゆくであろう記憶

自動車雑誌の編集部に身を置いた15年間で、最も近づきがたい先輩が実は伊東和彦さんだった。あの小林彰太郎さんよりある意味では声がかけにくかった、と表現すれば理解してもらえるだろうか? 輸入車販売会社から雑誌記者に身を転じ、ヒストリックカー専門誌の編集長に就任、自動車史研究の第一人者であり続けている。新車情報を追いかけることで手一杯だった自分にとって、一番「自分の知らないことをよく知っている人」だったわけだ。

その後、編集者として徐々に距離感を縮めることはできたのだが、「自分の納得の行くテーマだと決めたときに、ようやく重い腰を上げてくれる人」という印象はいまも変わらない。そんな彼が、密かに“引き出し”の奥にこれまでのクルマ好き人生の有り様をまとめているという。

日本の自動車界にとっても貴重であるはずの記憶の礫(つぶて)を、どうか少しずつ書き出していってもらえないだろうか? そんな願いがようやく通じた連載開始である。(PF編集部)

手持ちの写真に文を書き添えてみようと考えたのは、書架の一画にデーンと住みついている写真保管箱の存在が大きい。

以前から、時期をみてスキャナーで読み込んでみようと考え、知人からプロ仕様の中古器を手に入れて、いつでも電子化できる体制だけは整えておいたが、なかなか実行できずにいた。

そうした折、コロナ禍が背中を押した。渦中の行動制限を伴う閉塞感は、心に軽い変調をきたすほどになった。そうはいっても⋯⋯「落ち込んでいても仕方がないので、いっそ好機と捉えて、自宅でできることを最大限、楽しんでみよう」と考えるようになり、懸案だった紙焼き写真やネガやポジフィルムのほか、ささやかなカタログ・コレクションを電子データ化することをはじめた。

まず機材。フィルムスキャナーの自作から着手した。丈夫そうな空き箱、木工材料の切れっ端などでスタンドを作り、長年使っているハンディタイプのライトボックスを光源にして、iPhoneで読み込んでいく構想を練った。iPhoneのアプリで水準器を使っているので、正確に“面出し”をしてから、あとはネガだろうがポジだろうがセットして撮影していくだけだ。使ってみながら改良型を作るのも楽しかった。

作業中に、ノートに書き付けた日記のようなメモ(クルマ備忘録)を文章化することを思い立った。そうなったら、もう停まらない(停まれない?)。写真をスキャンしながら、同時進行で戯言を書き込んでいった。この時は公開することは想定していなかったから、そのぶん期限も本数にも制限を設けずに自由に書き始め、いまなお作業は現在進行形であり、急ぎの用事がないときで気が向けば、1日に複数回分が完成することもある。

手持ちの写真や、コレクションしているカタログやファクトリーフォトでは足りないときには、ネットマーケットで探して入手を繰り返す事態になってしまったのは、想定外の出費であり、断捨離の目的からは外れるが⋯⋯まあいいかと思う。

小学生のときからカメラ操作好き、写真好きとなった私は、高校に入ってから自宅に暗室を作り、できのいい写真を選んでプリントしてアルバムに貼っていくことになった。いまではアルバム作りはなくなっているが、写真整理の“よき癖”は続いている。さらに凝り性なものだから、祖父の代からの写真も残っているものは大事にアルバムに貼っている。

これらの中からクルマに関するものだけ、文章を添えて、まとめてみることにしたのが、“写真帳_私的クルマ書き残し”である。

あるとき、この『PARCFERME』を主宰する田中さんが雑談中に興味を示してくださり、こうして公開の運びとなった。旧知の田中さんからの声掛けとはいえ、あまりに個人的な内容でもあり、なかなか決断できずにいたが、同じような経験をしたベテランの方々と時間を共有できればと思う。

それならば⋯⋯と、連載を私の古希の記念月からスタートさせることにした。幼いころから、自動車に異常な興味を示したと今年99歳の母はいうからである。

なにしろ半世紀以上におよぶコレクションだから、記憶が薄れているものもある。年代は激しく前後し、文の質は玉石混交(玉はあるのか?)になろうが、思いつくままに書き付けていくことにしたい。長期戦、お付き合いをいただければ幸いである。

2023年8月の猛暑日に

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