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大矢麻里&アキオの 毎日がファンタスティカ! イタリアの街角から #09

イタリア式・こだわりの洗濯事情

大矢 麻里 2023.05.12

ものづくり大国・ニッポンにはありとあらゆる商品があふれかえり、まるで手に入れられないものなど存在しないかのようだ。しかしその国の文化や習慣に根ざしたちょっとした道具や食品は、物流や宣伝コストの問題からいまだに国や地域の壁を乗り越えられず、独自の発展を遂げていることが多い。とくにイタリアには、ユニークで興味深い、そして日本人のわれわれが知らないモノがまだまだある。イタリア在住の大矢夫妻から、そうしたプロダクトの数々を紹介するコラムをお届けする。

命がけの洗濯物干し

抜けるような青空をツバメが飛び交う季節になりました。石畳が続く路地裏には、ロープに干された洗濯物が運動会の万国旗のごとく、5月の風にはためいています。今回は、イタリアにおける「洗濯」のよもやま話を。

私にとってイタリアで初めての住まいは、中世に建てられた煉瓦造りのアパートでした。洗濯物が干せるバルコニーが無いかわりに、ロープが窓の下に張られていました。両脇に滑車が付いていて、衣類を洗濯バサミで留めてからロープを引っ張ると、クルクルと横に送られていく仕組みです。

その際、窓から大きく身を乗り出さなければなりません。いつ転げ落ちるかとドキドキするたびに、洋服や洗濯バサミを落下させていました。ご近所さんが手慣れた様子で干している姿に羨望のまなざしを送ったものです。

落下したシャツが下階のよろい戸に引っかかり、ハンガーを逆さにして吊り上げたことも。(イラスト:Akio Lonzo OYA)

こっちの水は硬いぞ

やがて、街に干されている洗濯物を眺めていて、気づいたことがありました。多くの家庭が、この日は白、次の日は黒だけといった具合に、かなり厳密に色分けをしているのです。ときには目のやり場に困ってしまう、セクシーな赤いランジェリーだけがズラリと並ぶお宅もありました。衣類の分別はどの国においても洗濯の基本ですが、イタリア人が徹底して色分けする背景には、実はこの国ならではの事情がありました。

日本の水が軟水であるのに対し、イタリアの水はミネラル分が多い硬水に分類されます。硬水は洗剤を入れても泡立ちが悪いため、汚れが落ちにくく、生地が黒ずんでしまいがちなのです。したがって、白い衣類を色物と洗うのはご法度!常に漂白剤を加えるか、漂白剤入り洗剤を使うことを徹底しなければなりません。

逆に、黒い衣類などは洗濯を重ねると色が抜けやすいため、ダークカラー専用の洗剤が存在します。液自体は白色ですが、色落ちを防ぐ色素定着剤が配合されています。日本に住む人の目からすると洗剤としては珍しい、黒いボトルで売られています。

黒、紺、茶などダークカラーの色褪せを防ぐ専用洗剤は黒いボトル入り。

硬水であることは、洗濯機を見ても明らかです。衣類を上から下に落として叩き洗いするドラム式が主流なのは、硬水でも比較的汚れが落ちやすいとされているためです。また泡立ちの悪さをカバーすべく、水温調節機能が備えられているのが一般的です。

しかし、硬水は生地を傷めるうえに、高い温度で叩き洗いをすると衣類はゴワゴワになり、シワもつきやすくなります。商店におびただしい種類の柔軟剤が並んでいるのは、こうしたダメージを少しでも解消するためのものです。

加えて、石灰分を多く含む硬水は洗濯機を詰まらせる原因にもなります。テレビCMでも盛んに流れる石灰除去剤を使用した洗濯槽のケアが欠かせません。

洗濯コースの種類や温度調整が難解すぎるイタリアの洗濯機。我が家の場合は30℃〜90℃に温度設定が可能。クリーニング剤売り場はどの店でもかなりの面積を占めます。柔軟剤だけでもこのとおり。

パンツにも愛を込めて

さて、洗濯が済んだ後は、アイロンがけが待っています。

イタリアで初めて親しくなった家庭を訪問して驚いたのは、業務用かと見紛うほど巨大なアイロンでした。本体とは別にスチーム用の大容量水タンクがあって、蒸気を通すためのチューブで繋がっています。このお宅だけが特別なのか?と思って、後日家電量販店を訪ねると、同様のモデルが人気商品としてずらりと並んでいました。コードレスアイロンの軽量さを競う日本からは想像できないスタイルです。

理由は、アイロンがけの量が日本とは比べ物にならないことにあります。イタリア家庭の多くは、なんと靴下や下着のパンツ、シーツにまでアイロンを当てるのです。どうしてそこまでするのか?の質問に、あるイタリア人女性は「祖母や母から続く習慣だもの。特に考えたことないわ」と答え、しばらくしてから「昔はシワ伸ばしと一緒に、殺菌の意味合いもあったそうよ」と教えてくれました。

他の友人は「清潔な服にシワひとつなくアイロンがかかっているのが、お洒落の第一歩」といいます。さらに「家族の顔を思い浮かべながらするアイロンがけは、いちばんお気に入りの時間なのよ」と言い切る人もいました。

家電量販店に並ぶタンク別型のアイロン。スチーム部分の目詰まりを避けるべく蒸留水を入れるのが一般的です。

豊富なアイディア商品は苦労の数に比例

衣類を傷めずキレイに洗うためには、細やかな色分けも厭わない。日本でたびたび“嫌いな家事のランキング”に登場するアイロンがけさえ進んでこなす。かくもイタリア式洗濯習慣は、常日頃から手抜きばかり考えている横着モノの私にとって、ハードルの高いものでした。

ところが、そんな私を救ってくれる商品がありました。「色移り防止シート」です。洗濯機を回す際に1枚入れておくと、白色・色物を同時に洗っても色移りを防ぐという優れものです。

こちらはCOOP生協ブランドの色移り防止シート。1箱24枚入り。イタリア語のacchiappare(キャッチする)にcolore(色)をかけた「アッキャッパコローレ」。色褪せを防ぎ、同時に元のカラーを取り戻しますとの謳い文句が。

それなのに、シートを放り込むことさえ忘れてしまうのがこの私。夫の白いTシャツをピンクに染めてしまいました。ところが、さらなる商品が救いの手を差し伸べてくれました。洗濯機の中で簡単に生地を染められる着色剤です。つまり、頑張っても取れない黄ばみやシミがあったら、いっそのこと別の色に染めてしまえ!という人のためのものです。「あれ、オレこんな色のTシャツ持ってたっけ?」と、すっかり騙されている我が夫です。

部分用シミ取り洗剤にも、ワイン、コーヒー、ジェラート用などイタリアらしさが漂います。衣類、クッションカバー、テーブルクロスなどの生地専用の染色剤。洗濯機で洗うだけ染められます。

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