STORY

Der FREIRAUM デアフライラウム “自由な余白”♯09

自動車に相応しい強度を持つ構造をスクラッチしなければならない。

横川 謙司 フォルクスワーゲン・ゴルフ 2023.01.06

まずは1/5スケールの模型で検証

もう何年越しかわからないくらい沼にハマっているGolf Camperプロジェクト。ベース車部分も去ることながら、荷台に架装するキャンパーシェルも自作してしまおう、ということでまた底知れぬ深い沼が口を開けています。

世の中には様々な構造のキャンピングカーがあるわけですが、私が作ろうとしているのは、いわゆる「キャブコン」というもので、トラックの荷台部分に居住スペースを作りつける形になります。

一方、トラックキャンパーと呼ばれる形態もあり、こちらは居住空間を「積荷」として設計し、旅しない時は降ろしてトラック単体でも使用できる優れもの。ですが、私は「一体型」のフォルムに惚れてしまったので“一生キャンパー”形態一択なのです。

さて、見た目のデザインはなんとなく描けても、実際に強度を持つ構造となると専門家の助けが必要。とは言え、どこの誰に相談するのか雲を掴むような状況なので、まず説明や検証用に大きめの模型を作ろうと考えました。ある程度骨組みやインテリアの使い勝手が「見える」サイズということで、スケールは1/5に。Caddy 部分だけでも80cm ほど、キャンパー形態になると1mを超えます。このサイズになると、プラモやミニチュアを作っているいつもの工作机では狭くて作業し辛いことこの上ないのですが、何より、5倍すれば実物大、というところも計算しやすくて良い、ということでこのスケールに落ち着きました。

筆者の所有車から採寸したメモ。これを元にCADデータを作る。

今回は、実車のプロポーションをできるだけ正確に再現しようと思い、マイカーである初代 Golfの各部分にモノサシを当て(Bピラーから前はGolfもCaddy も全く同じ)、荷台部分は写真や図面を集めてCADでモデリングしていきます。採寸と言っても実車のボディは角が丸いところも多く、どこからどこまで測るか、最後は勘だったりします。

ちなみに、CAD上では実寸で制作し、あとで1/5に縮小するので、実車を測ったサイズそのままでモデリングを進めました。

ジウジアーロ偉大なり

ちょっと脱線しますが、こうやって実車を採寸してCADで再現を試みてみると、いかにマエストロ・ジウジアーロによる初代ゴルフのデザインが「練りに練られているか」を実感することになりました。特に、ボディ裾を絞り込み、正面から見た時にタイヤを見せ力強さを感じさせる工夫や、一段落とし込まれたサイドウィンドウ周りの造形がシンプルな見た目とは裏腹に、実に巧妙な面構成になっていたりと、感心することしきり(ドアノブから前方へ、サイドウインドウに沿って指でなぞっていくと、いつの間にか一段低い面につながっているのです)。

また、ボンネットの前端は、前から見ても、横から見ても、上から見ても緩いカーブを描いています。その丸みが、逆にGolfを直線的なフォルムに見せている、とはジウジアーロ氏本人の言葉です。この3方向に丸みを帯びたラインをCADで再現するのがとても難しかった。

このために購入したレーザーカッター。切り抜かれた部材は40点超。

実際にモデル化するにあたり、この「初代Golfの丸み」を再現するために、帆船模型のような、内部にリブを持つ構造を試してみることにしたのです。こうすることで、ボンネットやルーフのなだらかなカーブや、前述のボディ裾の丸みが表現できるだろうと考えました。

そして、この形状のリブを糸ノコで何枚も正確に切り抜くのは無理、と早々に自分の腕に見切りをつけ、レーザーカッターを導入。ボディのパーツ数はリブだけで40点超、組み合わせるための切り欠きは200箇所以上になりました。

素材はMDFという木の粉を固めた成型板ですが、家庭用の非力なレーザーカッターで全てを切り抜くのに、40時間以上を要したのではないかと思います。Caddyがうまく造形できれば、居室部分も同じ手法でできるだろう、とまずは、1/5スケールのCaddyづくりに打ち込んだのでした。1/1を手にするまで、長い長い道のりです。

モノズキですよねぇ……

<つづく>

ひとまず出来上がった1/5Caddy。同様な手法でキャンパー部分も製作し、実車の作業に備える。

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