PF DIARY

とある工房に伺って

安齋 利晃 2022.06.25

「ブラフ・シューペリア S.S.100」が、目の前にあります。

バンク角88°のVツインエンジン、フロントのダブルウィッシュボーン、リアのスイングアームのリアサスペンションに、筋肉美のような躍動感を感じます。それでいて、ガソリンタンクを固定するクロームベルトは、輝きを放ち、ナッパレザーのシートと相まって、クラシックなエレガントさを、醸し出しています。

ブラフ・シューペリア社は、トーマス・エドワード・ロレンス(『アラビアのロレンス』で有名)が愛用し、その性能の高さから「モーターサイクルのロールスロイス」と称賛されつつも途絶えていました。80年の時を経て、2008年に、ブラフ・シューペリア社は復活し、このモデルを発表しました。

復活して14年近く経ちますが、正規ディーラーは、まだ日本にはありません。
ウェブで検索しても、メーカーフォトと概要記事のみで、インプレッションは、見当たりません。恐らく、いまだに日本には上陸してはいないのでしょう。

では、目の前にあるのは?

プラスチックモデル?金属の質感からダイキャストモデル?いえいえ、恐らく、キット化もされていません。

目の前にあるのは、スクラッチモデル。スクラッチモデラー・高梨廣孝さんの作品「ブラフ・シューペリアS.S.100」です。

スクラッチモデルとは、既成の部品を使うことなく、自作した部品で組み上げる“ワンオフ”のミニチュアモデル。全長300mmの作品は、実車、文献から図面を起こし、自らの手で制作した部品約700〜800点で構成されています。

3年前に、銀座和光ギャラリーで開催された展覧会『高梨廣孝・安藤俊彦二人展―スクラッチ・モデルとスクラッチ・ドローイングの世界―』で、高梨さんの作品に出会いました。金属、皮革、木材と異なる部品を自作し組み上げられた、実車と見まごう作品は、工芸品のようで、美術品と思えて「超絶技巧!」と感嘆したものです。

その感嘆から、3年が経ち、これから、スクラッチモデラーの高梨廣孝さんのコラムが始まります。

ささやかな編集を通していて「技法」と「技巧」について伺う機会がありました。3年前に感嘆し発した言葉にある「技巧」を、コラムの文中に記したかったこともあって。

「先ず誰もが考え付かないような『技法』を考案して、それを実現するために『技巧』を凝らす」と、高梨さんは言います。モノづくり、美術にある独創性の所以と思えるものでした。

それは、スクラッチモデルは、独自の技法を見つけて体得すれば、チャレンジできる世界であることを含んでいます。「技巧」は、超人的になってしまうけれど、「技法」を編み出すことは、誰にでもできる、との高梨さんの思いです。ですので、コラムの文中には「技巧」との言葉はありません。

それにしても、やっぱり「超絶技巧」と言いたくなってしまうのですよ。鑑賞者の私としては、どうしても。

こうして編集後記的なことも織り込みながら、高梨廣孝さんのコラム『Start from scratch』の開始をお知らせします。コラムに掲載する写真は、ぜひクリックして、拡大して、じっくりと見てください。精緻な作品に「超絶技巧!」と感嘆したくなりますから。

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