STORY

ホンモノ “も” 買いました! Der FREIRAUM デアフライラウム “自由な余白” ♯18

両手に花? 結局2台とも我が手に……

横川謙司 フォルクスワーゲン・ゴルフ 2023.08.15

Golf Bischofberger Camperに憧れて中古車を探すも見つからず、自作を決意してベース車両となるGolf Caddyをオーストリアの博物館から購入した筆者。ところがドイツで、まさか出てくるとは思わなかった売り物が出現! 紆余曲折あって、自作ベース用Caddyとホンモノ、2台持ちになってしまいました。

ドイツで出たGolf Bischofbergerのキャンピングカー、買いました。あと先のことは……ちょっとは考えたのですが、結局買いました。実車を見せてもらってから2日後に「買います」って返事してました。皆さまお察しの通り、この出会いを見送る、という選択肢は、きっと初めから無かったのです。

しかし、一度日本へ帰らなくてはならないし、一週間や二週間ですべてが手配できるような話でもなく、代金は振り込みではなく現金がいいと言う出品者のステファンに「支払いその他、春まで待てますか?」と打診すると「大丈夫だよ、君以外には売らない」との言葉。かくして2022秋、エンジン換装をはじめ様々な困難が待ち受けていることを承知で、幻のキャンパーを迎える決意をしたのでした。やっちゃった、って感じです。

「キャンパーのホンモノが出たから、ゴルフ博物館のCaddyはもういいや」とは言えません。そんないきさつで、クルマを2台、欧州から運ぶことになったのです。

さて、ドイツで買ったホンモノ、オーストリアで買ったCaddy、どうやって日本へ送るか。

幸い大きなコンテナなら2台は問題なく積めます。できればドイツの港から送り出したいけれど、Caddyは自走できないとなると、ホンモノが走っていってCaddyと共にオーストリアでコンテナに積み込むしかない。オーストリア〜ハンブルク港までの陸送分が余計にかかることにはなりますが、それ以外の選択肢はなさそうです。

加えて「夢に見たGolfキャンパーで憧れの欧州を旅するのは、これが最初で最後かも知れない」という思いも手伝って、ドイツでキャンパーを受け取っていきなり約1000kmの移動には不安もありましたが、そこはVW Golf、大丈夫だろう、と。

キャンパー受け渡しまでの日々

「買います」とは言ったものの、数千キロ離れた売り手と買い手、やはり不安でした。「近所の買い手に売ってしまったよ、ごめん」ということが起こらないとも限りません。それはあちらも同じだったかも知れませんね。私は、購入意思が微塵も揺るがないことを定期的なメールで伝え続け、彼もキャンパーのフロントグラスに「”VERKAUFT”(売約済み)」のサインを出してくれるなど、近況をシェアし続けました。一方で私は、受け取る時にプレゼントしようと“彼が乗っていた姿のままのキャンパー模型”を作ったり。

ステファンに贈る1/24スケールの模型。ボディもパーツもゼロからCADで起こして3Dプリントした。

いよいよ、再びドイツ・オーストリアへ飛ぶことを決め、コンテナを手配し、考え得る様々な準備を進める中で、一つ問題が浮上。キャンパーの鍵を譲り受ける日、つまり、それは、彼が登録を抹消する日。そうなると、ナンバープレートも返却、公道を走ることができなくなります。とは言え、キャンパーをトラックに積んで、国を跨いで陸送するなどいくらかかるか分からないし、何より「Golf キャンパーで欧州を旅する」という、二度とないかも知れない機会が失われてしまう。

ステファンがとても親身になってくれて、”Kurzzeitkennzeichen”(短期ナンバープレート)を取れば君の夢が叶うかも知れない、と調べ上げてくれたのです。日本の仮ナンバーのようなもので、国を跨いだ売買で移動が必要な時など、5日間有効、国境越えもできるという臨時プレートの存在がわかりました。日本の仮ナンバーは市役所などで「借りる」のですが、ドイツのものは「新規に作る」というのです。あのカッコいいヨーロッパのナンバープレートの、右端が黄色く塗られて、そこに有効期限がプレスされています。「買う」ものなので、記念に持ち帰ることもできます。

ステファンが、隣町のフライブルクまでそのプレートを申請しに行ってくれたおかげで、わずか5日間ではあるけれど「キャンパーで欧州を旅する」ということまで叶うことになりました。

受け渡しの日。天気は晴れ。

ミュンヘンからフライブルクまでICE(インターシティエクスプレス)で移動し、近郊電車のS-Bahnに乗り換え、ライン河畔のブライザッハへ。小さな駅を出ると、向かいのスーパーの駐車場に佇む白いGolf Caddy Camper Bischofbergerが目に入りました。ステファンがー今日はガールフレンドは一緒じゃなくーなぜか”SORRY、聞いてなかったわ”って書いたパーカー姿でお出迎え。

「戻ってきたよ!」「ようこそ」そんな感じで、駐車場のキャンパーへ向かいます。例の「短期ナンバープレート」が眩しい。いい番号だ。クルマの後ろに立つと、ステファンがおもむろにキャンパーのキーを私に……「あ、ここ大事なシーンだからもう一回やって」とカメラを構えた私に、もう一度キーをヤラセで手渡してくれます。ついにこの瞬間が来たか……。

車内に入り、最終の書類確認。車検証、歴代オーナーの残したメモやディーラーの整備記録などを受け取ります。売買契約書にお互いにサイン、車両代金を渡して、領収書をもらって、私からは1/24スケールで再現したキャンパー@ステファン仕様をプレゼント。

あらためて、譲ってくれたことに感謝を伝えると「このクルマもKenji のところに行くのが幸せだと思う」と。「日本の景色の中を走る写真を送ってくれよ!」。そう言うと彼は振り返りもせずに駐車場を後にしました。出発の支度をしていると、おじさんが一人話しかけてきます。「これは何?珍しいね ! 写真撮っていい?」「今、まさに今、手に入れたところなんですよ」。

そんなひと時を経て、ホンモノキャンパーはドイツの西の端、ブライザッハの町から数日間かけて、ヨーゼフの博物館のあるオーストリア・シュトッケラウまで走ります。今回の旅には友人が同行してくれるので、フライブルクの駅までお迎えに行くのが最初のミッション。キーを差し込んで、エンジン始動。今から、このクルマで好きなところへ自由に走っていける、夢のような5日間の始まり。

あ、その前に(ステファンには悪いけれど) フロントグリルをVWエンブレムのついたノーマル顔に戻させてもらうぞ……あれ、ネジが星形だ! 車載工具には見当たらないので近所のDIY店を調べてツールをゲット。駐車場でグリルの交換をしていると、オバさまが話しかけてきます。「これは相当古いわね! 見たことないわ! え? 1985 年式!? わっはっはっ!! 1985 年!!」と豪快に笑いながら去っていきました。

ドイツの人にもインパクトあるんだね、このクルマ。ブライザッハという町のことは、一生忘れないだろうな。

Danke sehr Stefan! Ich werde mich gut um das Auto kümmern.
(ありがとうステファン。この車を大切にするよ)

この長い道のり(まだ半ば)、本来なら私一人の胸の内に蓄積していくのみなのですが、同行の友人や読者の方々が共有してくださることは、望外の喜びです。この先、ナンバー取得まで、まだまだ多くの方の助けがあってこそ進んでゆけます。

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