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大矢麻里&アキオの 毎日がファンタスティカ! イタリアの街角から #05

イタリア式 冬の贈り物

大矢 麻里 2022.12.26

これが本場スタイル

ものづくり大国・ニッポンにはありとあらゆる商品があふれかえり、まるで手に入れられないものなど存在しないかのようだ。しかしその国の文化や習慣に根ざしたちょっとした道具や食品は、物流や宣伝コストの問題からいまだに国や地域の壁を乗り越えられず、独自の発展を遂げていることが多い。とくにイタリアには、ユニークで興味深い、そして日本人のわれわれが知らないモノがまだまだある。イタリア在住の大矢夫妻から、そうしたプロダクトの数々を紹介するコラムをお届けする。

イタリアのスーパーマーケットには冬になると、おびただしい数の箱がうず高く積み上げられます。「チェスティ・ナタリーツィ(Cesti natalizi)」と呼ばれるバスケットで、1年間お世話になった人に贈る、イタリア版お歳暮です。日本でいうならば「松」「竹」「梅」といった感じで、大きさ・価格ともに各種並んでいます。

スーパーマーケットに並ぶ「チェスティ・ナタリーツィ」。価格は日本円換算で1500円〜4000円程度が主流です。

バスケットに詰めて贈る習慣は、キリスト教が普及する以前、紀元200年代のローマまで遡るとされます。収穫を感謝するお祭りに、人々は草木で編んだ籠にオリーブの実などを入れて交換し合いました。

こちらは12品がセットになったもので、日本円にして約2000円。スーパーで売られているものの大半は、容器がもはや籐製ではなく、籠の写真をプリントした段ボールに入っています。
自分で中身を組み合わせてオリジナルのバスケットを作りたい人向けに、籐のかごも売られています。

縁起ものも入ってます

今日販売されているバスケットに、どのような品が詰められているのか見てみましょう。

定番のものとしては
・パネットーネ(ミラノ発祥のドライフルーツ入り焼き菓子)
・パンドーロ(ヴェローナゆかりの粉砂糖をかけた焼き菓子)
・トローネ(はちみつ、卵白、ナッツなどを固めたヌガー)
いずれもクリスマスから年末のイタリアを象徴するお菓子です。

パネットーネとパンドーロは、もちろん単品でも。これでもかというほど積み上げられています。
パンドーロは付属の粉砂糖をたっぷりふりかけて頂きます。スプマンテ(発泡ワイン)とのセット販売もあり。

・コテキーノ(豚の腸詰) または ザンポーネ(豚足の詰め物)
・レンズ豆
豚は肥えることから豊かさの象徴、レンズ豆はお金に見立てた縁起担ぎで、大晦日の伝統メニューです。

ほかにも、スプマンテ(発泡性ワイン)、チーズ、サラミ、パスタ、オリーブオイル、トマトソース、そしてコーヒーなどもよくみられます。スーパーマーケットの箱入りとは別に、デリカテッセンでは、お客が店の商品から選んだものを籐のかごに詰めてくれます。

実はイタリアでクリスマスは12月25日に終わりません。カトリックの教会暦では、イエス・キリストが誕生したベツレヘムの馬小屋に東方三博士がやってきたとされる1月6日まで続きます。ツリーもその日まで仕舞うことはありません。その間、とかく来客が多いことから、バスケットはいくつもらっても助かります。

豚足の皮にミンチを詰めた「ザンポーネ」はモデナ発祥。大晦日にレンズ豆と一緒にいただきます。

上司があげる 部下がもらえる

バスケットは会社で贈答品として用いられることもあります。ただし、日本のお歳暮と異なるのは、なんと「経営者や上司が従業員にバスケットを配る」ということです。フィレンツェで従業員2千人規模の会社を経営する知人は毎年、社員全員にパネットーネやスパークリングワインが入ったバスケットを配ります。「今年も我が社のために良く働いてくれました」という感謝だそうです。

20世紀イタリアを代表する映画のひとつ「鉄道員(1956年)」には、機関士の主人公がクリスマスの日に仕事を終えて、職場でワインと食べ物が入った袋を受け取るシーンがあります。第二次大戦後の耐乏時代から存在した、粋な心遣いなのです。できれば日本でも広めてもらいたい職場習慣ですね。

シエナ老舗「ナンニーニ」のお歳暮セット。地元出身の元F1ドライバー、アレッサンドロ・ナンニーニの祖父が興した菓子店がルーツです。

瞼に浮かぶバスケット

私にとって忘れられないバスケットの思い出といえば、あるイタリア人のおじさんにまつわるものです。

彼は保険代理店を営む傍らで、週末は赤ワインの名産地キャンティで趣味の畑仕事に精を出していました。イタリアの食文化に興味があった私は、晩夏にはトマトソースづくりを、ブドウやオリーブが実る秋には収穫の助っ人を買って出ました。冬になると骨つき豚もも肉に、ハーブや塩を擦り込む生ハム作りも体験させてもらいました。

その年末のこと、おじさんは「日本の家族と離れて過ごすのは寂しかろう」と、私たち夫婦を家に招待してくれました。
食事の途中、渡されたバスケットを見てびっくり!中には、私が手伝ったあと、おじさんが丹精込めて仕上げたトマトソースの瓶詰め、ワイン、オリーブオイル、そして生ハムが納められていたのです。

惜しくもおじさんは2022年に天国の人となりましたが、彼とバスケットの記憶は、この季節が巡りくるたび私の心に温もりを与え続けてくれるはずです。 

おじさんから贈られたバスケット。私が手伝ったもののほか、同じく手作りのビネガーやアーティチョークの漬け物まで入っていました。

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