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ちょっと変だけど、毎日がちょっと豊かになる ― YUの「愛車のある暮らし」#06

YU アルファ・ロメオ・スパイダー 2023.03.09

壊れたクルマを嬉しそうに話す人たち

思いがけず初めての車をイタリア車にしてしまった。アルファ・ロメオと聞いただけで背中がゾクっとするでしょうが、1990年代に登場した2代目スパイダー(916 系)と言えば、ため息混じりに何かを悟ったような顔をされるかもしれません。

今年で所有5年目。まぁ色々なことがあった。壊れるだけならまだしも、もうパーツがないクルマなのでそろそろ部品取り用にもう一台買った方がいいかもしれないと思う今日この頃。泣く子も黙るイタリア車(?)と事前に聞いてはいたが「まぁ、どうにかなるでしょう」と、星を眺めるさすらいの旅人のように私はどこか楽観的に構えていた。万年貧乏、不安がなかったといえば嘘になるが、時にはスナフキンみたいに人生ちょっとは冒険しないと楽しくないじゃん。オカネは持ってないが、訳のわからないポリシーだけは常に持っていた。

壊れたことをよく嬉しそうに話す人たちがいる。そんな世界があるなんて初めは信じられなかったが、今までたくさん見てきた。

「ドアが突然落ちちゃってさ(ニコ)」、「ブレーキ踏んだら床まで突き破っちゃって(ヘテ)」、「ドアノブの中が折れてドアが開かなくなった(しかも2回も。)」etc.

イタリア車の”大事なところにプラスチック的なパーツを多用する癖“にはちょっと悪意を感じるが、そのチープさも含めて認めざるを得ない悪魔的な魅力があるように思う。

でもなぜか、みんな楽しそう笑っている。

私の壊れたエピソード

そろそろ私も今までの壊れ自慢をさせてもらおうか。正確には自慢ではなく、自虐が正しい。まぁ、私のスパイダーはみんなが言うほど大したことはないが。

まず最初の事件は納車3日後に起こった。「ハンドルを切る度にカタカタカタと異音が鳴るんですが……」そう伝えたら早速「ドライブシャフトだね〜(ニッコリ)」

と言われて即入院となった。これから華麗なるアルファ・ライフを過ごすはずだったのに…と出鼻を挫かれたが、戻ってくるとまるで嘘みたいに絶好調で走り回ってくれる。

その後よく悩まされたのは「電動幌が開かない問題(または閉まらない問題)」だ。これは定期的に訪れた。まぁ見栄張って電動なんて採用した後期916スパイダーの宿命のような、持病のようなものだから致し方なし。屋根を開ける時は毎回ドキドキする(恋かなってくらい)。私は一応日焼けを気にする&シャイガールなので屋根を開けるなんて滅多にないことだが、年数日(暑くも寒くもない気持ちいい日に)恐る恐る開けてみると.....案の定壊れる。ワイヤーがただ外れてるだけならその場で直せるのでラッキーだが、「油圧ホースが破裂した」や「モーターギアが粉砕した」は流石にお手上げだった。幌が開かない/閉まらない問題は今でも最大の悩みであり、前期の手動式幌が羨ましくなるし、いっそのことGTVでも良かったじゃんと思ってきた。

そのほかには「そもそも警告灯の点灯が誤作動であること」「常にあちこちオイル漏れすること」「ドアの隙間から容赦なく雨漏り(特に助手席側)」「ワイパー挙動が怪しい」あたりはデフォルト設定である。

改めて列挙してみるとヤバいなという気はするが、壊れてはじめて「こんな構造になっていたのか」、と中身について興味が湧いて面白い。「じゃあそろそろあのパーツをストックしておくか」といった予防線を張ることが習慣化してくる。

アルファ・ロメオに限らず、クルマは壊れて当然だと思う。完璧なモノなどない、形あるモノ、いつかは壊れるモノさ……。その時どうクルマと向き合うか、愛車との真のスタートラインはここからだと思う。

アルファ・ロメオはフェラーリの生みの親であり、レースファンにとっては語らずにはいられない歴史を持っている。その情熱の火を今日まで灯し続けている数少ない自動車メーカーだ。

最近、リリースされたアルファ・ロメオ「Tonale(トナーレ)」もなかなかカッコイイ。奇抜なデザインだがコンパクトSUVとは思えない存在感と洗練されたスポーティネスのDNAはさすがアルファ・ロメオだなと感服する。 私はたまたま日本に入ってきたばかりの、仮ナンバーがついた車両を横浜市街で目撃した。コンマ数秒の出来事だったが、イケメンに真正面からクッ! と見つめられたような気分だった。対向車線から迫り来るその片目三連のデイライトと電動化の未来に向かって駆け出す姿に、私の心は一瞬で鷲掴みされた。

この大量消費時代、売れなきゃ存続できないことは分かっているだろうけど、大衆に媚びない姿勢に私は惚れている。ここは譲れない、といった一本キラリと筋を通している。そんな人間に私もなりたいものだ。

photo: 株式会社ホワイトハウス

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