INTERVIEW

ニコンFシリーズとF1トップ・フォトグラファーの対話 #04

「触れると切れる」電子シャッターの秘密

PF編集部 ニコンF3 2022.08.25

F3を使い尽くし、オートフォーカスの時代へ

前回、金子 博さんは「F3は、骨の髄まで使ってやったと思う」と語ってくれました。今回、まずは当時の走りの写真の撮り方について具体的に迫ってみましょう。

PF:きわめて基礎的な話かもしれませんが、走っているF1を撮るとき、フォーカスリングは動かすのですか?

金子:僕の場合は「置きピン」と言って、予めピントを合わせておいて、合った時にプッとシャッターを押す。動いているものはピントを追っていくんじゃないんです。ここら辺だろうと固定しておいて、合うところにきたらプッ。厳密に言うと合う直前にプッですね。こちらの反応の時間があるから。

だから一番大事なものはシャッターのフィーリングでした。とにかく軽く、とにかくストロークを短く、ということです。それでニコンの人に協力してもらっていました。

photo: Hiroshi Kaneko 金子 博 1979年モナコGPのルノーRS10とジャン・ピエール・ジャブイーユ。

PF:フィルム時代だとマシンが一回通り過ぎる度に何回シャッターを切るんでしょうか?

金子:1回です。特に正面からは1回。横走りは何回か撮るけど、僕は少ない方だと思います。ただ、調子が悪いときは枚数をいっぱい撮っちゃいますね。不安だから、バババババって切ってしまう。調子のいい時は一回切るだけで、手応えがあるんです。オッケーだったなって。

結果は、たくさん切った場合の方が良くないです。一枚一枚、丁寧に切った方が僕はいいなと思った。充実感があるし、手応えも気持ちいい。今も僕はシャッター切る回数すごく少ないですよ。丁寧に丁寧に。そう心がけています。ただ調子悪い時はやっぱりカメラに助けられましたね。

PF:電子シャッターの設定は、触るか触らないかの瞬間に切れるぐらいの感じにしたと仰いました。

金子:僕はアナログのシャッターの構造に詳しくないんですけど、Fや F2はモータードライブが全部機械式だから、「触ればれ切れる」というレスポンスは実現できていませんでした。F3になってからです。指で押すボタンと、レンズからの光を通すシャッターが電気的に繋がっていました。電子シャッターという商品名です。

PF:そこがそれまでのカメラとは決定的に違うんですね。

金子:そうです。ただ、当時は電子シャッターだから、反応が早いです、0.0何秒でシャッターが作動しますという宣伝文句だったから勘違いをする人が多かったのですが、そうではなくて、指先に力を込めてから、実際に電流が流れるまでに何秒掛かるのかが問題なんです。そのメカニカルの部分だよね。スイッチのところだから。ニコンの人に、すごくストロークを短くして、軽くしてと頼んでいました。

photo: Hiroshi Kaneko 金子 博 1989年、フェラーリ640を駆るゲルハルト・ベルガー。ジョン・バーナードによりデザインされた美しいマシン。

最初のオートフォーカスは下手だった

PF:その後、オートフォーカスの時代がやってきます。F3の後継機として、1988年の末にF4が出ますね。

金子:F4、これはちょっとダメなやつで、それはニコンも認めているんです。

PF:それはまたどういうところが。

金子:使い勝手が悪かったし、妙にサイズが大きかったんです。ニコンの社内的にも評判は良くなかったらしいですね。その次がF5。これはちゃんとしたオートフォーカスでした。F4のオートフォーカスは、僕よりも下手だった。だけどF5は僕より上手かったですね。

F3の時代は、マニュアルフォーカスでどこにでもピントを合わせられるぞ! という自信がありました。若かったし目も良かった。筋力があったし体も柔らかかったですから。けれどF5は本当にすごいなと思いました。助けてもらったという感じです。

photo: Hiroshi Kaneko 金子 博 1989年ヘレス・テストでの鈴木亜久里とザクスピード891。全戦予備予選落ちの辛酸を味わった経験が翌年の表彰台に結びついた。

PF:オートフォーカスになってからは走りの写真の撮り方もだいぶ変わったんですか。

金子:いや、変わらないと思います。ただオートフォーカスは僕よりも断然性能ががいいから、もう頼り切っている感じです。よくカメラマンがインタビューで、オートフォーカスは使いますかって聞かれると、「うーん使いませんね」とか言っていて、データでは半分も使ってないことになっているけれど、みんな使っていると思いますよ。だってすごいんだから。よくやっているよメーカーの人は。作る方も現場の話を聞くようになったんでしょう。それで良いカメラがどんどんでてきました。

オリンピックの体操とかスケート、野球なんかもすごいもんね、びったしだからみんな。スキーのジャンプもすごい写真が出てきています。マニュアルフォーカスだったらできませんよ。オートフォーカスのおかげでヨーロッパのカメラマンのレベルがすごく上がりました。

僕はレースの世界しか知らないけど、ヨーロッパの連中はレベルが高くなかったんです。何やってんのお前ら! みたいな。最近はベーシックな技術が良くなったからみんな上手くなった。

PF:それは逆に、昔は金子さんを含め日本のカメラマンの方は日本のカメラの会社とちゃんと対話をして作れたアドバンテージがあったのですか。

金子:だと思います。ただニコンはヨーロッパの連中と結構上手く付き合っているから、その辺からも色々な話を聞いて作ってるんじゃないかな。ヨーロッパは平均レベルは低いけど、トップレベルはすごいカメラマンがいます。平均レベルは日本人の方が全然いいですけどね。

photo: Hiroshi Kaneko 金子 博 F1の合間に2輪世界GPを撮ることもあった。1989年ベルギーGPの平忠彦とYZR500。

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