20歳のあのときも、39歳のいまも
烏山 大輔 ホンダ・インテグラ・TYPE R 2022.04.232004年式 購入:2010年10月 購入価格:110万円 購入時走行距離:77,545km 現在走行距離:174,832km 燃費:10.87km/ℓ
PF編集部の私こと烏山大輔は、整備士を志して通っていた自動車の専門学校を卒業した20歳のころ、ホンダ・インテグラTYPE R(DC5前期型)を手に入れた。そして39歳のいまも、「インテR」と暮らしている。実は最初に入手したクルマと、いま手元にあるクルマは別のもので、その間には7年のブランクがあるのだが、ともかく、いまも私にとってインテRは欠かすことのできない存在なのである。
「グランツーリスモ」が高校生だった私の運命を変えた。骨の髄までスポーツカー好きになってしまった私は、進路を自動車整備士に定めた。
日産系の学校だったのだが、自動車について学ぶにつれ、オートバイ・メーカーから突然F1に参戦して優勝を飾ってしまうなど、破天荒なホンダの歴史と技術力に心を奪われるようになった。
当時のホンダは「NSX」をフラッグシップに据え、「S2000」を登場させたばかりだった。それらは運転免許を取って間もない若者にはあまりにも高額だったが、「インテR」の中古だったらなんとか手に入りそうだ。最初のクルマがインテRとは、われながら無謀だったが、いま思えば少し無理をしてみてよかったと思う。
自分を魅了したのは、なんといってもホンダの技術の粋を集めたVTECエンジンだ。ホンダの同時期の乗用車であるストリームやステップワゴンとエンジン型式自体は同じだが、タイプR用は超高回転型仕様の「Rスペック」で、出力は220ps/8,000rpmと、量販車用とは60psもの差があり、まさにホンダが作ったチューンドエンジンだった。
ふつうの乗用車用エンジンなら、6,000rpmでレッドゾーンに達してしまい、それ以上エンジン速度を高めることはできない。ところが、このRスペックエンジンは、その6,000rpmでVTEC機構が切り替わって、より勢いを増して回っていくのだ。
ここを境に排気音も迫力を増す。個人的には2リッター直4の市販エンジンの中で最高の音ではないかと思っている。リミットは8,700rpmに設定されているが、10,000rpmすらものともしないのではないかと思うほど、徹底的に元気な高回転エンジンに、唯一無二の魅力を私は感じた。
インテRの排気量は2リッターで、1リッターあたりの最高出力は110psとなる。1リッターあたり100psを超えるのが当時の超高性能エンジンの証だったから、インテRはその水準を余裕でクリアしていることも、スポーツカー乗りのプライドをくすぐった。
いつしかメカマニアになった私にとって、そうした数字上の優位性は重要なポイントだった。高性能エンジンの指標として、「ピストンスピード」がある。エンジンの中でピストンがどれほど速く往復することが可能か? という数字だ。摩擦の低減や点火の正確性など、高性能化の技術が問われる。
20m/sを超えれば高性能エンジンと言われるなかにあって、インテRのK20A型は、24.94m/s (ストローク86mm、8,700rpm時)に及んだ。S2000(AP1型)のF20C型エンジンが示す25.20m/s (ストローク84mm、9,000rpm時)に比肩する値で、もうほんの少し頑張れば2007年のホンダF1マシン「RA107」のRA807E型V8エンジンが示した25.66m/s (ストローク40.52mm、19,000rpm時)にも到達しようという水準であった。
そんな超高性能エンジンを搭載するスポーツカーでありながら、日常の使い勝手にも不満がないのはインテRの魅力だった。現代のコンパクトカー並みの1,180kgと軽量なので、街中を低速で流すシーンでもエンジンのトルク不足は感じないし、摩擦ロス低減のためバランサーシャフトが排除されたにもかかわらず、振動はごく少ない。燃費も私が記録した限りでは10km/Lを上回っていた。開口部が大きなテールゲートを開けば、タイヤ4本を飲み込んでしまうほど、実は荷室も広いのだ。
インテRと私の付き合いは、延べ14年、14万kmにおよぶ。超高性能エンジンを搭載したタイプRとの長年の暮らしがどのようなものであったのか、次回以降じっくり伝えていこうと思う。