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トレイルランニングの“レジェンド”鏑木 毅が語る「モノ」へのこだわり:#04ライトとサングラス

佐々木 希 PETZL、ESS 2025.03.19

日本を代表するトレイルランナーの鏑木毅選手に、PARCFERME独自の視点から「モノ」について語ってもらう全6回の連載企画。気候や路面の変化と闘いながら自己のパフォーマンスを最大限発揮することを目指すトレイルランニングにおいて、ランナーはどんな観点でギアやツールを選ぶべきなのか。第4回はランナーの視覚を支えるアイテムに注目した。

大会会長を務める鏑木氏自身がMt.FUJI100(100マイルレース)に2024年出走した。このとき二日間の夜間走行に使用したのはペツル「NAO RL」。

——トレイルランニングで使用するヘッドライト、 ”ヘッデン“とも言いますが、鏑木さんはどんなものを使っていますか?

鏑木 毅(以下、鏑木): 長時間のトレイルランニングにおいてヘッドライトは欠かせない装備です。私はぺツルの「NAO RL」というモデルを愛用しています。

このライトは照度が高く、バッテリーの耐久性も優れています。そして何より軽いのが特徴です。昔、UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)に出ていたころの写真を見ると、私は非常に大きくて重いライトを使っていたことに驚きます。もちろん、当時と比べても価格は高くなっていますが、機能性を考えると、十分価値があると思います。トレランを始めた当初は、ヘッドライトで全体を照らしながら、足元は手持ちライトに頼っていましたが、現在はヘッドライトのみで十分です。それだけ照射範囲も広くなっています。

ペツルは洞窟探検家のフェルナン・ペツルによって1975年に創業された。彼が発明した登山用ヘッドランプは、独自のデザインと高性能で世界中で愛用されている。

昔は専用バッテリーを専用のACアダプターで充電しなければならず、かなり面倒でした。しかし今はUSB-C対応のモデルも増えてきており、充電も簡単になりました。また、バッテリーの持ちが良くなったことで、以前ほど予備バッテリーを持ち歩く必要がなくなり、予備のチャージャーもほとんど使わなくなりました。技術の進化により、長時間のレースでもライトのことを心配せずに済むようになったのは大きな進歩です。

それでもバッテリーの消耗を抑えるために、照度を調整することがあります。具体的には、上り坂は最小モードに、下り坂は最大の明るさにする。こうすることで、より速度が出る下りの視界を確保し、安全性を高めています。昔話をひとつ紹介すると、UTMBで私の後を走っていたランナーがライトを消して、私のライトの光を頼りに走っていたことがありました。「“ライト泥棒“じゃないか」と、ちょっとムッとしましたが、それほどみんなバッテリーの持ちを心配していました。

(左)「NAO RL」は、ペツルのスポーツヘッドランプの中でも大光量を必要とする、トレイルランニング向けのシリーズ。標準小売価格¥25,600(税別)。最大 1500 ルーメンの明るさで、わずか 145 グラム。後頭部のバッテリーに搭載された赤色光により、夜間の視認性も高める。(右)付属の収納用ポーチはライトを中に入れて灯せば光が拡散してランタン代わりにもなる優れモノ。

ぺツル「NAO RL」
https://www.petzl.co.jp/headlamp/nao-rl/

——トレイルランニングにおける視界を確保するという意味では、サングラスも重要なアイテムですね。

鏑木:トレイルランニングでは、足元の凹凸を正確に捉えながら、かつ次々に現れる樹木も避けながら、レースではなるべく速く走らなければならない。例えば100マイルレースではそんな緊張感のある状況が、20数時間にも及びます。視覚疲労を防ぐために、サングラスは非常に重要です。

もう一つ重要なのが、目の保護ですね。28年も山を走っているといろいろあるもので、実は眼球に木の枝か何かが突き刺さって、あと少しのところで失明するようなアクシデントが何度もありました。

——サングラスにはどんな機能が求められるのでしょうか?

鏑木:私はESSの「クロスブレイド」を、レンズの色の違う2種用意して、使い分けています。日本のように高温多湿な環境では、レンズが曇りやすいのですが、レース中にサングラスを何度も拭くことは、時間のロスです。このサングラスは曇りにくい構造になっています。

また、急に明るい場所から暗い場所に移動するようなシーンでも、サングラスをかけたまま問題なく視界を確保できるため、いちいち外す必要がありません。常にサングラスをかけた状態で走ることができるのは大きな利点です。

日本の登山道は樹林帯が多い。春夏は草木が生い茂り、秋冬は足元は落ち葉で四方に張りめぐった木の根や小石や岩を隠してしまう。そこを安全に駆け抜けるにはクリアな視野の確保が必要だ。

——2種のレンズはどのように使い分けているのですか。

鏑木: 私は日本のトレイルランニングでは、主にブロンズレンズを使用しています。ブロンズはトレイルの凹凸をはっきりと映し出してくれるため、樹林帯の多い日本のコースには非常に適しています。50歳を過ぎ動体視力が落ちて、特に下りで転ぶことが多くなりましたが、このブロンズレンズのおかげでトレイルの凹凸がしっかり見えるようになり、転倒が減りました。

一方、ヨーロッパや北米のように樹林帯が少なく、開けたエリアが多いレースでは「スモーク」と呼ばれる黒っぽいレンズが適しています。光の強い場所でも視界がクリアに保たれます。

(左)ESS「JAPAN LIMITED Cerakote Series CROSS BLADE NARO /スモークグレイレンズ」(右)ESS「JAPAN LIMITED Cerakote Series CROSS BLADE NARO /ハイデフブロンズレンズ」ともに標準小売価格¥24,800(税別)。

—— レンズや見え方以外にも気をつけるべき点はありますか?

鏑木: サングラス選びにあたっては、フィット感が非常に重要です。フィットが悪いと、走っている最中に横揺れや縦揺れが起こり、それがストレスになり集中力が削がれます。「クロスブレイド」は、フィット感が非常に優れていながらも締め付け感がなく、ストレスを感じません。長時間のレースでも快適に使い続けることができるので、非常に満足しています。

ESS「JAPAN LIMITED Cerakote Series CROSS BLADE NARO /スモークグレイレンズ」
https://esseyepro.jp/items/japan-limited-cerakote-series-crossblade-naro/

——ライトやサングラスの選び方について、アドバイスをお願いします。

鏑木: ライトは、夜間や暗い場所での視界を確保し、特に長時間走るレースではバッテリーの持ちが重要になります。明るさとバッテリー性能のバランスが取れたライトを選ぶことが大切です。また、サングラスは視覚的な疲労を軽減するだけでなく、目を保護する役割も持っています。特に、フィット感やレンズの色選びは、自分の走る環境に合わせることが肝心です。自分に合ったギアを選ぶことで、レース中のパフォーマンスを最大限に引き出すことができるので、しっかりとこだわってみてください。

ESS「JAPAN LIMITED Cerakote Series CROSS BLADE NARO 」。

<つづく>

鏑木 毅
2009年世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(現UTMB、3カ国周回、走距離166km)」にて世界3位。

また、同年、全米最高峰のトレイルレース「ウエスタンステイツ100マイルズ」で準優勝など、56歳となる現在も世界レベルのトレイルランニングレースで常に上位入賞を果たしている。

著書に「アルプスを越えろ!激走100マイル(新潮社)」「トレイルランニング入門(岩波書店)」、「トレイルランナー鏑木毅(ランナーズ)」、「トレイルランニング(エイ出版)」、「全国トレイルランコースガイド(エイ出版)」「トレイルランニング~入門からレースまで~(岩波書店)」などがある。

2009年のウルトラトレイル・デュ・モンブランでの世界3位はNHKドキュメンタリー番組(DVD「激走モンブラン」)となり、日本でのトレイルランニングの盛り上がりの火付けとなった。
2011年11月に観光庁スポーツ観光マイスターに任命される。
現在は競技者の傍ら、講演会、講習会、レースディレクターなど国内でのトレイルランニングの普及にも力を注ぐ。

アジア初の本格的100マイルトレイルレースであり、UTMBの世界初の姉妹レースであるウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)の大会会長を務める。また自らがプロデュースしたトレイルレース「神流マウンテンラン&ウォーク」は2012年に過疎地域自立活性化優良事例として総務大臣賞を受賞、疲弊した山村地域の振興、地域に埋もれた古道の再生など地域を盛り上げるモデルケースとなっている。

鏑木毅オフィシャルサイト
https://trailrunningworld.jp/profile/

<写真提供>
鏑木 毅、©富⼠箱根伊⾖トレイルサポート、株式会社GON、ESS JAPAN、アスタリール株式会社、ペツルジャパン株式会社、THE NORTH FACE

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