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Der FREIRAUM デアフライラウム “自由な余白”♯08

ゴルフ・キャンパーを作る連載ですが、なぜかシロッコの登場です。

横川 謙司 フォルクスワーゲン・ゴルフ 2022.11.21

Golf Caddy GTIキャンパー!?

スポーツにせよ、人生にせよ、予想外の展開というのはエキサイティングです。ドラマや映画であれば、その伏線や事件を埋め込んでおくのは作家自身な訳ですが、リアルタイムの人生で起きる予想外は、そのシナリオを紡いでいる見えない力の存在を感じざるを得ません。

キャンパーのベースとして、Golf Caddyを手に入れん、と東奔西走している私に、なぜだか突然「北走」が加わり、はるばる岩手県までクルマを迎えに行く事案が発生。SciroccoII GTX。フォルクスワーゲンのスポーツクーペ、Sciroccoの二世代目です。

私は、このクルマのエンジンとトランスミッションが欲しくて入手に至りました。ただでさえレアなSciroccoを部品取りに!? と思われる向きも多いでしょう。ところが、哀れ、このScirocco、クレーンで吊られてルーフが歪んでしまっている、かつ、書類無し、と言うことで、公道復帰は叶わぬ個体だったのです。

ドアの上方、ルーフがべっこり歪んでいる。

SciroccoⅡとCaddyは、どちらも初代Golfと同じA1シャシーで、マウント位置も同じ。エンジン換装がなんなく可能なのですね(自分じゃできませんが)。その上、このGTXエンジンは初代Golf GTIとほぼ同じスペックで、Caddyのオリジナルのエンジン出力が70PSのところ、一気に105PSに! 重いキャンパーがとても頼もしい心臓にグレードアップです。

そして貴重なマニュアル5速ミッション。レアなSciroccoをバラしてしまうのは忍びないのですが、動力装置その他を移植し、Sciroccoの魂を再び路上へ……という計画です。

さて、はるばる700kmの道のりを回送されてきたSciroccoⅡ。マジマジと見るのは初めてです。初代のデザイナーはジウジアーロ氏でしたが、2世代目はGolfⅡも手がけたヘルベルト・シェーファー氏。シャープさとふくよかさの共存した美しいボディラインです。

10年ほど不動であったらしいのですが、バッテリーを繋ぐと電装系には灯りが入り、一瞬ですがエンジンにも鼓動が。早く整備して往年のパワーを漲らせたくなります。妄想ばかり膨らみますが、当然カンタンには行かぬもので、日本で登録済みのこのエンジンも、シャシーが変わると、つまりCaddyに載せ替えると、「ガス検」を取らねばならぬとか……。

また、今回は並行輸入かつエンジン換装、つまり改造申請ということで、どれほどの紆余曲折が待ち構えていることやら……。申請には、Sciroccoのエンジン形式や動力性能を証明する書類が必要ということで、いろいろインターネット上で情報を集めましたが、それではダメ、とお達しがあり、結局、当時のカタログに載っているスペック一覧が有効な証明書であることがわかり、オークションで1985年版を入手しました。

排気ガス関連が一番ややこしくハードルも高いのですが、これはエンジンではなくシャシーの登録年度に依存する、ということで、Caddyの製造番号や車検証も必須のアイテムになってきます。

さまざまな壁は想定内。元気に走るCaddy Camper実現のためなら、ひとつひとつ攻略してゆくのみ。このエンジンを積んで出来上がるCaddyは、スペックからはGolf Caddy GTIとも呼べそうなクルマになるわけで、完成の暁にはフロントグリルに赤い縁取りを奢ろうかと。

しかしまぁ、このタイミングで走行不能なマニュアルのSciroccoが出るとは……。そして書類無しのクルマを買うことになるとは……。ほんとに、想定外でエキサイティング。こんなシナリオ用意したの、誰!?

オドメーターは10.6万kmを刻む。

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