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南アフリカの“デザート”は北欧の冒険者の口に合うか⁉︎……ハスクバーナ ノーデン901 エクスペディション

ケニー佐川 2023.08.03

記者、そしてMFJ公認インストラクターとしてライダーのスキルアップを手助けするなどマルチに活躍するモーターサイクルジャーナリスト・ケニー佐川氏が、毎月注目の一台を選ぶ本連載。

第3回は、その美しい車体造形で日本でも知名度を上げつつある北欧スウェーデンの老舗「ハスクバーナ」から、本格アドベンチャーの「ノーデン901 エクスペディション」を選んだ。アドベンチャーの大好物といえば、やはりデザート(荒野)であろう。北欧の冒険者が南アフリカの大地を駆け抜けた。

ラリーマシンのDNAを持つ“本物”

「ノーデン901 エクスペディション」は、ガワだけを固めたモデルではなく、本物のオフローダーとして性能を追求している。

「ハスクバーナ」というブランドをご存じだろうか。産業界ではチェーンソーで有名だが、実は北欧スウェーデンで17世紀に生まれた銃器メーカーがその起源である。

1903年にはエンジン付きの二輪車を製造していたというから、まさに世界最古級のモーターサイクルメーカーでもある。主にオフロードレース界で目覚ましい躍進を遂げ、2013年からはKTMグループの傘下となり個性的なストリートモデルを世に送り出してきた。

ここ数年はダカールラリーで上位入賞を果たすなど存在感を増す中で、2021年にはハスクバーナ初のアドベンチャーモデルとして「ノーデン901」を投入。これをベースにさらに戦闘力を高めた上級バージョンが、この度取り上げる「ノーデン901 エクスペディション」である。

アドベンチャーらしい力強い佇まいだが、円形のヘッドライトが逆に個性的に映る。

ちなみに「Expedition」とは「遠征」の意味で、その語源は開拓者が帆船に乗って大陸を目指した大航海時代まで遡るらしい。

南アフリカの南アフリカの雄大な大地。ノーデン901もきっと喜んでいるだろう。

全ての車体装備は冒険のために

異形のヘッドライトの採用が当たり前になった昨今、ハスクバーナはあえてオーソドックスな円形にこだわる。

エクスペディションは、その名のとおり冒険ツーリング向けの装備が一段と強化されているのが特徴だ。

中でも一番の違いはサスペンションだろう。エンジンと車体はスタンダードモデルを継承しつつ、新たに240mmまでストロークを伸ばして、オフロード向けにセッティングしたWP製XPLORサスペンションを前後に装備している。

サスペンションは減衰力の調整が可能。手動ではあるが、その方がアフリカのような大地を駆け抜けるには良い。故障すると直せないからだ。

スタンダードのノーデンが、同じWP製でもオンロード向けのAPEXサスペンションを採用しているのとは対照的だ。しかも前後それぞれ+20mm/25mmもロングストローク化されている。

また、大型ウインドシールドや頑丈なアルミ製スキッドプレート、寒冷地で役立つグリップ&シートヒーターを新たに追加。

電子制御などの調整は、左のグリップに備えられたボタンにて行なう(写真右下)。

最大で36L収納可能な大型サイドバッグの他、メンテナンスにも便利なセンタースタンドも標準装備するなど快適性と積載性も大幅にアップしている。

電子制御も進化し、4種類のライディングモード(ストリート、レイン、オフロード、エクスプローラー)を標準搭載。

コーナリングABS&トラクションコントロール、クイックシフター、クルーズコントロール、MSR(エンブレ調整)に加え、新たにコネクティビティ機能も追加した。

メーターパネルはフルデジタル。スクエアなデザインのため視認性が良い。

タイヤはスタンダードモデル同様のピレリ製スコーピオンラリーSTRを標準装着し、オン・オフを問わず快適にロングツーリングを楽しめる仕様になっている。

荒れた地面をしなやかにいなすことができるからこそ快適性が生まれる。

南アフリカの大地にてテイスティング

オンロードモデルでは敬遠してしまう泥。しかし性能が良いアドベンチャーなら逆に入ってみたくなるもの。

さて今回、国際メディア試乗会が開催されたのは、南アフリカ共和国の南端に位置するケープタウン。大航海時代に船乗りたちが目指した「喜望峰」で有名な街だ。海に囲まれ風が強く、険しい山や乾燥したサバンナの大地が広がっている。

地球本来の美しさが残る雄大な大地と海。

試乗コースはダートが主体で、テント泊を含む3日間のローンチで400km以上を走破する、まさにエクスペディションの世界観を存分に堪能する遠征だった。

様々な国のメディア関係者が参加した試乗会。この時だけはライバルではなく、ともに道をゆく冒険仲間となった。

目の前に並んだ新型マシンは、一見してよりワイルドかつタフな印象になった。スタンダードのノーデン901に比べると車高が高く、厳ついガードも付くなどラリーマシン風だ。

さっそく跨ってみると、シートはやや高めではあるが、体重で前後サスペンションが沈み込むため足着きも見た目ほどは悪くない。

左右振り分けタイプのロワータンクに囲まれるようにコンパクトに収まったエンジンは、「KTM 890アドベンチャー」系の水冷並列2気筒899ccで、最高出力も105psとノーデンと共通している。75度位相クランクが持つVツイン的な歯切れのよい鼓動感とトラクションの良さが際立つ。

極低速から滑らかに出てくるトルクと軽いクラッチ操作による発進のしやすさは従来どおり。低中速トルクにパンチがあって高回転までスムーズに吹け上がるパワーは、流れの速い高速道路でも十分なレベルと言える。

大型化されたウインドシールドと張り出したサイドカウルが効果的に走行風を押しのけてくれるので、上体を起こしていても快適。

クイックシフターも節度感があり、つま先をペダルに軽く触れるだけで気持ち良く入る。

クイックシフターは、特に減速時に気を使うクラッチ操作とその思考を取り払ってくれるので、ワインディングを軽快に駆け抜ける際などに有効だ。

郊外の雄大なワインディングからタイトな山道までけっこうなペースで走ったが、ハンドリングは軽快かつ安定していて、フロント21インチらしい大らかさはあるがライン取りは狙い通りに行ける。

左右のサイドバッグに荷物を詰め込んで走ってもそれは変わらなかった。

長いアシはアスファルト路面でもフワつくことはなく、コーリング中も凸凹を軽くいなしてくれるし、加えて傾斜センサー付きのABSとトラクションコントロールが万が一のリスクも担保してくれているので安心。

たとえばコーナーの先に落石があったりしても、車体を傾けたまま前後ブレーキで減速しつつ危険を回避できるような「安全マージン」を高く感じるのだ。

そんな状況には陥りたくはないが、万が一のことを考えると大きな心の支えになる。長い距離を高速で移動するロングツアラーには、こうした資質が大事。ちなみに標準タイヤのピレリ製スコーピオンラリーSTRは、接地感が豊富で安心してフルバンクの走りを楽しめた。

本物のオフローダーは、えてしてオンロードの走行性能も高い。しかしその乗り味はオンロード志向とは異なる気持ちよさがある。

電子制御技術がマシンの味に深みを与える

電子制御技術は、逆に様々なシーンでマシンを自在に操れる自由度を与えてくれる。

そしてノーデン901の本分であるオフロード。目の前に広がる広大なダートを前にライドモードを「ストリート」から「オフロード」に切り替える。

これでスロットルレスポンスは穏やかに、ABSも不整地向けに最適化(リア側は解除)され走りやすくなる。また、トラコン介入度が制限されてある程度の後輪スライドを許容してくれるので、慣れてくればフラットダートで程よい感じのテールスライドも楽しめる。

「ズザー-ッ」と後輪を流しながら砂煙とともに軌跡を刻む。これをやりたくてアドベンチャーバイクに乗る人も多いはず。最新の電子デバイスの威力に加え、ミドルクラスならではの軽さと扱いやすさも味方してくれるはずだ。

山を登るにつれ道は荒れて突然深いギャップや砂地が現れることも。そんなピンチな状況で本領を発揮するのがWP製XPLORサスペンションだ。

大小の石が転がる冷や汗もののガレ場でも、ストローク感たっぷりのしなやかな動きで大きなギャップも吸収してくれる。

ライダーはバイクを信じてスロットルを開ければいいだけだ。ちなみに拳サイズの石が数回ほど「ガチン」と足元を直撃したが、スキッドプレートが見事に弾き返してくれた。

ハードなシチュエーションで本領を発揮してくれたのが「エクスプローラー」モードだ。スタンダードのノーデン同様、KTMのラリーモード由来のシステムで、トラコンレベル(9段階)やスロットルレスポンス(3段階)を細かく設定できる。

走行中でも左手元のスイッチで瞬時に介入レベルを変えられるので、例えば泥濘や砂地でもとっさにレベルを下げてスタックを防いだり、スロットルの反応を鋭くすることで瞬間的にトルクをかけてフロントを軽くしてギャップを乗り越えやすくしたりという芸当ができる。

電子制御のサポートがあるおかげで走りに集中できるし、タフな状況でも安全に上手く走らせてくれる。まるで自分が上手くなったかのような、というよりも実際にリスクを抑えて上手く走らせてくれるマシンなのだ。

アドベンチャーの快適性は、オフロードを安全かつ速く走れるという性能の上に成り立っている。

これら電子制御のプログラムについては豊富なラリー参戦から得られた知見とノウハウが生かされているのだとか。

ラリーを知り尽くしたKTMグループならではの強みだろう。「遠征」のコンセプトどおり、まさに冒険ツーリングを現実にするためのアドベンチャーバイクである。

本物のオフローダーは、荒地を走行後、仕事を終えた職人のような雰囲気を醸し出す。

ケニー佐川(佐川健太郎)
早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促・PR会社を経て独立。趣味で始めたロードレースを通じて2輪メディアの世界へ。雑誌編集者を経て現在はジャーナリストとして国内外でのニューモデル試乗記や時事問題などを二輪専門誌・WEBメディアへ寄稿する傍ら、各種ライディングスクールで講師を務めるなどセーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。元「Webikeバイクニュース」編集長。「Yahoo!ニュース」オーサー。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

[SPEC]
ハスクバーナ・ノーデン901エクスペディション
車両本体価格(消費税込):¥199万9,000円
シート高:875/895mm(2段階調整式)
車両重量:214.5kg(乾燥)
エンジン:直列2気筒 DOHC 水冷 自然吸気 ガソリン
排気量:880cc
最高出力:105ps/8,000rpm
最大トルク:100Nm/6,500rpm
変速機:6段 MT リターン式
タイヤサイズ(前):90/90 R-21
タイヤ(後):150/70 R-18
(記事執筆時点における欧州仕様車データです)

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