STORY

90点の男――創刊に寄せて

田中 誠司 2022.03.31

最善のタイミングを見切ることも重要だ

「おまえはいつも詰めが甘い」と母親からなじられて、ここ40年過ごしてきた。

墓参りに遅れるとか、結婚式の段取りが悪いとか、連絡すると言って忘れるとか、多くはそういうことだ。もっと深刻な話もあるが。

ぼくのためを思って言ってくれているのだろうけれども、そうした言葉は一種の呪いのようになってぼくを縛る。自分には他の人より優れたものを作る能力はないのではないか、と。

実際、中学校で真鍮を削って文鎮をこさえるような技術科の授業で、朝から晩まで真鍮を撫で続けてツルピカなオブジェを作り上げる生徒には敵わなかったし、プラモデルも、そこそこキレイには仕上がるもののプロが作るような艶やかさや精密さには程遠かった。ある程度、完成に近づくとそこで満足してしまうのである。家の掃除でさえ、床を全体にピカピカに拭き上げて、その先少しホコリが残っているところで、なんか、もういいんじゃないかと、やめてしまう。

ただ、要領よく目的地点を掴んで、その90%まで持っていく速さには、自分は長けていると思う。

大学入試センター試験の点数は85%ほど、TOEICは90%を少し超える程度だった。しかしそこからさらに、浪人してトップの大学に入ったり、試験を何度も受けていい点数を取ろう、という気にはならないのである。

アンケートを通じ、心理学の観点から個人個人の長所を分析するギャラップ社のストレングス・ファインダーというシステムがある。かつて在籍していたBMWがぼくに受けさせてくれたテストだ。34の資質のなかから、5つの優れた特性を見出してくれるというものだ。

着想(Ideation)、戦略性(Strategic)、親密性(Relator)、分析思考(Analytical)、最上志向(Maximizer)というのがぼくの特性らしい。

これまでの人生、わりと必死に生きてきた。Maximizerという志向において、自分自身やそれが属する組織から最大限のパフォーマンスを発揮したいということに努めてきた結果、自分の理想のポジションだった雑誌の編集長にもなったし、広報に身を転じて部門長も経験した。創業した会社は小さいけれどもそこそこの勢いで回っている。

母は「詰めの甘さ」をいまでも言ってくるのだけれど、自分が90点の時点で一歩退いて見るような性格でなかったなら、ここまでいろいろなフィールドで活躍できることもなかったのではないだろうか。

90点のものを99点にするのは、0点から90点にするよりずっと時間がかかる。失点を10分の1に留めなければならないからである。そこから100点まで持っていくには執念と、運も必要だ。

90点のものを必死につくりあげてきた過程で、ぼくには100点を目指し、実際に作れる友人や知人が多数できた。100点といわないまでも、高い水準のコンテンツで何かを伝えたいという思いを、彼らと共有できる。

われわれがスタートするPFの準備状況は90%に満たないかもしれない。見切り発車というと良いニュアンスはないが、最善のタイミングを見切ることも必要だ。

最終的に、訪問者の方々から「100点満点、満足した!」と喜んでもらえるようなメディアを、ちからを合わせて創っていきたいとぼくは考えている。

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