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ヒマラヤの麓、道なき道を駆け抜けろ! 「モト・ヒマラヤ 2022」予告篇

田中 誠司 ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ 2022.08.08

「今年の夏、一緒にヒマラヤに行きませんか」

突然、ロイヤルエンフィールド広報担当のSさんからそんな電話がかかってきたのはPFの創刊準備を進めていた5月のことだ。

「ウチのラインナップに『ヒマラヤ』というアドベンチャー・タイプのバイクがあるのはご存知かと思うんですが、その名の通りヒマラヤの麓を駆け抜けるイベントを、ロイヤルエンフィールドは長年、開催しているんですよ」

Sさんが見せてくれた過去のイベントを収めたムービーには、高く美しくそびえるヒマラヤの山々を背景に、モーターサイクルの群れがインド北部、ラダック地方の広大な湿原を駆け抜け、冒険の素晴らしさに感動するライダーたちの高揚した表情が描かれていた。

この夏、3年ぶりに開催される「モト・ヒマラヤ 2022」は、ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤに乗って、日常の世界から隔離された山岳地帯約1,000kmを走破するライディング・ツアー・プログラムである。絵画のように美しい高速道路、手付かずの自然が残る湖、ヒマラヤ山脈の星空の下でのキャンプを体験し、さらに自動車やオートバイで走行可能な、世界で最も高い標高にある峠を駆け抜ける。

険しい路面、高い標高、予期せぬ気象条件の中を走り、ライダーが自分の冒険能力を追求する絶好の機会とも表現される。この壮大なイベントを取材しないか、というお誘いなのだった。

ツアーに用いられるのは「ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ」。411ccという排気量の単気筒エンジンを備えたコンパクトなアドベンチャー・ツアラーである。

ロイヤルエンフィールドは過去20年にわたって数々のライド・ツアーを独自企画している。このうち20以上のプログラムをヒマラヤ地方で、100以上のプログラムを世界の山岳地帯で実施しており、累積3万人ものライダーが参加した実績があるという。私は日本のメディア業界に長年いるが、そんな取り組みが続けられているとは初めて知った。

「しかしこれがなかなか大変なイベントであることを断っておかなければなりません。まず拠点となるのがラダックの中心都市であるレーという街で、そこからツアーの会期が8日間。前後の飛行機の乗り継ぎなど考えるとかなり長期の出張になります。それと、レーの標高が一番低くて3,500メートル。途中で通る峠道には、自動車で走れる峠としては世界で最も高い標高5,350メートルの場所もあって、高山病に悩まされる心配もあります。高地ゆえ天候の変化も激しく、一日の走行距離は長くありませんがルートには未舗装路が多く、渡河するシーンもあるそうです。ただし、バイクの隊列の後ろには、医師を乗せた救急車と酸素カプセルが追従します」

私は雑誌記者やメーカーの広報担当者としてずいぶん海外出張は経験したが、アジア地域を訪れたことは少なく、インドには足を踏み入れたことがない。実は胃腸があまり強くないし、オフロード走行の経験も皆無に近い。そんな人間が過酷?なツアーに参加して大丈夫なのか。

世界で2番目に高い峠、標高5,391mとある。

かなり悩んで、私のことをよく知るいろんな人に相談したが、上記のムービーを見せると、

「これはスゴイ。ふつうに暮らしている日本人が、こんなところでこんな体験をする機会なんて、二度と巡ってこないですよ」「ぼくも行きたいなあ」

と言って、みな背中を押すのだった。たしかに、お膳立てなしに自分ひとりでこんな冒険に挑むことなんて完全に不可能だし、いまこの機会を逃してもっと年齢を重ねてしまったら、さらに体力的に気後れするのは目に見えている。

PFをスタートさせたこともそうだが、このところ「今しかない」を言い訳に何もかも飛び込んで行っているのが心配ではあるものの、参加させてもらうことを決めた。

ビザや国際免許、医師の診断書といった書面や、オフロード走行に適した装備の準備を進めるのと並行して、ロイヤルエンフィールド広報は参加者向けの説明会を実施。過去に何度もロイヤルエンフィールドのイベントに参加し、インド在住の経験もあるタイヤ専門のプロ・テストライダーである岡本英活さんから現地の様子を教わることができた。今回もわれわれと一緒に参加するとのことで、心強い。

岡本さんがヒマラヤでのイベントに参加したのは数年前のことで、そこからルートも変更されている(かつてはデリーからレーまでの約1,000km往復もルートに含まれていた)から、イベントのマネジメントもだいぶ変わったのではないか、と断ったうえで、「高地の環境は想像以上に厳しく、インドの道路は過酷で、オフロード走行の距離もかなり長いので、入念な準備と細心の注意が欠かせません」と促した。

標高4,000mの高地には、酸素が海面(標高0m)の62%しか存在せず、5,300mとなるとその比率は53%にまで低下する。これが高山病として風邪のひき始めのような症状を引き起こし、それは薬では治りにくく、高度に身体を順応させるしかない。また体内から水分が蒸発しやすいため、水を大量に補給しないと脱水症状に陥りやすいという。洗濯物が乾きやすいのはいいが、ビールの泡はすぐ抜けてしまうそうだ。

空気中の不純物が少ないため、空の青さは日本とは比べものにならないほど深く、夜は星が猛烈にキレイに見えるというから楽しみだが、昼間は日差しが強く、サングラス等で守らないとすぐに眼を傷めてしまうほか、日焼けには十分注意しなければならない。そして日が沈んだ途端、気温が急激に低下してモノが凍りつくほど寒暖差が大きいという。

こうした高地の環境に加えて、コース設定はかなりオフロードの区間が長く、身体の負担が大きいほか、無免許のドライバーが少なくなく、ヤクなど動物が飛び出してくることも多い交通状況、停電は頻繁に起き食事は辛いものしか出てこないという生活環境にも適応する必要がある。

果たして無事還ってくることができるのか。イベントは8月14日に始まる。

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