STORY

Der FREIRAUM デアフライラウム “自由な余白” ♯12

私のGolf Caddyを見にオーストリアへ

横川 謙司 フォルクスワーゲン・ゴルフ 2023.04.10

突然目の前で始まった“自動車の組み立て”

私が、オーストリアの実車Golfコレクター、ヨーゼフ氏から購入するCaddyは、以前にもご紹介した通りフレーム姿、すっからかんのスケルトンボディ。レストアには最高の状態でしたが、そのままでは"クルマ"として通関できず、飾り物になってしまうことが判明。どこまで組み立てれば「自動車」と認められるのか、税関に聞いてもその明確な定義はなかったのですが、何はなくとも原動機(エンジン)は載っていないとダメらしい。

道路運送車両法第2条第2項に、自動車とは「原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具で……」という記述があるのですね。取回しを考えればタイヤは必要、ハンドルも切れた方がいいし、サイドブレーキもかかる方が良かろう、と言うことで、ヨーゼフに「せめてクルマと呼べる姿」に戻すべく組み立てを依頼。その後、欧州へ行く機会があって、フレーム状態のCaddyを見せてもらおうと、軽い気持ちで訪問したのでした。

ヨーゼフの博物館"Golfsrudel"裏手の倉庫で感動の対面。新品ではないけれど、新品のように真っさら、サビひとつない状態でサフェーサーだけが塗られた絶品シャシーにうっとり(←変態)していると、ヨーゼフがなにやらゴソゴソしています。

ややあって目の前にゴロン、と置かれたのはフロントサスペンション。「え、あなた、まさか今から組み立てるの?」と聞くと「メカニックの友達呼んでるのよ」と。その後も細かなボルト類、ハーネス、ディスクブレーキなどなど、バラして保管してあったパーツがどんどん目の前に並びます。やがて大柄なオジさんが現れました。

「メカニックのペーターだよ」挨拶もそこそこにペーターは並んでいる部品を一瞥すると、電動ドライバーを手に作業スタート。「まずはリヤサスペンションから」と、Caddyの後部をリフトで持ち上げサクサクとパーツを組み付け始めました。まさか、自動車組み立てシーンが目の前で展開するとは思っていなかった。

左:メカニックのペーターさんと、リーフスプリング付きリヤアクスル   右:「原動機により陸上を移動させることを目的として製作した用具」へ向けて作業開始。

大男のペーターは、リヤアクスル一式をひょいと抱え位置につけると、大きなお腹をものともせずシャシーの下へ潜り込みます。しかし、そのシャシーにはウマもかけず、後部を簡易リフトで持ち上げているだけなので、下じきになりやしないかと不安しかありません。「頼むから危険のないようにしてね。」と言っても「大丈夫だよ~。」と意に介さない様子。足しにはならないけれど、脇でボディを支える私。あっという間にリーフスプリングが固定されてリヤアクスルが付きました。ここはシンプルな構造とは言え、なにせ1/1自動車の組み立てシーン、そう目にするものではありません。面白すぎる。

Golfsrudel館長ヨーゼフさんとペーターさんがサイドブレーキを装着中。日本に来たらどうせバラすのだが、すべては輸送の利便性と通関のために。

リヤの車軸がついたところで、ハンドブレーキの装着に進みます。なにも付いてない状態なので、作業は捗りますね。ここでお昼を挟み(ソーセージ&塩パン!)、午後イチの作業は、まずリヤタイヤの取り付け。そのタイヤは、なんと展示しているCabrioから外しているではないですか! 大胆というか、豪快というか……感謝しつつ笑うしかない展開。でもこれで車体が横転することはなくなり一安心。

お次はエンジンルーム、ヨーゼフは倉庫の奥へエンジンを取りにいきます。棚にゴロンと置いてあるエンジンを、クレーンで吊って移動。聞けば「オリジナルの70PSエンジンだ」と。果たして始動できるのか、見た目はやや疑わしいけれど、オリジナルというのは貴重。

エンジンルームはさすがに複雑、組み付けの順番をよく考えないと「あちゃー」ってなりそうだからか、もうお一人助っ人メカニック氏が登場。エンジンを載せる前に、まず、ステアリングコラムと左右のリンケージを取り付けるようです。パッと見では正しい向きもわからない部品を、マニュアルも見ずに経験と記憶? でどんどん組み付けていきます。これまでどれだけバラして(組み立てて、か)来たのか。

この丸いのはブレーキサーボ(倍力装置)かな……と思ったところで、「あちゃー」と問題発生。間に挟むパーツをひとつ飛ばしてしまっていたようで、もう一度バラしてます。これだけ部品があれば無理もない。

エンジン搭載へ向けギアボックスを組み付けるのですが、必要な長いボルトが足りない模様。どうするのかと見ていると「外の部品取りGolfから外してくる」と……。感謝しつつまた苦笑。

さあ、いよいよVWの用語で Hochzeit(結婚式)と呼ぶ瞬間です。ボディの前部を持ち上げ、ギアボックスと一体になったエンジンを下から潜り込ませる形でインストール。位置合わせをしたら、今度はエンジンクレーンで吊って微修正。ラジエターなどが未装着なので、思いのほか簡単にエンジンが載りました。もちろん、エンジンを始動させるとなると別の話なのですが、通関上は「載っていればヨシ」なのです。

「私たち、結婚しました」

しかし……仮組みではありますが、ご覧の通り未塗装なので、もう一度ほとんどバラすことになるのだろうか……面白いけれど、果てしない。

そして、休むことなく前輪周りの作業へ。タフすぎる。ペーターは、完全に構造が頭に入っている模様で、フロントストラット、左右のリンケージ、ロアアームなどを手際よく組み立てます。ステアリングがついて、ハンドルも切れる状態に。プラモやラジコンで見たことのある光景だよな……。

組み上がったフロントセクションに、タイヤが装着されました。いよいよ、20年ぶりにこのCaddyが大地に立つ感動の瞬間。骨組みだったCaddyは、一日でここまで復活しました。

さらに驚きのプレゼントが!

この日の作業は以上。まさか、自動車の組み立て工程を目にすることになるとは……。「夕食ご馳走するよ」と言ったのですが「今日は帰って寝よう」と。そりゃお疲れですよね。ありがとう(ってか、自分でバラしたんだよね!)。

日本へのコンテナに載るまでまだ数ヶ月。フロントガラスにドアにシートに……戻す部品はまだまだたくさんだけど、「余裕だよ」と。

そして、なんと最後に驚きのプレゼントが! ヨーゼフがニヤニヤしながら1/18スケールのコンテナから引出したのは、フレーム状態のCaddyのミニチュア。お友だちがフルスクラッチしたというそのモデル、さっきまでのCaddyの姿が完全再現されています。

これは嬉しい! そして、この姿をモデル化するとは、発想が変態すぎて愛おしい……。まさに、世界にひとつ。Danke schön! Josef!! 次に会うときは、コンテナトラックを連れてくぜ!

1/18のミニチュアをプレゼントされた。実車はこの状態でGolfsrudelに保管されていたわけだ。左方に見えるミニチュアトラックにも興味深々。

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