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トレイルランニングの“レジェンド”鏑木 毅が語る「モノ」へのこだわり:#03トレランザック

佐々木 希 THE NORTH FACE TR SERIES 2025.01.24

日本を代表するトレイルランナーの鏑木選手に、PARCFERME独自の視点から「モノ」について語ってもらう全6回の連載企画。気候や路面の変化と闘いながら自己のパフォーマンスを最大限発揮することを目指すトレイルランニングにおいて、ランナーはどんな観点でギアやツールを選ぶべきなのか。

第3回目はランナーが命を託すレインウェアや補給食、エマージェンシーキットなどを運ぶための必需品“トレランザックについて”お届けする。水まで入れれば数kgにおよぶ荷物を詰めて走るこのザックには、さまざまなノウハウが集約されているのだ。

——トレランギアの中で、ザックの重要性について教えてください。

鏑木 毅(以下、鏑木): ザックはトレイルランニングに臨む上で非常に重要なギアです。ザックのデザインがしっかりしていないと、背負った時に体からずり落ちるような構造になりやすく、それでは快適に走ることができません。

私がこだわっているのは、重心がなるべく体の真ん中に来るような設計です。昔は多くのザックがそういう配慮がなく、走っているうちに背中からずり下がるようなものが多かったのですが、最近の製品ではそうした問題が解決され、よりフィット感が向上しています。

(左)昔のトレランザック。(右)ザ・ノース・フェイス「ティーアール10」。

——ザックの選び方について、ランナーは何を重視すべきですか?

鏑木: 物を実際に入れたときの重心がどこにくるかがザックの背負い心地においては大切です。登山用のバックパックでは重いものを中央に入れることがセオリーですが、瞬間的に中身を出し入れするトレイルランニングでは、そうした意識がなくても、ザック自体が正しい位置に重心を保ってくれることが理想です。

私が愛用しているザ・ノース・フェイスの「TR(ティーアール)シリーズ」は、ザックの背面が背中の真ん中にくるように設計されており、どんなに乱雑に物を入れても、重心が正しいポジションにおさまります。

(左)2024Mt.FUJI100(100マイルレース)もTR10を使用。(右)昔のザック。傍目にフィット感に欠け、走れば揺れるように見える。

—— ザ・ノース・フェイスのTRシリーズには、ショートレース用の「TR0」から大容量の「TR ROCKET」まで、様々な容量が用意されていますね。そのほかに、具体的にどのような特徴があるのでしょうか?

鏑木:TRシリーズは全般に、収納へのアクセスが非常にスムーズです。昔の登山用ザックでは、各ポケットがジッパーで閉じられており、物を取り出すのに手間がかかりましたが、TRシリーズには、ポケットの多くにジッパーがありません。周囲の生地のサイズや形状、素材を巧みに選ぶことで、内容物にテンションが絶妙に加わって、走っていても物が飛び出さないように工夫されています。さらに、生地に汗や雨を吸ってもすぐに乾くような素材が使われており、常に軽量かつドライな状態を保つことができます。

TR ROCKETは、ショートレンジのレースから1泊2日のトレイルまで、幅広い用途に対応できます。入れる物の量に応じて、トップのベルトを調整することで容量が変わります。

そのほかのTRシリーズでは、背面の真ん中にダブルジッパーがついていて、下からも上からも物が簡単に出し入れできます。上部はベルクロで閉じるようになっていて、物が飛び出すようなことがない。特に長距離レース中は疲労で意識がぼんやりし、正常値の30%ぐらいのパフォーマンスでしか操作ができなくなるもの。そんな状況でも、ガバっと開けて視覚的にも簡単にアクセスできる設計が、非常に助かります。

THE NORTH FACE ティーアール10
https://www.goldwin.co.jp/ap/item/i/m/NM62393

THE NORTH FACE ティーアールロケット
https://www.goldwin.co.jp/ap/item/i/m/NM62392

(左)ザ・ノース・フェイス「ティーアール10」軽量・耐久性・通気性を求め、部位によって生地を使い分けている。(右)ザ・ノース・フェイス「ティーアールロケット」は『TR』の大型(15L:Mサイズ)。TRシリーズはいずれもショルダー部分に、上段の可動式ストラップを加えた3本のチェストストラップを配置し、フィット性とホールド性を向上させている。細部にわたり、走りやすさ、使いやすさを追求したザックだ。

——近年のザックの進化やトレンドについて教えてください。

鏑木:TRシリーズの登場は世界のトレランザックのレベルを大幅に引き上げました。素材の面では、以前は湿るととても重くなり、汚して洗濯したときの乾きも遅かったのですが、TRシリーズは乾きがとても早く、すぐに軽くなります。トレランでは、長時間走る中で悪天候を経験し、ザックが濡れることが多いので、この点が改善されたのは特に大きいです。

こうした改良は、製造元のゴールドウインがランナーからのフィードバックに応えて実施されています。ゴールドウインが日本で開発・生産するTRシリーズの開発では、我々のインプットが反映されるまでのスピードが、シューズ以上に早いことに驚かされました。さらに日々進化を続けています。

THE NORTH FACE RUN
https://www.goldwin.co.jp/tnf/run/

このとても小さな入れ物には、ときには100マイル、数十時間も走り続けるために必要なものが詰まっている。ランナーが命を託す大切なギアだ。

<つづく>

鏑木 毅
2009年世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(現UTMB、3カ国周回、走距離166km)」にて世界3位。

また、同年、全米最高峰のトレイルレース「ウエスタンステイツ100マイルズ」で準優勝など、56歳となる現在も世界レベルのトレイルランニングレースで常に上位入賞を果たしている。

著書に「アルプスを越えろ!激走100マイル(新潮社)」「トレイルランニング入門(岩波書店)」、「トレイルランナー鏑木毅(ランナーズ)」、「トレイルランニング(エイ出版)」、「全国トレイルランコースガイド(エイ出版)」「トレイルランニング~入門からレースまで~(岩波書店)」などがある。

2009年のウルトラトレイル・デュ・モンブランでの世界3位はNHKドキュメンタリー番組(DVD「激走モンブラン」)となり、日本でのトレイルランニングの盛り上がりの火付けとなった。
2011年11月に観光庁スポーツ観光マイスターに任命される。
現在は競技者の傍ら、講演会、講習会、レースディレクターなど国内でのトレイルランニングの普及にも力を注ぐ。

アジア初の本格的100マイルトレイルレースである「Mt.fuji100」の大会会長を務める。また自らがプロデュースしたトレイルレース「神流マウンテンラン&ウォーク」は2012年に過疎地域自立活性化優良事例として総務大臣賞を受賞、疲弊した山村地域の振興、地域に埋もれた古道の再生など地域を盛り上げるモデルケースとなっている。

鏑木毅オフィシャルサイト
https://trailrunningworld.jp/profile/

<写真提供>
鏑木 毅、©富⼠箱根伊⾖トレイルサポート、株式会社GON、ESS JAPAN、アスタリール株式会社、ペツルジャパン株式会社、THE NORTH FACE

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