プレゼントは真っ黒な炭!? サンタの次にやってくる“おばあさん”とは?: 大矢麻里&アキオの毎日がファンタスティカ!イタリアの街角から#23
大矢 麻里 Mari OYA/イタリア在住コラムニスト 2025.01.15ものづくり大国・ニッポンにはありとあらゆる商品があふれかえり、まるで手に入れられないものなど存在しないかのようだ。しかしその国の文化や習慣に根ざしたちょっとした道具や食品は、物流や宣伝コストの問題からいまだに国や地域の壁を乗り越えられず、独自の発展を遂げていることが多い。とくにイタリアには、ユニークで興味深い、そして日本人のわれわれが知らないモノがまだまだある。イタリア在住の大矢夫妻から、そうしたプロダクトの数々を紹介するコラムをお届けする。
年明けまで続くクリスマス
日本の商業施設の多くでは1月25日が終わると、一瞬にしてクリスマス飾りから正月飾りに切り替わる。いっぽうイタリアでは、25日が過ぎても、街中や家庭にツリーをはじめ飾りが残されている。といっても、イタリア人が無精なわけではない。教会暦においてクリスマスは終わっていないからなのだ。
12月25日に馬小屋で誕生したイエス・キリストを祝福しようと、はるばる東方から三人の博士が旅立つ。彼らが到着したとされる1月6日は、エピファニア(公現祭)と呼ばれる。暦ではその日までがクリスマス期間であり、飾りも片付けないのだ。
箒(ほうき)にまたがって
エピファニアには、こんな伝説もある。三人の博士がイエス誕生の地を目指していたときのこと。道に迷った彼らは、途中で出会ったおばあさんに道案内を依頼するも、忙しさを理由に断られてしまう。
いっぽう、おばあさんは断った直後に、博士たちの役に立てなかったことを後悔。幼子イエスに捧げるお菓子を携えて家を飛び出すが、三博士に追いつけない。そこで、沿道にある全家庭に立ち寄り、「このなかに、きっとイエスがいるに違いない」と考えて子どもたちにお菓子を渡していった。
その話がかたちを変えて「エピファニアの前夜は、箒(ほうき)にまたがったおばあさんが煙突から入り、贈り物を置いていく」といわれるようになった。イタリアでは、なんとサンタクロース以前から一般的だった。おばあさんの名は「ベファナ Befana」。Epifaniaが転じたものといわれている。
イタリアの子どもにとって、エピファニアはクリスマスに続く待ち遠しい日である。前夜、つまり1月5日の夜に、彼らは贈り物を入れてもらう靴下を枕元において眠りにつく。言い伝えによると、ベファナはサンタクロースより意地が悪い。良い子にはちょっとした玩具や菓子を入れる。いっぽう、悪い子には暖炉で燃え残った真っ黒な炭を放り込んでいくのだ。
それにちなんで年末から年始にかけて、お菓子屋さんでは、いたずら用に炭そっくりの黒い砂糖菓子「カルボーネ(イタリア語で炭)」が売られている。ベファナ役の親は、靴下の底には喜ぶお菓子を隠し、上の見えるところにはカルボーネを置いて、翌朝起きた子どもをドキッとさせるのだ。
ベファナに変装したものの……
エピファニアには、イタリア各地で消防署によるイベントが催される。ベファナに扮した消防隊員が市庁舎などの屋上からロープをつたって降りながら、お菓子を撒くのだ。下で待つ子どもたちが我先にとキャッチする様は、日本の地鎮祭で祝い餅やおひねりを奪い合う光景を思いださせる。
私はといえば、かつて「知人の子どもたちの家に、ベファナ姿で訪ねてみよう」と思いついたことがある。しかし私がやるよりも、夫を変装させて“お笑い”をとることにした。衣装もメイクもバッチリ、彼は箒にまたがって知人宅のドアを開けた。
親たちには大ウケしたものの、肝心の子どもたちは恐怖のあまり泣き出した。段ボールで作った大きな鼻がリアルすぎて、相当不気味に映ったようだ。彼ら以上に、張り切っていた我が夫が一番しょげていた。私も「来年はベファナは連れてこなくていいから、プレゼントだけ持ってきて」と、子どもたちに約束させられたのだった。