フォーミュラEシーズン11総括。面白さもマシンもさらなる進化へ
J.ハイド 2025.11.2311月5日、フォーミュラEから新世代「Gen4」のマシンが発表された。最高出力は現行バージョンの約1.7倍、2020年のF1マシン並みだという。この「Gen4」が実際にレースバトルを行うのは2026年末にスタートするシーズン13からだ。現行マシン最後となる新シーズン開幕戦を前に、シーズン11の最終戦と今後の進化について、本誌フォトグラファーのJ.ハイドがレポートする。
ベルリン会場は旧飛行場
フォーミュラEが最もその魅力を発揮するのは、市街地レースである。2025年シーズン11の最後を締めくくるのはまさしくベルリンとロンドンという欧州を代表する市街地で行われた4レースであった。
ベルリンの会場は、かのテンペルホフ空港跡地である。第2次世界大戦に詳しい方ならご存知のドイツ軍の要所であり、戦後も対ソビエト連邦の西側諸国の基地となった場所だ。
同空港は昨今の機体の大型化に対応できないとされ、2008年に空港としては閉鎖された。以来公園施設として徐々に整備が進められ、2015年にフォーミュラEが初めて開催されて以後、ほぼ毎シーズンのようにレース会場となっている。
空港内にはダグラスDC4が置かれており、ナチス建築の代表作とも言われるターミナルビルと相まって、ここでしか見ることの出来ないアイコンだと言えよう。
最寄り駅からも歩いて数分と至近であり、その内の一つの駅「Luftbrücke」の周辺には地元民が利用するようなカフェや食堂が並ぶ。どの店も時間帯によっては混んでいるが、地ビールと共にソーセージなどのベルリン名物料理をリーズナブルに楽しむことができる。
また、これは後日にドイツ各都市を回った際に感じたことだが、街中を走るクルマは歩行者に対して本当に穏やかである。筆者のように取材のためにスーツケース大のバッグでカメラ機材を持ち運ぶ人間にとっては、安心して歩ける街でもある。
さて、レースは7月12日13日と週末の2日間がメインであったが、11日のフリープラクティス(以下FP)、14日月曜のルーキーテストと合わせるとたっぷり4日間の日程であった。ルーキーの中には男性はもちろん、マドリードのテストから参加しているF1アカデミーの女性ドライバーも4名参加していた。
FP1はドイツ母国開催ということで、ポルシェのパスカル・ウェーレインがトップに立つ。昨年のワールドチャンピオンでもあり、自身もドイツ出身であることから、まずは順当な結果といえよう。
しかし、予選が進むにつれ、シーズン後半から復調しているジャガーTCSとモナコを制したエンビジョンレーシングがフロントローとなり、注目のシーズントップ、日産のオリバー・ローランドはグリッド3番手となった。
ポイント次第ではオリバー・ローランドがワールドチャンピオンになる可能性もあり、期待が高まるレース本番だったが、決勝はあいにくの雨模様。それが災いしてか、濡れた路面に翻弄され32周目で接触、オリバー・ローランドはリタイアとなってしまったのだ。
結果、チャンピオン決定は翌日の次戦に持ち越された。同時に日産はいつものドライバー、ノーマン・ナトーの代わりに出走したセルジオ・セッテカマラも15位に留まったことから、コンストラクターズチャンピオンシップは大きく後退することとなった。
続く2日目の予選を制したのは好調のポルシェのパスカル・ウェーレイン。2位にはモナコあたりから徐々に上位に食い込み始めたクプラ・キロのダニエル・ティクトゥムと続く。
注目のオリバー・ローランドは予選3番手だったはずが、ペナルティのため8番グリッドからのスタート。しかし得意のエネルギーマネジメントで、最終的には4位でフィニッシュ。
この段階でシーズン2位のパスカルとのポイントを59点差として、ついに日産のドライバーが世界チャンピオンとなったのだ。年間チャンピオン決定の喜びに溢れるオリバー・ローランドと日産チームだったが、祝勝の正式なセレモニーはロンドンの最終戦の後となった。
翌日のルーキーテストも男女の若手ドライバーが交錯し、華やかなものとなった。筆者はマドリード・テスト以来の取材となったが、やはり20代の若手ドライバーはフレンドリーでSNSを意識してか、撮影に際しても非常に協力的であった。
ロンドン最終2戦にはマーベル作品がタイアップ
そして2週間後のロンドンの大型展示会場、「エクエルセンター」での最終2戦。日産はコンストラクターズをかけてのレースとなった。
市街地レースの中でも、ここロンドンは部分的に室内を走行するコースレイアウトとなっていることから、多くのLEDが配されたフォーミュラEのマシンの美しさが際立つ。ストレート後方からはここでしか撮れない独特のシーンもあり、多くのフォトグラファーが狙うポイントだ。
また今回は同時期に世界公開されたマーベルの新作映画「ファンタスティック4」がタイアップ。コースの多くの部分にハリウッド映画のタイトルサインが配置されるという興味深いものとなった。
筆者をはじめとする日本から参加の関係者、ファンは当然ながら日産のコンストラクターズ優勝に期待を寄せた。が、初日、2日目とも結果としてオリバー・ローランドもノーマン・ナトーも全く振るわず、年間タイトルはポルシェチームに決まった。
さらにシーズン11でドライバーのニック・キャシディとチーム代表のジェームズ・バークレーが離れることが決まったジャガーTCSレーシングが大きく奮起する。
まずニック・キャシディはロンドンのラスト2レースで優勝したことで、ドライバーランキングではシーズン2位となった。同時にチームランキングでもベルリンの2戦も含めて、合計4レースで連続優勝したことから、コンストラクターズ2位となったのだ。
結果的に日産のコンストラクターズは次シーズン以降に持ち越されることとなった。しかし、最終日に行われたオリバー・ローランドのワールドチャンピオン決定セレモニーは、初優勝という事もあり、大いに盛り上がるものとなった。
実際に見ると評価が変わる
筆者は2024年3月の東京開催で、テレビ観戦では感じられなかったそのスピードと迫力に驚いた。またマシンが美しいこと、ドライバーはもちろんチームの感情の爆発がドラマチックなことから、2024年11月のマドリードでのテストからフォーミュラEを追いかけた1年であった。
FIA公式レースマシンとして、最も多くのLEDを光り輝かせ、市街地やナイトレースに加えて、ロンドンでは屋内まで走ることができるのは、まさにBEVマシンならではと言える。また今年から一部のレースで導入されたレース中の急速充電「ピットブースト」は、意外と順位に影響を及ぼさず、まだそのパフォーマンスを発揮しているとは言い難い。
全世界的なBEVの販売減速から日本では否定的な意見も少なくないフォーミュラEだが、それはテレビ放送しか見たことがない人のものが多い。しかし、一度実際の走行シーンを会場でリアルに見た人達は口を揃えて「想像以上の迫力だ」、と評価が逆転する。
またレースごとでは把握しにくいが、シーズンを通じるとコンスタントに強いチーム、ドライバーが見えてくる面白さもある。この辺りは近年のF1が序盤で圧倒的に強いチーム、ドライバーが見えがちなのに対し、フォーミュラEはシーズン中にじわじわ明らかになる感覚だ。
そしてシーズン12に向けて、各チームとドライバーが発表され、いくつかの入れ替えがあり、10月最終週にはバレンシアでプレシーズンテストが実施された。日本からもスーパーフォーミュラのスケジュールの合間を縫って参加した野田樹潤選手がジャガーTCSから出走し、大いに話題となった。
シーズンを通して見ると、フォーミュラEは従来のモータースポーツの枠を飛び出し、スタートアップ企業のように軽やかで様々な可能性に満ちているように見える。本番のマシンを使って行われる女性ドライバーセッションやルーキーテスト、映画作品とのタイアップもその良い例だ。
先日発表になったGen4は、現在のGen3 Evoの最高出力350kw(約476PS)から600kw(約816PS)に。アクティブディファレンシャルを備え、従来の予選や決勝レースの特定のフェーズだけでなく、常時四輪駆動となる。
現在のF1は1.6リッター V6ターボエンジン単体で約840馬力と言われているので、ほぼそれに匹敵すると言っても良いだろう。そしてその強大なトルクを受け止めるタイヤには日本のブリヂストンが採用されている。
大都市で体験できる世界レベルのモータースポーツ、フォーミュラE。マシンにおいても、面白さにおいても、その進化は想定を超えて加速する一方なのだ。