STORY

「ちょうどいい」ことの心地よさ

田中 誠司 ロイヤルエンフィールド INT650 2022.07.01

なかなか出会えないフィット感

「自動車にさんざん乗ったリターンライダー」である筆者の経験が、専門のモーターサイクル・ジャーナリストほど豊富でないことは認めるとしても、総論として、乗用車以上にモーターサイクルは「自分にちょうどいい」と感じさせることが少ないのは、たぶん本当のことだと思う。

トップスピードを求める人、コーナリングのGに酔いしれる人、淡々と長距離を走るのが好きな人、どこへでも行ける踏破性能を欲する人、そしてそれらのバランスを求める人。ライダーの体格によって同じモデルでも評価は分かれてしまうから、モーターサイクルへの要求は千差万別・多種多様だ。

そんな中で、今回試乗した「ロイヤルエンフィールドINT650」は、自分の経験値と体格(172cm・68kgの標準的日本人)で無理せず付き合えて、かつ深い満足が得られそうな、なかなか出会えない「ちょうどいい」一台であることを、箱根往復のライドを通じて確認した。

スタイリッシュなGT、イージーなINT

INTの名はロイヤルエンフィールドが旧来から用いている「インターセプター」というモデル名に由来する。排気量648ccの並列2気筒SOHC・4バルブ・エンジンと車体の基本構造を、「コンチネンタルGT650」と共有する。

クルーザー志向の強いINT650は、アップハンドルにリラックスできるポジションのステップと、フラットなシート、ティアドロップ型の13.7Lタンクを組み合わせている。カフェレーサーを再現したコンチネンタルGT650は、セパレート・ハンドルにバックステップ、パッセンジャーと段差を設けた戦闘的なシートにスリムな12.5Lタンクの組み合わせとなる。

photo: Royal Enfield ハンドル、タンク、ステップ、シートがINTとは異なる「コンチネンタルGT650」のプロファイル。

パッと見た感じ、スマートで個性的なのはGTの方だと感じる人が多いと思う。しかし大柄な人なら気に留めないのかもしれないが、これら2台は思いのほか着座位置からトップブリッジまで距離がある、つまり燃料タンクが前後に長いため、筆者の体格だとGTは結構、手が遠い。ロング・ツーリングではINTのほうが自分としては格段にリラックスできた。INTはGTよりステップが前方にあるため、自然に跨った位置からステップとペダルの間にまっすぐ足を下ろせば力が伝わりやすく、いざというとき踏ん張りが効くのも嬉しい。

これらふたつのモデルに共通するコンポーネンツは、前後とも18インチの堂々としたスポークホイール、大きく張り出した空冷4バルブ・ヘッドに大容量のクランクケース、後方へ跳ね上がった2本のメガホン型マフラー、そしてそれらを支えるハリス・パフォーマンス設計のダブルクレードル・フレームだ。

カワサキW800、トライアンフ・ボンネビルT100、モトグッツィV7スペシャルといった、他社のノスタルジックな2気筒ネイキッドと比べると、INTとGTは排気量が限られることもありエンジンパワーでは及ばないものの、巻数の多いスプリングに別体式リザーバー・タンクを加えたリアサスペンションや、ハンドルバーを補強するハンドルブレースなど、競合車種以上に入念な装備も身につけている。

カラーバリエーションが豊富なこともロイヤルエンフィールドの特徴だ。ライバルたちはボディバリエーションを含めても2〜3種に限られるのに対し、INTは7種、GTは5種から選ぶことができる。

そして最大の強みは価格だろう。6月から若干値上げされたといっても、ほとんどのグレードで100万円を切るロイヤルエンフィールドの650ccモデルに対し、他社は概ね130万円前後が中心だ。

バーハンドルにはハンドルブレースが備わり、剛性を高め振動を抑えている。左右シリンダーの直前に備わるオイルクーラーはブラックアウトされフレームとフィットしている。

目一杯、回せるパラレル・ツイン

英国の伝統的な様式といえるパラレル・ツインは、270度の点火間隔が与えられ、V型エンジンに近い波動のサウンドをアイドリングから伝えてくる。けれども、カウンターバランサー内蔵ゆえか、排気量のわりに軽いクラッチを放って走り出すと、伝わってくる振動が控えめでスムーズなのが印象的だ。

身体で感じる回転感覚が滑らかで、低速トルクが充実しているだけに、47.5psという数字から想像する以上にパワーに余裕があるように思われる。

タウンスピードで3000rpm足らずでの対話を楽しみ、そこからスロットルを開けていくと、踊るような、それでいて抑制の効いた鼓動感が得られる。パルスの早まりにつれて力感が高まり、レヴカウンターが頂上を超える。中低速トルクだけに重きを置いたエンジンと違い、パワーのテンションが途切れないまま、気がつけばリミッターが効く7500rpmに達しているといった具合だ。

モーターサイクルに我々が跨るとき、その目的は単なる移動のためでないことが多い。日々の暮らしで我が身に積もった埃を風で振り払い、もっと自由な環境に自分を、自分の意志だけで運べるというのは、ほかのツールでは得難いカタルシスなのではないか。

いかにクラシカルな風合いを大事にしたモデルであっても、乗用車ではなくモーターサイクルに乗るからには、その日ごとに一度か二度は、トップエンドまできっちり回し切って日常の生活で溜まった心の中の澱を浄化したい。ロイヤルエンフィールドのバーティカル・ツインは、そうしたバイク乗りの一瞬の欲求に公道上で応えてくれる、ちょうどいいパワーの持ち主なのだ。

英国を中心に培われた長い歴史が、INTの均整の取れたプロポーションには息づいている。

クラシカルでありながら現代的

今回の取材では都心のタウンスピードから高速道路、箱根のワインディング・ロードまでひととおりのコンディションを体験した。かつては世界グランプリにも参戦していたハリス・パフォーマンス社が手掛けたフレームと、英国のプルーヴィング・グラウンドに併設されたテクノロジー・センターで磨かれたサスペンションの組み合わせは、ノスタルジックな外観から想像するよりずっと落ち着いた乗り心地と安定したハンドリングを示し、いつまでも走り続けられるような安心感を与えてくれた。

カフェレーサー的なコンチネンタルGTとINTは共通のサスペンション設定を持つようで、つまりINTはクルーザーとしてはしっかり目の、姿勢変化が目立ちにくい足回りとされており、多少ペースを上げても不安に感じる機会はなかった。

「一生に一度はレーサーレプリカに乗りたい」と思いながら、巡り合わせでヤマハSR400に手を出してしまった自分は、最終的にどこへ落ち着くのだろう、という疑問がふと頭をよぎることがある。自分にとって自然体で付き合えるバイクを探したとき、意外とこのあたりに落ち着くのだろうか、と思えた、INT650との邂逅だった。

リアサスペンションには可変プリロードと別体式リザーバータンクを備えるコイル・ダンパー・ユニットが備わる。前後ブレーキはABSを搭載。

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