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ドローンを知ると世界がわかる#02 

J.ハイド 2022.07.06

カメラ業界の地殻変動もドローンから

写真家、J.ハイドです。2022年6月、写真業界を揺るがす報道がありました。名門「ハッセルブラッド」を手中にしたドローンのトップメーカー、DJIが、今度はなんとパナソニック、ライカ、シグマ、ライツ・シネレンズのレンズマウント規格である「Lマウントアライアンス」の公式メンバーになったのです。

しかし現在予定されているのは、35mmフルサイズセンサー搭載のジンバルカメラが新たにLマウントレンズを装着できるようになる「Lマウントユニット」のみ。ドローンへの搭載は次の発表を待つことになります。

その一方で、6月21日から幕張で開催された「ジャパンドローン2022」には、ハッセルブラッドを上回る高性能、高価格のデジタル中版カメラ「フェーズ・ワン」がドローン搭載機種を展示していました。同社の製品はいずれも1億画素以上、価格はレンズ込みで800万円前後からという桁外れの高スペック・高額機です。現在は主なターゲットとして大規模構造物の精密点検の撮影を謳っています。

この業界の流れは、言うまでもなく昨年発表され、今年から実用に入ったソニーの「Airpeak S1」がフルサイズミラーレス1眼、α7シリーズの搭載を押し出したことに端を発します。つまり、ドローンの飛行性能や安全性が飛躍的に増し、墜落及び紛失の可能性が低くなったため、高額・高性能の映像システムが搭載しやすくなった訳です。ならば最高の映像を届けたいクリエイターにドローンを含めたシステムとして提供しよう、という動きがカメラ業界で活発になりつつあると思われます。

そもそもコンパクトデジタルカメラで「RX100」シリーズに代表される高級機に採用されている1インチセンサーを最初に開発、主力商品としたのはソニーです。

高級コンパクトカメラ用としてバランスが良い1インチセンサーはその後、キヤノンやパナソニックも次々と採用し、いわば「高級コンデジ」の代名詞ともなりました。そしてこの日本のカメラメーカーが育てた1インチセンサーこそがドローンの映像を飛躍的に向上させたのです。

photo: J.ハイド 初代から殆ど大きさが変わらない1インチセンサーカメラの代名詞「RX100M5」と、同じく1インチセンサーを積む「DJI Air 2S」。文中の「ファントム4 Pro」から重量で約43%の小型化を実現している

地上波の放送クオリテイでドローン撮影が業界で話題になったのは、スタジオアマナの「airvision」撮影チーム(当時)によるNHK大河ドラマ「真田丸」(2016年放送)のオープニングでした。ただし、この時はまだカスタムメイドの機体に4kgを超えるレッド社などのプロ仕様の動画カメラを搭載したものが主力でした。DJI 「ファントム3」も現場に投入されていましたが、あくまで3Dデータ収集としての撮影機材と公開資料から伺えます。

そして2016年末、「ファントム4 Pro」にソニー製2000万画素の1インチセンサーが搭載され、24mmの広角レンズによる4Kで毎秒最大60フレーム(以下60P)の撮影が可能になった事で、放送現場で一挙にドローンの実用性が高まりました。

マスターデータが4K60Pであれば、高精度な静止画の切り出しはもちろん、広角から画角調整するなど後からのさまざまな加工も経ても、フルハイビジョンに落とし込むことが可能だからです。

また「ファントム4 Pro」は30万円を切る価格ながら、飛行時間も約30分であり、結果安全マージンを見込んで20分というのが実際の運用時の基準となりました。

つまり目視外に近い遠隔地まで5分程度で移動して、15分程度の撮影を行い、戻ってきても3割程度の余力があり、バッテリーアラームが鳴る前後で着陸が可能です。強風下や寒冷地ではさらに稼働時間を少なく見積もる必要がある空撮で、この余裕は絶大と感じられました。

またこれ以前の機種や、2016年10月に発表された初代「MAVIC Pro」は1/2.3インチというスマートフォンと同様のセンサーでした。4K毎秒27フレーム撮影を可能とした「MAVIC Pro」のカメラは1200万画素、画角28mmという事もあり、クオリテイが高い動画を撮影するには、正直天候やロケーションの色彩に恵まれる必要がありました。

しかしその頃、「唯一の競合」と言われたフランスのパロット社のドローンは同じ1/2.3インチセンサーサイズながら、フルHD動画が限界だった事から、4K空撮ドローンとしてDJI独走体制の基盤が出来上がります。

この「ファントム4 Pro」の登場によって様々な現場で4Kによる空撮が一般的になり、ドローンの映像制作のレベルが飛躍的に向上しました。つまりソニーの1インチセンサーの商品化、大量生産がなければ、今日のドローンの発展はかなり遅れていたと思われるのです。

photo: J.ハイド 「DJI Air 2S」のカメラ部分。前回紹介した「MAVIC 3」とは異なり絞り羽がないF2.8開放値固定レンズである。このカメラに「ハッセルブラッド」のロゴを冠していないこともDJIのブランドに対する理解を物語っている。

極まった空撮

そして日本のカメラメーカーが産んだもう一つの規格が、「マイクロフォーサーズ」です。

「マイクロフォーサーズ」はオリンパスとパナソニックの日本のメーカー2社によって提唱されました。小型軽量で動画・静止画のレンズ交換式システムを検討していたDJIはこの機構を独自の動画カメラに採用し、2015年に中型機「インスパイア1」に搭載します。

さらには「ファントム4 Pro」と同スペックの1インチセンサーカメラとマイクロフォーサーズのレンズ交換式の2つのシステムを擁する「インスパイア2」を2016年に発表。「インスパイア2」は「ファントム4 Pro」の最大速度72km/hを圧倒する最大速度94km/hの機体性能とダブルバッテリーの安全性を兼ね備え、ついに世界ラリー選手権(WRC)の撮影に投入されます。

このシステムの美点は、同じ「マイクロフォーサーズ」であれば、オリンパスやパナソニックのレンズも使用できた事でした。超広角や中望遠まで、軽く高性能なレンズも非常に安価に入手できたのです。

photo: J.ハイド 「インスパイア2」と「マイクロフォーサーズ」センサーカメラ、レンズはオリンパス12mm F2.0による鋸山の撮影。通常のカメラで24mm相当になるが、隅々までの解像度に驚かされる。

その後、さまざまな撮影で培ったノウハウから、「インスパイア2」は最終的にはAPS-Cのセンサーを搭載し、6K動画の収録を可能とするに至りました。

ただ、当時ではあまりに高額なシステムであり、また大容量6K映像の編集環境も発展途上だったためにさほど普及はしなかったと記憶しています。

6K動画収録のサンプルとして、今後はおそらく撮影不可能と思われるロシア、サン・ペテルスブルグの映像が2018年2月に公開され、現在もYouTubeで見ることが出来ます。そしてその4K再生の美しさに、度肝を抜かれます。

「Winter Saint Petersburg Russia 6K. Shot on Zenmuse X7 Drone」

厳寒のロシアの市街地で堂々と撮影が行われていることからも、万が一の事故は絶対に許されず、クルーも相当の覚悟と自信を持って撮影に臨んだはずです。

この映像から4年経った今、ドローンの空撮は、同じレベルの映像をさらに安全に長時間撮影できることを目指して発展してきました。

「インスパイア2」の6K収録にも劣らない、ソニー 「Airpeak S1」の実機による豊かな映像が今年から少しずつ公開されています。同機の飛行時間などの様々なスペックの課題は、やがて時間が解決していくことでしょう。

日本のカメラメーカーは1インチセンサーやマイクロフォーサーズセンサーを開発、主力商品とした事を通じて、ドローン空撮の発展と普及に大いに寄与してきました。そして今日の高性能ミラーレスの搭載、今後の更なる高画素機の搭載トレンドについても、日本のカメラメーカーが大きく関わっていくと思われます。

次回は2022年6月に施行された日本のドローン規制や保険の実情に関して、オーストラリアでの撮影経験も交えてお話しいたします。

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