ドローンを知ると世界がわかる #06
J.ハイド 2023.05.18ドローン国家ライセンス取得
写真家、J.ハイドです。2022年の12月からスタートした国家資格、「二等無人航空機操縦士」に関して2月に学科・実技とも試験合格。3月に技能証明のライセンスカードが届きました。
市販されているドローンのほぼ全てに当たる25kg以内の機体を、自分で登録した上で、人口密集地区(DID地区)、夜間、目視外を一定の管理下で飛行できる資格です。もちろん飛行計画書の提出も必要ですが、まずは国家公認のドローンパイロットの仲間入りを果たしました。
試験合格からライセンスカードの発行までは、かなり根気よく試験サイトとDIPS2.0の間を行き来して必要書類を登録、申請しなければなりませんでした。が、これも安全飛行への“修行”ということで淡々と手続きをし、無事に国家資格を持った操縦士となることができました。
もちろん国が従前に推奨していた民間ライセンスの知識や、これまでの飛行経験は非常に役に立ちますので、初心者の方は適切な民間ライセンスの取得から入るのが良いように思います。
また適切にDIPS2.0に機体登録すれば DID地区外は現状でも飛行可能ですので、安全最優先でライセンス取得に向けて飛行時間を重ねることをお勧めします。
DJIから新型機、続々
この4月に入り、本コラムでも再三取り上げたドローンのトップメーカー、DJIから新型機が続々と発表されました。
中でも従来から映画制作の空撮で使用されていた、最上位シリーズの新型機「Inspire 3」が13日に発表され非常な注目を集めました。なぜなら、とうとうフルサイズセンサーを持つカメラが標準搭載されたのです。
実機の確認は5月下旬以降になりますが、8Kで毎秒75フレームの動画撮影に加えてカメラだけ360度のパンはもちろん上方に80度チルトした状態で撮影が可能。肝心の飛行時間も28分と前機種の「Inspire 2」から5分伸び、フルサイズセンサーミラーレス搭載で約20分間飛行可能という性能で競合するSONY 「Airpeak S1」をさらに突き放す事になりました。
安全面でも全方位障害物センサーを備え、トラブルに備えたダブルバッテリーも「Inspire 2」から継承。あとは緊急時のパラシュートなどが純正オプション設定されないか?も注目です。もしそうなれば、国交省が設定した“第三者上空の飛行が可能”な「第一種型式認証・機体認証」をクリアする可能性が、最も高い市販機種になるからです。
価格面でもレンズまで揃えると200万円超ですので、アマチュアが手を出せるレベルではありませんが、業務用の動画カメラが空を飛ぶと考えれば、映像制作会社が導入するには抵抗のない価格だと感じます。実際、「Airpeak S1」も機体本体に必要な送信機、ジンバル、そしてミラーレス1眼のα7シリーズを揃えるとほぼ同様の価格帯になります。
もちろん「Inspire 3」の真価がわかるのは、実機の飛行を確認してからとなります。しかし「Inspire 2」を一時期所有していた経験からは、時速97キロという高速飛行の威力は絶大です。
気象状況も千差万別で完全目視外となるので、極めて稀な例ですが、仮に1km先の小島を撮影場所と想定してみましょう。離陸からほぼ1分前後で到達し、15分の撮影を終えて離陸地点まで戻ってきても17分強と恐らくは25%近くの余裕を残しての帰還となりそうです。それであれば動画で2分・4-5カットの撮影には十分です。
唯一の弱点は、現状のレンズライナップが18mmから50mmとやや広角よりである事です。
しかし、この点を補うかのように4月25日には24mmに加え、70mm、166mmと中望遠、望遠という3眼カメラを備えた「Mavic 3Pro」が発表となりました。こちらは5月中旬以降に納品がスタートします。
静止画も含めてあらゆるプロの撮影現場では2台持ちが常識です。ましてや墜落の可能性が皆無ではないドローンでは3台が理想でしょう。その意味では、「Inspire 3」と「Mavic 3」および「Mavic 3Pro」は、全て5K以上の撮影が可能でカラーのデータ補正も揃えやすく、焦点距離やズーム機能を補完する無駄の少ない組み合わせとなることが理解できます。
プロの撮影、全てを世界規模で窺う?
本年2月、3年ぶりとなるカメラ機器の国際展示会「CP+2023」が横浜で開催されました。DJIは独自ブースを持たず、同じくLアライアンスを組むシグマ社のブースでLマウント対応が発表されたばかりの一体型動画カメラ「Ronin 4D」を展示するに留まっていました。
この「Ronin 4D」は「Inspire 2」と同様のバッテリーシステムであり、またマウントがSONYのEマウントをはじめ、さまざまなカメラメーカーのものにも対応しているのが当初から話題でした。もちろんジンバル機能や映像伝送などを網羅しており、あとは実戦の場での耐久性が示されていけばという段階でした。
「CP+2023」の展示だけを見れば、流石のDJIもやや展開スピードに翳りが見えたかのように感じましたが、その2ヶ月後の「Inspire 3」や「Mavic 3Pro」という追加機種までトータルで考えると、静止画以外のプロ品質の撮影システムがほぼ同一メーカーで揃う事になります。「Ronin 4D」と「Inspire 3」のカメラは基本同じなので、DLマウントレンズも共有できるのです。
つまり現場ではレンズが共有でき、撮影時に同じカラー設定でRawの動画データが揃う事となり、その後のワークフローの効率化に大きく貢献する事になります。
しかも静止画においてもDJIはすでに「ハッセルブラッド」を手中にしています。今後、同ブランドで35mmやマイクロフオーサーズ、1インチセンサーのカメラを出すことは容易でしょう。交換レンズはライカが提唱し、パナソニックやシグマとともにDJIがアライアンスを組むライカLマウントが100本以上も揃っています。
製造業の中でいまだに日本がトップを走る高品質なデジタルカメラ。プロの報道の現場では、揺るぎないシェアであり性能的にも優位性があるとされています。またスマートフォンの普及で一旦底を打った需要はミラーレスという技術革新で回復基調にあり、2026年には世界で3兆円規模に成長すると言われています。(業界別市場シェアデータベース「デイールラボ」調べ)
もしこの市場において、ドローンメーカーと目されていたDJIが総合カメラメーカーとして本気の開発を仕掛けてきた場合、あるいはすでに動画分野で定評のある豪州のBlackmagic Designとのアライアンスに至った場合はどうでしょうか?
実際の映像制作に統一したワークフローの概念を重要視していない日本のカメラメーカーにとって、相当なインパクトになるのでは?と考えてしまうのです。
次回は、ご紹介したDJIの最新機種に関してレポートします。