PF DIARY

製菓芸術の競艶

2022ジャパン・ケーキショー東京を訪ねる

田中 誠司 2022.11.03

年に一度、東京で日本中の菓子職人が腕を競う「ジャパン・ケーキショー東京」にお邪魔する機会があった。

身の丈1mを超えるピエスモンテと呼ばれる巨大なアメ細工、チョコ細工を筆頭に、バタークリームの表面に絵画のような詳細描写をしたケーキ、マジパン(アーモンドと砂糖を練ったもの)でエモーショナルな世界観を表現したケーキなどが美しさ、そして種目によっては味を競った。

アメ細工はアメだけ、チョコ細工はチョコだけで構成しなければならないルールがある中で、素材をより美しく見せる技術とカタチのオリジナリティを追究している。

アメのピエスモンテは素材のクリアな美しさが魅力。左下の作品は一台のケーキと組み合わせられており、このケーキの味も審査対象となる。右下の作品中央では巨大なアメ玉が対岸の景色を映し出す。

アメ細工の花びらのひとつひとつは、手で引き伸ばして一枚一枚作られるらしい。練り方と温度で表面の艶や色が変化するそうだ。

吸湿するとアメの表面から光沢が失われてしまい美しく見えないので、とにかく部分部分を作るたびに、シリカゲルで完全に湿度を抜いた乾燥ケースに仕舞うのが大変だという。

こうした大作の出品者には当地一流の菓子専門店のほか、有名ホテルのコンフェクショナリーも目立った。感性を磨くために、並行して生け花を習っている制作者もいるという。

こんな繊細で巨大なものを買う客がいるのか、と同行した元・菓子店経営者に訪ねたところ、「いないよ、これはあくまでコンテスト用だし、掛かってる時間に応じて値段なんてつけたらいくらになるかわからない。まあ、バースデーケーキの上にアメで作った花を載せてください、というくらいはあるけどね。1個数千円とか」

1個だけ、というわけにはいかないだろうけれど、こういうコンテストに出しているような有名菓子店に頼んで、記念日のためにちょっと特別なケーキを作ってもらう、というのは彼女のハートを射抜くのに、なかなかいい作戦なのではないだろうか。

連合会会長賞が各カテゴリーのウィナーに与えられる。

チョコレートのピエスモンテには彫刻が施されているものもあり、アメよりも逞しい存在感があるものが多いが、テンパリングという温度と時間の設定がうまくいくと表面を艷やかに光らせることもできる。たまにいただく高級チョコレートで、きれいな色で美しく輝くものがある。それは職人による入念な温度管理によってこそなしうるのだ。

バレンタインデーにいただいたチョコレートが仮に小ぶりなケースに入っていたとしても、中身の一粒ずつが輝いていたなら、それはそのプレゼントに彼女が奮発してくれた証拠である。

こちらはチョコレートのピエスモンテ。いわゆる鋳造・切削部品が多いせいか、アメよりも機械的、あるいは動物的な作品が多い。

下の熊の脇に吊るされ、4色に彩られたボールは、艷やかでとてもチョコレートには見えないが、ルール上ここにはチョコしか使えないことを考えれば、“鋳造”されたチョコレートであるのは間違いない。

左がチョコレート。重量感のあるものは何でもうまく表現できそうだ。右がアメ。こちらは透明感が持ち味だ。
マジパンの細工を載せたケーキはユーモラスなものが多い。家族の食卓が特別な笑顔に包まれるだろう。
背の高いウェディングケーキはシュガークラフトだ。バタークリームの上に描かれる文字や柄はすべて手書き。転写なども使わないとのこと。

入場料は一般1,500円。それぞれの展示物の間に囲いがなく、キレイな写真が撮りにくいのでSNS発信には向かないけれども、それぞれの作品はとても見ごたえがあってつい長居してしまった。

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